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第58話 未知という名の病名
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『アンシャネリア』の遺跡でザ・クロからミヤを取り戻す時と同様にミヤを【力】で覆っていく。
以前ならこんな表立って自分の【力】を使おうなどとは思わなかったが、今はヒカリにもバレていることだ。
もはや組織のメンツにバレることなど「そんなこと」ですませようと思えるぐらいにはクリアにとってミヤの容態の確認が優先事項だった。
最大限意識を集中させ、ミヤを一度自分の中に取り込んだクリアはミヤの中に存在するはずの原因を突き止めるため少しずつミヤを構成するエレメントを確認していく。
本来健全な状態の人の体内には存在しないエレメントをクリアが保持しそれ以外を元通りに再構築することで健康体に戻すことができるこの便利な能力のおかげで、原因となっているエレメントはすぐに見つける事ができる……はずだった。
——これって……。
クリアは違和感の正体に気付くと、すぐさまミヤをベッドの上に戻す。
……取り込む前と全く同じ身体構成で。
いきなりクリアの能力を見せられた医療チームは予想通りの反応を見せてくれたが、クリアはそれに反応している余裕を見せることはできなかった。
「あるべきものが……無い」
クリアの口から出たその一言は、正直クリア以外の者には何を言っているかわからないものだっただろう。
「クリア様? あるべきもの、とは?」
医療チームのリーダーがクリアに問いかけてくるが、クリアにもどう説明したら良いのかわからない。
ミヤが目を覚まさないのは、恐らくとあるエレメントが今のミヤの中に欠如しているからだった。
しかし、クリアはそのエレメントについてはっきりとわからない。
そう、そのエレメントとは、クリアが人体を再構築する際に唯一正体がわからないエレメントだった。
故にそのエレメントがミヤの中に何故無いのか、それがどんな属性の作用を起こすものなのか今のクリアにはわからない。
——余計なエレメントを取り除くだけならよかったのに!
自分の【力】でなら助けられると何の疑いも無かったこともあり、クリアはこの端末に凄まじい無力感に襲われた。
「……すみません、わかりません。あ、いや、何と言えばいいのか。今のミヤには、人の体を構成するエレメントの中であるべき種類のエレメントが存在しないんです。そして、それがボクの知らないエレメントでして……」
クリアは動揺してることもあるのか、自分でもきちんと伝わっているかわからない言葉で返した。
その場にいる者はクリアも含めて誰一人として結局ミヤに何が起きているのかわからず途方にくれる。
……そんな中。
部屋の外で待っていた筈のヒカリが、部屋の中の異様な雰囲気に気が付いて気になったのか。
いつの間にかクリアの隣に立って口を開く。
「クリア、ミヤちゃんの様子はどうだったの?」
「それが、わからなくて……あれ?」
ヒカリと言葉を交わしてふとクリアはあることに気が付いた。
それは、すぐ隣にいるヒカリもミヤと同じ被害者にも関わらず普通にしていることだ。
同時に、当時ヒカリと話した時のことを思い出す。
『ごめんねクリア。そもそも、何故かわからないけどどうして私達が捕まってこの荷車にいたのか、全然思い出せないの。気がついたらここに居て……そういえば、私が意識をはっきり取り戻したのは、端末の着信音が鳴った時だったかな?』
確かヒカリも攫われる前後の記憶は無いと言っていた。
それを結びつけて考えてみれば、クリアはある一つの考えに至った。
もちろん、確証があるわけでは無いが。
「ごめんヒカリ、ちょっと一緒に来てもらってもいい?」
「うん? 全然いいけど何処に行くの?」
クリアは思い立ったようにヒカリの手を握り、返事もせず駆け足でミヤの病室を後にした。
手を引かれされるがままのヒカリは不思議そうな表情を浮かべながらも文句の一つも言わずクリアに連れられついていく。
クリアが目指している場所はヒカリと縁の無い場所なので、彼女は同じ組織内ながらも物珍しそうに辺りを見回しながらクリアについてくるのだった。
普段なら移動している中で話しているだろうが、余りに真剣な表情を浮かべているクリアに遠慮しているのか、ヒカリもその口を開くことはせず。
目的の場所に到着するまで、二人は珍しく終始無言だった。
そして、クリアは目的の場所の扉の前に着くと、一度足を止める。
ヒカリが思わず扉に付けられた部屋の名前が書かれたプレートを見て「えっ」と声を漏らす。
そのプレートに書かれた言葉は『代表取締役室』。
クリアにとっては日常的に足を運び、逆にヒカリにとっては全くと言っていいほど訪れたことの無い場所だ。
「クリア?」
流石に突然何の説明も無しにボスの部屋に連れてこられ物怖じしたのか、ヒカリはクリアに意図を訊ねようしたのか名前を呼ぶ。
しかし、クリアはヒカリの呼びかけに何も返すことなく扉をノックした。
中からヒカリにはあまり聞き慣れていないであろうボスの声で一言「入りたまえ」と聞こえると、
すぐさまクリアは扉を開けて「失礼します」と一言言ってヒカリを連れて中に入る。
遅れてヒカリが同じように「失礼します」と言いながら入ると、まるでそれ以上の侵入者を拒むように扉はひとりでにしまったのだった。
以前ならこんな表立って自分の【力】を使おうなどとは思わなかったが、今はヒカリにもバレていることだ。
もはや組織のメンツにバレることなど「そんなこと」ですませようと思えるぐらいにはクリアにとってミヤの容態の確認が優先事項だった。
最大限意識を集中させ、ミヤを一度自分の中に取り込んだクリアはミヤの中に存在するはずの原因を突き止めるため少しずつミヤを構成するエレメントを確認していく。
本来健全な状態の人の体内には存在しないエレメントをクリアが保持しそれ以外を元通りに再構築することで健康体に戻すことができるこの便利な能力のおかげで、原因となっているエレメントはすぐに見つける事ができる……はずだった。
——これって……。
クリアは違和感の正体に気付くと、すぐさまミヤをベッドの上に戻す。
……取り込む前と全く同じ身体構成で。
いきなりクリアの能力を見せられた医療チームは予想通りの反応を見せてくれたが、クリアはそれに反応している余裕を見せることはできなかった。
「あるべきものが……無い」
クリアの口から出たその一言は、正直クリア以外の者には何を言っているかわからないものだっただろう。
「クリア様? あるべきもの、とは?」
医療チームのリーダーがクリアに問いかけてくるが、クリアにもどう説明したら良いのかわからない。
ミヤが目を覚まさないのは、恐らくとあるエレメントが今のミヤの中に欠如しているからだった。
しかし、クリアはそのエレメントについてはっきりとわからない。
そう、そのエレメントとは、クリアが人体を再構築する際に唯一正体がわからないエレメントだった。
故にそのエレメントがミヤの中に何故無いのか、それがどんな属性の作用を起こすものなのか今のクリアにはわからない。
——余計なエレメントを取り除くだけならよかったのに!
自分の【力】でなら助けられると何の疑いも無かったこともあり、クリアはこの端末に凄まじい無力感に襲われた。
「……すみません、わかりません。あ、いや、何と言えばいいのか。今のミヤには、人の体を構成するエレメントの中であるべき種類のエレメントが存在しないんです。そして、それがボクの知らないエレメントでして……」
クリアは動揺してることもあるのか、自分でもきちんと伝わっているかわからない言葉で返した。
その場にいる者はクリアも含めて誰一人として結局ミヤに何が起きているのかわからず途方にくれる。
……そんな中。
部屋の外で待っていた筈のヒカリが、部屋の中の異様な雰囲気に気が付いて気になったのか。
いつの間にかクリアの隣に立って口を開く。
「クリア、ミヤちゃんの様子はどうだったの?」
「それが、わからなくて……あれ?」
ヒカリと言葉を交わしてふとクリアはあることに気が付いた。
それは、すぐ隣にいるヒカリもミヤと同じ被害者にも関わらず普通にしていることだ。
同時に、当時ヒカリと話した時のことを思い出す。
『ごめんねクリア。そもそも、何故かわからないけどどうして私達が捕まってこの荷車にいたのか、全然思い出せないの。気がついたらここに居て……そういえば、私が意識をはっきり取り戻したのは、端末の着信音が鳴った時だったかな?』
確かヒカリも攫われる前後の記憶は無いと言っていた。
それを結びつけて考えてみれば、クリアはある一つの考えに至った。
もちろん、確証があるわけでは無いが。
「ごめんヒカリ、ちょっと一緒に来てもらってもいい?」
「うん? 全然いいけど何処に行くの?」
クリアは思い立ったようにヒカリの手を握り、返事もせず駆け足でミヤの病室を後にした。
手を引かれされるがままのヒカリは不思議そうな表情を浮かべながらも文句の一つも言わずクリアに連れられついていく。
クリアが目指している場所はヒカリと縁の無い場所なので、彼女は同じ組織内ながらも物珍しそうに辺りを見回しながらクリアについてくるのだった。
普段なら移動している中で話しているだろうが、余りに真剣な表情を浮かべているクリアに遠慮しているのか、ヒカリもその口を開くことはせず。
目的の場所に到着するまで、二人は珍しく終始無言だった。
そして、クリアは目的の場所の扉の前に着くと、一度足を止める。
ヒカリが思わず扉に付けられた部屋の名前が書かれたプレートを見て「えっ」と声を漏らす。
そのプレートに書かれた言葉は『代表取締役室』。
クリアにとっては日常的に足を運び、逆にヒカリにとっては全くと言っていいほど訪れたことの無い場所だ。
「クリア?」
流石に突然何の説明も無しにボスの部屋に連れてこられ物怖じしたのか、ヒカリはクリアに意図を訊ねようしたのか名前を呼ぶ。
しかし、クリアはヒカリの呼びかけに何も返すことなく扉をノックした。
中からヒカリにはあまり聞き慣れていないであろうボスの声で一言「入りたまえ」と聞こえると、
すぐさまクリアは扉を開けて「失礼します」と一言言ってヒカリを連れて中に入る。
遅れてヒカリが同じように「失礼します」と言いながら入ると、まるでそれ以上の侵入者を拒むように扉はひとりでにしまったのだった。
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