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第68話 無音空間を突破せよ!

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 クリアは触れた分子の塊を誤って吸収しないよう気を付けながらその塊の数を大まかに数えてみた。
 
 およそその数、十数個。
 
 つまり、あの誘拐事件の被害者の数と大体あっている。
 
 ——これらが被害者ミヤ達から抜き取られたものに違いない。
 
 そう確証を得たクリアは、各々の分子の塊の大きさの違いを探った。
 
 中には、他の塊より一際小さい塊が二つ・・・・・・・・・あるように感じたが、あまり気にせずクリアは【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】を道具内部から引き出し、口の蓋になるように道具の口のすぐ上でそれを止める。
 
 すると再び聖属性のちからが口から出ようと姿を見せたが、当然口から出ることなく光を放つだけで留まった。
 
 クリアは札状の紙から『止める用』と書かれた紙を道具にかざす。
 
 それに合わせる用に道具から今にも溢れようとしていたちからは道具の中に戻って行き、何事も無かったように沈黙した。
 
 ——後はどうやってエレメントを奪われた本人達に戻すかだ。
 
 残念ながら『出す用』と書かれた紙はあるが、それがそのままエレメントを道具の中から出すのか、それとも自動的に持ち主の元に戻すのか仕様がわからない。
 
 ——せめて、『戻す用』の紙があればすぐわかったのに……。
 
 心の中で愚痴を言いつつある程度の道具のギミックがわかったところで、次はこの空間に閉じ込められている状態をどうにかしなければならない。
 
 ——……ブルーさんも連れて行った方がいいのかな?
 
 クリアじぶんを手引きした裏切り者として扱われブルーは、王が考えを変えない限りこのままだとこの国にはもう居られないだろう。
 
 それに、クリアは一応この城内にいるはずのレッド達も気になってはいる。
 
 そんな中でクリアがひとまずやるべきことは二つ。
 
 一つはこの状況を打破すること。
 
 そしてもう一つは直接誘拐犯の元へ行き、なんとしてもあのエレメントを持ち主に戻す方法を吐かせること。
 
 脅すか取り引きするかは後で考えるとして、大まかにその二つをするにあたりどう動くべきかクリアは考える。
 
 ——幸い、イクス王はボクらの命を取るつもりでは無いようだし。
 
 それは、先程の声が出せない状況から判断したことだった。
 
 エレメントを遠隔で聖属性の分子の作用で結びつけることができるなら、この場の風属性のエレメントをクリア達が体に取り入れられないようにすれば迅速かつほぼ確実に呼吸させずに命を奪うことができる。
 
 それに、捕らえて自分の元に連れて来る用に言っていたことも裏付けになるとクリアは考えていた。
 
 ——理由はわからないけど、イエナ王女の安否を確かめるとか情報が欲しいからとか大体そんな感じだろう。
 
 クリアが部屋に閉じ込められてから、それなりに時間が経っている。
 
 そろそろ包囲網を作って出て来るのを待っている可能性を確かめるため再びクリアが扉に手をかける。
 
 しかし、先程と変わらず扉はびくともしなかった。
 
 ——まだ全勢力とやらが集まっていないのか、それとも外のブルーさんとボクが合流しないように妨害しているのか。
 
 ブルーが後方支援系の術式を得意とする戦闘スタイルだとしても、エレメンタルアームズの『所有者ホルダー』である以上、城中の全勢力を集めても、即鎮圧できるかと言えば恐らく不可能だ。
 
 ……ただし、ブルーがこの国に真に忠誠を誓っており裏切り者として扱われることを受け入れるなら話は別だが。
 
 扉が開かない以上はその線は薄そうだが、音での情報すら入ってこないこの状況でそれ以上考えるのは無駄になるだろう。
 
 それに、後一つクリアには確かめなければならないことがあった。
 
 ——この道具に使用されている聖属性の術式、普通に考えれば『セインテッド』王家にしかキャスティングできないエレメントを使用している以上、なんらかの関与はしているはず。
 
 この道具に聖属性の術式が施されていることを知れるのは、現状聖属性の正体を知っている『セインテッド』王家の人間か、王が【無属性】について知っていればクリアしかいない。
 
 そのクリアが道具を調べ、そのことを知られることを王が嫌がった可能性も大いにある。
 
 ——だいぶきな臭い話になってきたな。
 
 嫌な感じを覚えたクリアは、少しだけどうするか最終確認を自分の頭の中でする。
 
 そして——。
 
 【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】を扉に向けて思い切り密着するように体中から放った。
 
 扉を構成するエレメントは聖属性によりそこらの石壁より強固な壁となっていたが、全力で【分解】を進めるクリアの【無属性】の前ではほんの数十秒でその形を吸収された。
 
 扉が消えたことで、部屋の外の現状の光景がクリアの目に入ってくる。
 
 そこには、エレメンタルアームズを手に取り水を壁のように空中から流す術式を行使しているブルーの姿があった。
 
 それ以外は、水の壁が分厚くはっきりとは見えないが、壁の外からさまざまな術式で壁を突破しようとする王国騎士を中心とした面々が集まっているように見えた。
 
 声が出せるかわからないため、クリアはブルーの肩を出していた【不可視疑の一部パート・オブ・インスペリアス】で軽く叩く。
 
「…………!」
 
 ブルーがこちらに気付くが、まだ声を出せない状態のようだ。
 
 ブルーの口は動いているが、何を伝えたいか伝わってこない。
 
 そんな聖属性の妨害がある中で、エレメンタルアームズありきとはいえこの水の壁を貼り続け攻撃を防ぎ続けるブルーの手腕にクリアは改めて驚かれた。
 
 ——間属性の術式で逃げてもいいけど、もし聖属性が間属性の術式にも関与できて入口がそのまま固定されたら追いかけられる危険性があるな……。
 
 クリアの【どこからでもドア】は、使用した側からでなければ術式をクリアの能力で吸収すことができない。
 
 それに、もし無理に術式を消そうものなら、【どこからでもドア】を移動中の狭間にいる人物が次元の中に消えてしまう。
 
 ——いくら窮地とはいえ、それは命を奪うことと同じだからやっぱり使えないな。
 
 それに一度退散した場合、誘拐犯達が口封じのため始末されてしまうかもしれないとクリアは考える。
 
 ——今のイクス王は目的のためなら何をしてもおかしくない。
 
 つまり、あの四人も共に連れて行かなければならないのだ。
 
 とりあえず彼らから押収した道具は手に持ったが、クリアの【保存空間一号】にしまうのもリスクがある。
 
 ——ここまで追い詰められるか……。
 
 しかし、これ以上時間をかければかけるだけ不利になるのはこちらなのは明白。
 
 故にクリアが出した決断をブルーに伝える。
 
 ——こんな・・・キャスティングしたことはないけど……やるしかない、よね!
 
 クリアは出発前に自分の中に無作為に保持ストックしたエレメントを、ブルーの目の前に現れるようキャスティングする。
 
 ——よし、上手くできた!
 
 クリアがキャスティングしたエレメントはどうにか文字の形を保ちながら、ブルーの前に可視化できる状態で現れた。
 
 
 
 
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