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第75話 話し合い1

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「……とりあえず、この場に足を運んでもらえたこと、感謝しようイエナ王女、ブルー殿」
 
 対面に座るイエナとブルーに対して、ガウスが言葉にする。
 
 イエナはものすごく緊張した様子で、しかしきちんとガウスに視線を合わせて軽く会釈した。
 
 続いてブルーはバツの悪そうな顔をしながら「どうも……」と返した。
 
 互いに思うことがあるのだろう。
 
 そんな重苦しい雰囲気の中、この会議室で話し合いが今始まろうとしていた。
 
 ——時間は少し遡る。
 
 クリアがイエナとブルーに話し合う場を設けるべきと伝えた後、二人はすぐにでもそうべきと返してきた。
 
 イエナを『セインテッド』に返すにせよ、ブルーはイエナの口利きがあったとしてもあの王の様子では一筋縄で元のポジションに復帰することは難しいだろう。
 
 そういったことも含めて彼女達も早く話を進めたいのかもしれないと思ったクリアは、早急に会議室を押さえて二人を案内した。
 
 会議室で話し合いをすることをガウスに伝えた後、ガウスも問題の解決に向けて忙しい中すぐに時間を割いてくれたらしい。
 
 クリア達四人——加えてクリアが抱えたままのミヤ——が会議室に到着した時には既にガウスが着席して待っていた。
 
 そこからガウスの隣にミヤを抱えたクリア、ヒカリと並ぶ。
 
 その対面の座席にイエナとブルーに着席してもらい今に至るわけだ。
 
「それで、早速本題に入ろう。我々はそちらの国に直々に敵対宣言をされた訳だが、それに関しては正直どうでもいい」

 ——ど、どうでもいい?
 
 ガウスの言葉にその場にいた全員が衝撃を受けた顔をした。
 
 言葉の真意を読み取れず、全員がガウスの次の言葉を待たざるを得なくなり自然とガウスに注目が集まる。
 
「いや、別に取り引き相手としてないがしろにしていたと言った意味ではない。何故そういう結論に至ったかは定かではないが、現実的に敵対したとして我が『ディールーツ』に何をするつもりだったのかね?」

 ガウスの問いに、答えていいべきか迷ったのだろうか。
 
 少し間を空けてブルーが返す。
 
「……具体的には『所有者ホルダー』達をこちらの味方につけ、こちらの独自の調査による『ディールーツ』より先にルーツの回収する。
及びその間にそちらと回収時にぶつかり合うのであれば全面的に交戦するつもりだったわ」
「つまり、我々のルーツ回収の妨害が目的だと」
 
 ブルーの説明にガウスは淡々とした言葉で確認した。
 
 それに対し、ブルーは首を縦に振り再び口を開く。
 
「『ディールーツ』の最近のルーツ回収のやり方は流石に目に付くわ。
遺跡の調査を断られた場合の対応・・やルーツの情報を聞き出すために村一つ焼き払ったりね。
以前に比べてなりふり構わなくなっていることに対し、『セインテッド王国』と同盟を結んだ国や領土から話が来たりした。
我々はそれに対し事態を重く受け止めた結果、敵対し妨害をすることに決定したのよ」
 
 ブルーから出た情報に、元より関わっていなかったヒカリは疑惑の視線をクリアとガウスに向けてきた。
 
 そして向けられた視線に対し、クリアはどう返しせばいいかわからなかった。
 
 クリアですらそこまでやっていることを知らなかったのだから。
 
 思い返せば、ライズがゴールドの村をあんな風にしてしまっていたのはまだ序の口だったのかもしれない。

 イエナはイエナで、王女という立場でありながらそれに関与する話を一切聞かされていなかったようで、ブルーとガウスの顔を交互に見ている。
 
「……確かに強引に進めることもあった。しかし、その後の復興と支援に対し、こちらは全面的に支援して対応しているはずだ」
「それはそちらが勝手に許可無く話を進めて用件が済んだら勝手にしていることでしょう⁉︎」
 
 ガウスの言い分に納得いかない様子のブルーは、少し口調を荒げて反論する。
 
 しかし、ガウスは冷静な態度を崩さず、クリア達と視線にも動じず話を続ける。
 
「では逆に聞こう。こちらは最大限譲歩した条件を提示したつもりだ。
例えば調査の際にかかる迷惑料として村への金銭の支払いや『ディールーツ』の開発した道具などの提供をだ。それに対し大した言い分・・・・・・も無く交渉を拒否して我々を追い返そうとした。
そしてその拒否した村人達の我々へのその言い分だが」
 
 ガウスは一度言葉を切り、目を閉じた。
 
 何か、思うことがあるのだろうか。
 
 クリアを始め、まだ続きそうなガウスの言葉を待つ。
 
「『元より我々がこの地に住み、先祖代々守って来た物だ』と。
私が直々に交渉におもむいた際、そう言われた。
そこで私は思った訳だ。たったそれだけのちっぽけな理由でルーツや遺跡を自分達の物と主張する愚かな者達だと」
「愚かなって……」
 
 ようやく話に入ってきたイエナの反応に対し、少しヒートアップしたようにガウスは口調を荒げ自分の考えを主張する。
 
「愚かであろう! 元来、ルーツは貴殿らが知っているように素晴らしい力を秘めているものだ! それを有効活用もせず、あまつさえ如何なるものか理解しようともせず代々守って来たものだからと、
それだけの理由で我々が総力を注いできた遺跡やルーツの研究や保護を否定するなど、愚かでしかない!」
 
 そこまで言い切ったガウスは、おもむろに立ち上がり、ブルーを指差して続けた。
 
「そもそもブルー殿。キミの持つ水のルーツも、『アスラカチミオ』の遺跡に火と風のルーツと共に収められていたものだろう。
それをどういうわけか我々より先に遺跡の謎を解明し、持ち去っただろう。
ご丁寧に水のルーツに関する情報を遺跡から消し去っ破壊して。それは我々が強引にルーツを回収するよりも酷い行いでは無いのかね?」
 
 ガウスの言葉に、ブルーはすぐに答えることはできなかった。
 
 恐らく、彼女自身も正当な行いでは無いと思っているのもあるだろうが、それ以前にガウスの勢いに気圧されているのだろう。
 
 話し合いという場として設けたにも関わらず、気圧されていることでクリアすら話に加われていないのだ。
 
 実質、ガウスとブルー二人だけのルーツに関する言い合いになってしまっている。
 
 クリアとしてはガウスの言い分はそれなりに理に適っていると思うし、大体何故『ディールーツ』がなりふり構わない行いをし始めてきたのかわかったことはありがたいとは思った。
 
 ……これに関しては、組織の人間としてそう思うだけなのかもしれないし、自分の『アスラカチミオ』の村のような対応を正当化したかっただけかもしれないが。
 
 しかし、話の論点はそこではないようにクリアは思えた。
 
 一瞬自分に抱えられているミヤの寝顔を見た後、手を開けてクリアは口を開く。
 
「……あの、ボス。少しいいですか?」
「なにかね」
「確かに妨害の目的等は知るべきだったかもしれません。しかし、今すべき話はルーツの回収についてでは無く、今後『セインテッド』とどう接していくかではないでしょうか」
 
 今一度クリアはミヤを見る姿をガウスに見せることで、言いたいことを察してもらおうとした。
 
 そんなクリアの思惑を理解したのか、落ち着いたようにガウスは着席し直した。
 
 
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