上 下
67 / 94

第66話 侵入成功?

しおりを挟む
「……それで、あんたは後あたしが何をすれば満足して彼女を返してもらえるのかしら」

 給仕されたティーを一口飲んだ後、ブルーは改めてクリアに追求した。
 
 それに対し、クリアは簡単に纏めて返す。
 
「誘拐犯の荷車な時間内にあった物資を渡すか、ボクに直接調べさせてください」
「つまり、せっかくこの王城から離れたカフェ場所で待ち合わせたというのに城に入れろって言いたいの?」
「別に城からボクの元に持ち出して来てもらってもかまいませんが。面倒でしょう?」
 
 敵対宣言をした国側がまさかその相手を昨日の今日で招き入れることになり、さらに自分達の不手際の処理の手助けをされるなど、恥辱の極みだろう。
 
 クリアにとってはこれはある意味、一番効率を求めた結果におまけでついてきた意趣返しになる。
 
 クリアにも今回の件で思うところはある。
 
 ……別に、ある種の意趣返しになるのは望んでいた訳ではないが。
 
 クリアは自分のコーヒーのみものを飲み干すと、さらに続ける。
 
「どちらにせよ、王国側が抑えている彼らの物資の中に目覚めない被害者に対する処置の手がかりがあるはずです。彼らだって売買する女性が永遠に意識を取り戻さないのは……多分困るでしょう」
 
「多分」を付けたのは、取り引き相手がそういった・・・・・趣味の持ち主がいる可能性が話している時に頭に浮かんだからだった。
 
 だが、流石にあの人数を全員まとめて引き取る客がいるような感じではあの時の会話からして無いとクリアには思えた。
 
 とにかく、クリアは一秒でも早く手がかりを自分の目で確認しなければ納得できないのだ。
 
「ブルーさんがいて犯罪道具の研究……少なくても用途や原理を解明できていない以上、ボクの【力】はかなり便利だと思いますが?」
「……はあ、わかったわよ」
 
 クリアの言葉にようやく折れたブルーは、バツの悪そうな顔で返事をし残っていたティーを全て飲み切った。
 
「ただし、ちゃんと話は合わせなさいよ」
「もちろん」
 
 ブルーの最後の恐らく自分自信をこれからの行為に踏み切らせるための言葉に、クリアは二つ返事で返し、席を立った——。
 
 
「おお、ブルー・ティア殿! お疲れ様です! ……そちらの方は?」
 
 王城の門に着くなり、当然ではあるが門番からブルーに声がかけられた。
 
 今は彼女は【水蒸幻影ファントム・ミラージュ】を時、普段の仕事をしている姿に戻っている。
 
 一方で、ブルーはクリアに【水蒸幻影ファントム・ミラージュ】をかけその存在を博識そうな初老の研究員に見えるようにしてくれた。
 
 この術式はやはり他人にもかけることができるようで、クリアはこの術式を後でこっそりと【解析】することに決めている。
 
「あの誘拐犯事件の被害者の回復を急ぐために、わたくしの、昔のツテで術式関係の道具に詳しいこの人を連れて来たのです」
「どうも、ケミス・ラボランです」
 
 クリアがいつもより低めの声を出して偽名で挨拶すれば、門番はブルーの紹介ならばと警戒もせず敬礼して挨拶を返して来た。
 
 すぐさま門は開かれ、ブルーとクリアを通した後元通りに門は閉じられた。
 
 城内のすれ違う人物に挨拶をしながらブルーの後を着いていくと、中に入ってからそれなりに歩いたところで目的の場所に到着したらしくブルーはある部屋の扉の前で足を止めた。
 
「物資はこの部屋の中よ。あの事件以外の物も保管されているからその辺りはあまり詳しく詮索しないでちょうだい」
 
 扉には特に部屋名は記されておらず、どうやら押収した物を保管している部屋らしいことは部屋に入ってからクリアは理解した。
 
 無造作ではないが、決して綺麗に整理されているといった感じでは無く。
 
 恐らく新しく入ってきた押収品を置く机以外所狭しと物が棚や床に置かれているのが目に入ってくる。
 
「この机の上に置かれているので全部ですか?」
 
 見覚えのある枷と、黒い壺のような道具、そして数枚の札のようなサイズの紙が置かれた机をクリアが指を差して聞く。
 
「そうよ。私は外から部外者が来ないか見てるから調べるなら早くして。……ちなみに変に物に手を出そうとしたら一発でわかるようになっているから変な気は起こさないでよね」
「しませんよ」
 
 そうクリアが返せば、ブルーは言葉通り外に出て扉を閉める。
 
 「……さて。一番怪しいのはやっぱりこの壺みたいなやつ、だよね」
 
 見たこともないそれは、明らかに怪しい雰囲気を醸し出しているのだが、それ故下手にさわれない。
 
 そう思ったクリアは先に机の上にある紙を手に取り内容に目を通した。
 
「……これ、何かの暗号かな?」
 
 紙にはなにやら見たことのない文字のようなものが記されていた。
 
 どうやらブルーを含めなお道具の研究が進んでいないのは、この謎の暗号のせいだったようだ。
 
 ——確かに一日でこれを解読するのは難しいだろうな……。
 
 とりあえず手当たり次第手がかりになりそうな言語や暗号の知識を頭から総動員させて当てはめて見るが、なかなかどれも解読には至らない。
 
 ——……あれ?
 
 そういえば、とクリアは一つ思い出す。
 
 ブルーからの報告書に、この暗号についてあの四人に確認したとは記載されていなかった。
 
 ——普通、答えないとしても一応は聞いてみるものじゃないか?
 
 そうは思えど、クリアが回復させてからあの資料を作成するにはそんな時間も無かったかも知れないと思い直し、クリアは色々と思考を巡らせる。
 
 そして——。
 
「……もしかして、ブルーさんはこれを見ていないか、記されていることを理解している?」
 
 どちらにせよ、一度確認しなければ。
 
 そうクリアが思い扉の取手に手をかける。
 
 しかし、扉は微動だにもしなかった。
 
「……これはどういうつもりですか、ブルーさん?」
 
 クリアの声に、ブルーからの返事は無かった。
 
 代わりに聞こえたのは、城内に響き渡る『ディールーツ』社製のスピーカーからの王の声だった。
 
「城内に立ち入りしネズミよ。私に気づかれずに侵入できると本当に思っていたのか?」
 
 クリアはその言葉を聞いて思ってしまった。
 
 ——これが本当にあの賢王と呼ばれたセインテッド・アーク・イクス王なのか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

魅了だったら良かったのに

豆狸
ファンタジー
「だったらなにか変わるんですか?」

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

ガタリアの図書館で

空川億里
ファンタジー
(物語)  ミルルーシュ大陸の西方にあるガタリア国内の東の方にあるソランド村の少女パムは両親を亡くし伯母の元へ引き取られるのだが、そこでのいじめに耐えかねて家を出る。  そんな彼女の人生には、思わぬ事件が待ち受けていた。    最初1話完結で発表した本作ですが、最初の話をプロローグとして、今後続けて執筆・発表いたしますので、よろしくお願いします。 登場人物 パム    ソランド村で生まれ育った少女。17歳。 チャーダラ・トワメク    チャーダラ伯爵家の長男で、準伯爵。 シェンカ・キュルン 女性の魔導士。 ダランサ 矛の使い手。ミルルーシュ大陸の海を隔てて南方にあるザイカン大陸北部に住む「砂漠の民」の出身。髪は弁髪に結っている。 人間以外の種族 フィア・ルー 大人の平均身長が1グラウト(約20センチ)。トンボのような羽で、空を飛べる。男女問わず緑色の髪は、短く刈り込んでいる。 地名など パロップ城 ガタリア王国南部にある温暖な都市。有名なパロップ図書館がある。

処理中です...