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第78話 話し合い4

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 突然のヒカリの行動に、当然というべきか全員が彼女に注目する。
 
 しかし、ヒカリはそんな視線を気にすることもなく興奮気味に口を開いた。
 
「なんで……なんで王女様が私の昔の生活を夢で見ているの⁉︎ ……ですか⁉︎」
 
 ……どうやら彼女は興奮すると敬語を忘れる癖があるらしい。
 
 そんな取って付けた敬語の言葉にイエナは特に気にすることもなく——こちらの応対に反応しない事について言うのも今更な気もするが——返した。
 
昔の生活・・・・、ですか? ……そうですか、あれはヒカリさんの現実と繋がっていた夢だったのですね」
 
 イエナの言葉から、クリアは共感覚・・・という言葉を思い出す。
 
 こちらもごく稀にしか話題に上がってこない言葉だった。
 
 双子だったり、相当近しい間柄の相手が感じている、又は見ているものを何らかの形で自分が受信して同じ記憶や感覚を共有する現象だ。
 
 そもそも何の根拠も無く、多くの人はその話を聞いても信じないため言葉はあるが研究している者はいないとされるものだ。
 
 ——まさか、共感覚が実際に存在するなんて。それに、王女が共感覚でヒカリの感覚を共有できなくなった理由は……?
 
 共感覚については色々な説を考察できそうで、つい少しだけ考えてしまいそうになるが、クリアは今すべきことでは無いと頭の奥に仕舞い込んだ。
 
「これで、少しは裏付けが取れたかもしれませんね。
理由は不明ですがヒカリが『セインテッド王国』、それも王族生まれだということ。
そして、あの道具がヒカリの意識を奪えなかった理由も」
「ちょっといいかしら?」
 
 クリアの言葉に、手を小さく上げてブルーが割り込むように言った。
 
「ヒカリさんがもし王族出身だったとして、それが今回我々がどう動くかという議題とは関係無いんじゃない?」
「そうでもないですよ」
 
 ブルーの質問に、クリアは否定で返す。
 
「王が隠したかった事。一つはあの道具の出どころでしょう。
ところが、もう一つあの道具のせいで本来知り得ない隠していた事柄を知ってしまったんですよ」
「それって……?」
 
 クリアの説明を前に、イエナが少しこわばった表情で聞く。
 
 共感覚のことを知った事による不安からくる反応なのか否か、それはイエナにしかわからないが。
 
 そんなイエナに、クリアはヒカリに視線を移して答える。
 
「なんらかの理由で幼い頃にヒカリを王国から追放した」
 
 その声は、少しだけ普段より低かった。
 
「タチの悪い事に、イエナ王女や家臣の人々、そしてヒカリからイエナ王女の姉妹として生まれた事実を隠蔽したんでしょう。聖属性にそういった記憶を奪ったりする能力ちからがあるのはあの道具で実証済みですから」
 
 あの道具は、もっと使い方を極めればピンポイントで狙った記憶を奪える可能性があるということでもあった。
 
 事実、クリアが説明された使い方では使用用途が不明の紙がまだ残っている。
 
 それに、あえて提供者が命令術式の紙を何枚か渡さなかった可能性も大いにある。
 
「そして何故王が再びヒカリの存在を隠蔽しようとしたのか。……それは、ヒカリが何の巡り合わせか、敵対する予定だったこの『ディールーツ』に所属しているからかと」
 
 別にクリアは『ディールーツ』に所属していることが悪いと言っているわけではなかった。
 
 グリーンも王に申していたが、『セインテッド』は『ディールーツ』に関わる全ての人を敵対、もしくは迫害することはない。
 
 今更ながらの事実だが、祭りに出店していた表事業の人達は無事に撤退作業を進めて帰って来ている。
 
 それにグリーンの要求を呑んでいるはずだとクリアは踏んでいる。
 
 あの王は『所有者ホルダー』を自分の傘下に加えることを優先しているはずだから。
 
 ではそんな条件下で、何が同じく表事業に所属している……いや、既に組織の裏側に巻き込んだ以上、所属していた・・・・と言った方が正しいか。
 そんな平凡に過ごしていたヒカリを排除、または再び存在を隠蔽しようとするのか。
 
 それは恐らく、王がヒカリの存在に気が付いた時点でクリアやミヤという組織の中心人物と共にいた事を知ってしまったから。
 
 情報が不足しているのなら、クリアと関わっている時点で『ディールーツ』の裏側に触れている、もしくはその仕事に手を染めていると考えても仕方ないだろう。
 
 要するに。
 
 ——また・・、ボクのせいだ。
 
「王は手を切る原因となった『ディールーツ』のルーツ回収にヒカリが携わっている可能性があると考えたのかもしれません。それが確かなら、偶然だとしても王族の人間が携わっていることを万が一にも知られるわけにはいかない」
 
 この場に、緊張が走った。
 
 誰かが、ごくりと喉を鳴らした。
 
 それほどまで、あの『セインテッド王国』の中心に君臨するセインテッド・アーク・イクスという人物が如何に非情であるかを、想像してしまったから。
 
 これは、イエナやブルーの表情を見れば想像してしまったことを悟るのは容易いことだったため、クリアは確信を持って断定した。
 
 しかし。
 
 ——でも、ボクのせいだというのなら。
 
「でも、絶対にそんな事はさせない」
 
 ——対立したというなら丁度いい。
 
「イエナ王女や『セインテッド王国』の人々には申し訳ないですが……」
 
 ——今度こそ、自分の力で。
 
「『ディールーツ』という組織がどれほどの組織であるかということを、思い知らせてあげますよ」
 
 ——守るんだ。
 
 
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