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第79話 聖間戦争1 開戦

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『こちらはもうダメです……至急応援を!』
「こちらも手一杯だ! 応援は送れない!」
 
 一人、また一人と意識を刈り取り進むクリアはたまたまそんな通信をしている王国騎士の声を耳にする。
 
 ——敵対宣言した割には『ディールーツ』から購入した通信機しょうひんを使ってるんだ。まあ、便利だからなぁ。
 
 しかし、それはクリアにとって都合がいい。
 むしろどんどん使って欲しいと思う。
 
 何故なら、『ディールーツ』から購入した物であれば通信を受信するだけでクリアは相手の情報を拾い放題だからだ。
 
 『ディールーツ』上層部に所属しているクリアをはじめとした幹部クラスの端末は、緊急時に備えてあらゆる『ディールーツ』が作成した通信できる道具の通信を強制的に受信できるし、それに向けて発信することもできる。
 
 倫理的にそれを日常で悪用する事はないが、今は戦争の渦中だ。
 
 利用できる物は全て使う。
 
「……それ、使ってもいい事ないですよ」
「ぐ……あぁ……!」
 
 言わなくてもいい、というよりも言ったところで既に意味をなさない・・・・・・・忠告を独り言のように呟いたクリアは、意識を失い寄りかかって来た騎士をそっと地べたに寝転がす。
 
 今のが、クリアが攻め込んだ方角に配置されていた『セインテッド王城』を守っていた戦力の最後の一人だ。
 
 ——さて、今の通信で各方面滞りなく攻め込めているみたいだし、ボクもさっさと中に進もう。
 
 クリアが一人で攻め込んだ方角は、正門側。
 
 要するに、真正面からバカ正直に攻め入りその場を鎮圧した。
 
 クリアは周りに転がっている兵士や王国騎士に警戒するように視線を向けながら正門まで足を進めて行く。
 
 正門は当然の如く王城に入る跳ね橋は上げられており、中に入るには橋を下ろさなければならない。
 
 普段ならこの日中という時間帯なら門番を付け、下ろされている桟橋だったが、昨日送りつけたイクス王へのクリアのメッセージを読み対策したのだろう。
 
『明日、白昼堂々とこちらの最高戦力を投入して力の差を見せ付けに行きますので首を洗って待っていてくださいね』
 
 完全に「一国の主」へ送る内容とは思えない文章ないようだが、至ってクリアはまじめにそう送った。
 
 それぐらいの煽り文を書いてしまうほどには、ヒカリの件で頭に来ていたからだった。
 
 現状へと思考を戻して冷静に状況を分析する。
 目の前にあるクリアの侵入を拒むように完全に門を隠すように上げられた跳ね橋は、さながらもう一つの門に見えた。
 
 恐らく、王の聖属性の能力ちからで【分解】を遅らせるおまけもついているだろう。
 
「いや、おまけなら門と跳ね橋同士を結合している可能性もあるのか」
 
 独り言で状況確認をしながら、少しだけ後ろに転がっている人々を見る。
 
 ——どうやら完全に意識を失っているみたいだね。
 
 声に出したのは、それを聞いた兵士ないし騎士が「その通り!」と言わんばかりに背後から起き上がって来ないか確認するためだった。
 
 それも無い——あくまで念入りに確認しただけで、一応倒した時点で意識が無いのは確認していたが——事を確認したクリアは、跳ね橋と門を飛び越えて侵入しようと【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】を跳ね橋の一部に引っ掛けようと伸ばした。
 
 しかし、伸ばした【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】は跳ね橋に到達する前に見えない何かに引っかかり、それ以上前に進めることは出来なかった。
 
 その事実をクリアが確認したと同時に、王城の西側——正門は方角的には北側を向いている——から雷属性特有の音を含んだ轟音が鳴り響くのを聞いた。
 
 ——派手にやるなぁ。まあ久々に実戦していいですよって許可も出したし、張り切るのも無理はないか。
 
 ついでに言えば、「ゴールドとのリベンジができる」とも伝えていたので、早くやりたいのだろう。
 
 今のは、西側担当のライズが最大威力まで高めた【雷撃の大鎌ボルテック・デスサイズ】を放った音だ。
 
 彼もまた、クリアと同じくこの王城を包む結界とでもいうべきモノを破壊するため自らの最高火力おおわざを早くも放ったのだろう。
 
 ——飛ばしすぎてゴールドさんと戦う際にバテてなければいいけど。
 
 まあ、それ以上にきつく釘を刺しているとはいえライズが誰かの命を奪っていないかの方が懸念すべきかとクリアは続けて思った。
 
 ……【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】が未だ跳ね橋に到達しないとなると、今の一撃でもこの結界は壊れてくれなかったらしい。
 
 ——かなり複雑な術式で組み立てられているけど、核となっているのは風と聖属性か。
……結局、あなた方はそちらに着くんですね、グリーンさん。
 
 少し残念に思いつつ、しかし元より争う運命さだめにあると理解したクリアは今度こそ、彼らが持つルーツを奪うと決意し、それを証明するようにより一点に【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】を収束させ結界にぶつける。
 
「威力による一点突破も難しい、か」
 
 結界には綻び一つ入っていない事を【分析】したクリアは、密かに考えていた術式を使うため、一度【無属性】の能力ちからを引っ込める。
 
 そのついでに、耳に付けた小型の通信機を起動して各方角から攻めているライズをはじめとしたメンバーに状況の説明をした。
 
「そんな感じです。ライズさんのあれ・・で破壊できないとなると、正攻法では突破できなさそうなのでボクが上から破りますね」
 
 各々に少し離れるようにと伝えると、力属性のエレメントをキャスティングして足に集中させる。
 
 普段クリアが戦闘時にその華奢な体からは想像できない力を発揮しているのは、力属性と雷属性の二つの術式による身体強化バフを常時自分にかけているからだったりする。
 
 その術式に使用するエレメントは人が動くために自ら体内で生成する力属性と雷属性のエレメントを用いる事で簡単に維持できる。
 
 それこそ、【無属性】の能力を使っている間でも維持できるこれらの術式は、体格差をものともしなかった『アスラカチミオ』でのレッドとの小競り合いでクリアが勝ったことからもその凄さがわかるだろう。
 
 【常力強化ストロング・スタイル】。
 クリアが開発した複合術式ともまた違う術式それは、現在のように身体の一部に集中することができ。
 
「……さあ、行こうか」
 
 足へ集中させた【常力強化・脚部パワード・レッグスタイル】により、クリアは一瞬で王城を遥かに超える高さへと飛び上がった。
 
 クリアが飛ぶための発射台とされた地面は、その力を受け切れず小さなクレーター状となっていた。
 
 おおよそ王城の真上に飛んだクリアは、続いて岩属性のエレメントをキャスティングし、左手を握りその術式名を叫ぶ。
 
「集え、【ギガントレット】!」
 
 術式に従い、クリアの左拳から先に岩属性の分子が次々と集まり、完成したそれはクリアの身長、体積を遥かに超える巨大な岩の拳となった。
 
 普通に使えば動けなくなるほどの重量を持つこの岩の拳術式は、重力を逆手に取れる空中から落とすように使うことでその絶大な威力を発揮する。
 
「いっけぇーー‼︎」

 様々なエレメントをキャスティングできるクリアだからこそ実現させたそれは、下手をすれば王城を中にいる者ごと押し潰す隕石の如く落下し、結界に直撃した——。
 
 
 
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