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第62話 知るべきこと4
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「贖罪……?」
クリアの言葉に、こくりと頷きながらイエナは頭を下げながら続きを話す。
「あの時は申し訳ありませんでした。私は王女という立場にも関わらず、父上とブルーさんの計画について何も知らなかったのです。さらには、あなたと『所有者』の皆さんが戦っている時に父上が手を出すなどとは思いもしませんでした」
——要するに、王とブルーさんがボクを始末する計画をしていたことに、王女様も利用されていたってことか?
何も知らない自分と自らの成人の生誕祭を父と、昔から姉のように慕っていたブルーに相手を始末する為に利用されていたと知ったとき、彼女はどれほどのショックを受けたのだろうとクリアは同情する。
しかし、同情はするがそれとこれとは話が別だ。
「イエナ王女。あなたがどういう状況下に置かれていたとしても、ボク達『ディールーツ』には関係ありません。それに、ボクは貴方と話すために来たわけでもありません」
クリアの言葉に頭を上げたイエナは、クリアの顔を見て次の言葉を待っているようだった。
「正直聖属性についての情報は助かります。
ですが、ボクがここに来た理由は貴方の父上……つまり国王に交渉しに来たからですよ。
もちろん、こちらが欲しいものを持っているなら貴方でも構いませんが」
クリアはつい時間が惜しいあまり、少し強めの剣幕で言葉を発してしまった。
しかし、イエナはそのクリアの剣幕に怯むこともなく。
クリアが知るイエナ王女は優しく少々弱々しく自分の意見もあまりはっきりと言うタイプではなかったと記憶していた。
だが、今目の前にいる王女は、その責任感故か、成人して人として成長したのか、真剣な顔つきでクリアに返す。
「何を求めてわざわざこの早朝に訪れたのですか?
……普通なら、このような時間に尋ねられても誰も起きてはいないと思われますが」
王女と言葉に、首を振りながらクリアは返す。
「敵対関係になった相手に普通などを求められても困ります。それに、この時間の方が面倒にならずに済むでしょう」
クリアの言葉に「それは、まあ……」とイエナは納得しているようなしてないような曖昧な返事で返した。
「それで、時間が惜しいのでさっさと言わせてもらいますね。こちらが欲しいのは祭りの途中で貴方も巻き込まれた誘拐事件の情報です。
見返りは、情報量に応じた人数の『所有者』の方々の回復でどうですか?」
あまりクリアの提示した条件にピンと来ていないのか、イエナは少し黙り込む。
そもそも、イエナはクリアがこの短時間でこの場にまるであの戦いが無かったかのように立ち振る舞っていることに疑問も抱いていないのか。
そんなことを考えながら、クリアはイエナの返答を待つ。
少しの間、二人の間に沈黙が流れる。
——これ以上王女様に聞いても無駄か。
そうクリアが見切りを付けてイスから立ちあがろうとした時。
それよりも先に、イエナが立ち上がりドレッサーの前まで歩いて行く。
いきなりのイエナの行動にクリアが不意をつかれ中途半端に体に入れた力を抜き立つことをやめ、その行動を眺めていると。
ドレッサーから何かを手にしてこちらに戻ってきた彼女は、それをテーブルの上に置いて見せた。
それは、イエナが触れたからか淡い金色の波動を放つ中心に玉が施された黄色いリボンだった。
「これって……」
思わず声に出たクリアの疑問に、イエナはこくりと頷いた。
「私の聖属性のルーツ……もといエレメンタルアームズです」
クリアはいきなりの展開に、思わずイエナとテーブルの上の聖のルーツを繰り返し見る。
いくらなんでも、先程からのこの王女の行動は不可解で、クリアの頭は少し混乱してくる。
——いったいなにを考えているんだこの人は?
そんなクリアに構わず、イエナは話を切り出してくる。
「……申し訳ありませんが、私はあの事件について知っていることはあまりありません。そして、『所有者』の方々も私の力で少しずつ回復へと向かっております」
「……聖属性のエレメントには回復作用もあると言うことですか?」
「はい。生属性との分子反応により、ある程度回復を促すことができます。
……しかし、それでもブルーさん方が負ったダメージはかなり深刻で……」
それはそうだ、とクリアは思う。
もとよりザ・クロは彼らを本気で殺すつもりであの術式を放ったのだ。
形を残して存命している事が奇跡のようなもので。
それでもクリアは疑問に思わざるを得なかった。
「ルーツを持っていてそれでも全快には至らなかったと?」
この聖属性のルーツも、エレメンタルアームズにまで——このリボンが装飾状態なのかエレメンタルアームズの形態なのかはわからないが——変化している。
つまり、この王女もルーツに選ばれた『所有者』なのだ。
その無限に近いルーツの力を引き出し扱ってなお、『所有者』の一人も全快させることができていないというが何を意味するのか。
クリアにはわからないままだ。
「聖属性にも様々な制約があり、それも相まって峠は越えましたが、まだまだ回復には時間が必要な状態なのです」
特殊な力にはそれ相応の制約がある。
クリアも同じように一見便利に見えて様々な制約に縛られている力を持つ身としてなんとなくシンパシーを感じた。
「ですので、私からの交渉としまして……このルーツをあなたにお渡ししますので、どうか『所有者』の皆様を回復して頂けないでしょうか……!」
そう言いながら再び頭を下げるイエナを見て、クリアは考えを改めることにした。
この王女は、他人の為に惜しげもなく自分の大切なものを譲ることができる人物なのだ、と。
それがもしイエナや国王の計算通りだったとしても、クリアはこの王女に対してもはや敵対心は湧かなくなってしまった。
——まるでレッドさんみたいだな。
クリアには、相手のために例え敵だとしても真摯に向き合う彼の姿が目の前のヒカリに似た顔立ちの少女に重なって見えた。
——しかし……。
イエナには申し訳ないとクリアは思いつつこの条件で譲歩するかは、また別の話だ。
クリアの言葉に、こくりと頷きながらイエナは頭を下げながら続きを話す。
「あの時は申し訳ありませんでした。私は王女という立場にも関わらず、父上とブルーさんの計画について何も知らなかったのです。さらには、あなたと『所有者』の皆さんが戦っている時に父上が手を出すなどとは思いもしませんでした」
——要するに、王とブルーさんがボクを始末する計画をしていたことに、王女様も利用されていたってことか?
何も知らない自分と自らの成人の生誕祭を父と、昔から姉のように慕っていたブルーに相手を始末する為に利用されていたと知ったとき、彼女はどれほどのショックを受けたのだろうとクリアは同情する。
しかし、同情はするがそれとこれとは話が別だ。
「イエナ王女。あなたがどういう状況下に置かれていたとしても、ボク達『ディールーツ』には関係ありません。それに、ボクは貴方と話すために来たわけでもありません」
クリアの言葉に頭を上げたイエナは、クリアの顔を見て次の言葉を待っているようだった。
「正直聖属性についての情報は助かります。
ですが、ボクがここに来た理由は貴方の父上……つまり国王に交渉しに来たからですよ。
もちろん、こちらが欲しいものを持っているなら貴方でも構いませんが」
クリアはつい時間が惜しいあまり、少し強めの剣幕で言葉を発してしまった。
しかし、イエナはそのクリアの剣幕に怯むこともなく。
クリアが知るイエナ王女は優しく少々弱々しく自分の意見もあまりはっきりと言うタイプではなかったと記憶していた。
だが、今目の前にいる王女は、その責任感故か、成人して人として成長したのか、真剣な顔つきでクリアに返す。
「何を求めてわざわざこの早朝に訪れたのですか?
……普通なら、このような時間に尋ねられても誰も起きてはいないと思われますが」
王女と言葉に、首を振りながらクリアは返す。
「敵対関係になった相手に普通などを求められても困ります。それに、この時間の方が面倒にならずに済むでしょう」
クリアの言葉に「それは、まあ……」とイエナは納得しているようなしてないような曖昧な返事で返した。
「それで、時間が惜しいのでさっさと言わせてもらいますね。こちらが欲しいのは祭りの途中で貴方も巻き込まれた誘拐事件の情報です。
見返りは、情報量に応じた人数の『所有者』の方々の回復でどうですか?」
あまりクリアの提示した条件にピンと来ていないのか、イエナは少し黙り込む。
そもそも、イエナはクリアがこの短時間でこの場にまるであの戦いが無かったかのように立ち振る舞っていることに疑問も抱いていないのか。
そんなことを考えながら、クリアはイエナの返答を待つ。
少しの間、二人の間に沈黙が流れる。
——これ以上王女様に聞いても無駄か。
そうクリアが見切りを付けてイスから立ちあがろうとした時。
それよりも先に、イエナが立ち上がりドレッサーの前まで歩いて行く。
いきなりのイエナの行動にクリアが不意をつかれ中途半端に体に入れた力を抜き立つことをやめ、その行動を眺めていると。
ドレッサーから何かを手にしてこちらに戻ってきた彼女は、それをテーブルの上に置いて見せた。
それは、イエナが触れたからか淡い金色の波動を放つ中心に玉が施された黄色いリボンだった。
「これって……」
思わず声に出たクリアの疑問に、イエナはこくりと頷いた。
「私の聖属性のルーツ……もといエレメンタルアームズです」
クリアはいきなりの展開に、思わずイエナとテーブルの上の聖のルーツを繰り返し見る。
いくらなんでも、先程からのこの王女の行動は不可解で、クリアの頭は少し混乱してくる。
——いったいなにを考えているんだこの人は?
そんなクリアに構わず、イエナは話を切り出してくる。
「……申し訳ありませんが、私はあの事件について知っていることはあまりありません。そして、『所有者』の方々も私の力で少しずつ回復へと向かっております」
「……聖属性のエレメントには回復作用もあると言うことですか?」
「はい。生属性との分子反応により、ある程度回復を促すことができます。
……しかし、それでもブルーさん方が負ったダメージはかなり深刻で……」
それはそうだ、とクリアは思う。
もとよりザ・クロは彼らを本気で殺すつもりであの術式を放ったのだ。
形を残して存命している事が奇跡のようなもので。
それでもクリアは疑問に思わざるを得なかった。
「ルーツを持っていてそれでも全快には至らなかったと?」
この聖属性のルーツも、エレメンタルアームズにまで——このリボンが装飾状態なのかエレメンタルアームズの形態なのかはわからないが——変化している。
つまり、この王女もルーツに選ばれた『所有者』なのだ。
その無限に近いルーツの力を引き出し扱ってなお、『所有者』の一人も全快させることができていないというが何を意味するのか。
クリアにはわからないままだ。
「聖属性にも様々な制約があり、それも相まって峠は越えましたが、まだまだ回復には時間が必要な状態なのです」
特殊な力にはそれ相応の制約がある。
クリアも同じように一見便利に見えて様々な制約に縛られている力を持つ身としてなんとなくシンパシーを感じた。
「ですので、私からの交渉としまして……このルーツをあなたにお渡ししますので、どうか『所有者』の皆様を回復して頂けないでしょうか……!」
そう言いながら再び頭を下げるイエナを見て、クリアは考えを改めることにした。
この王女は、他人の為に惜しげもなく自分の大切なものを譲ることができる人物なのだ、と。
それがもしイエナや国王の計算通りだったとしても、クリアはこの王女に対してもはや敵対心は湧かなくなってしまった。
——まるでレッドさんみたいだな。
クリアには、相手のために例え敵だとしても真摯に向き合う彼の姿が目の前のヒカリに似た顔立ちの少女に重なって見えた。
——しかし……。
イエナには申し訳ないとクリアは思いつつこの条件で譲歩するかは、また別の話だ。
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