56 / 94
第55話 ルーツの因果
しおりを挟む
——そっか、ヒカリはずっと……。
『おィ、そんな話をするために俺を呼んだんじゃねェだろォ?』
少し不機嫌そうに言ってきたザ・クロに、「ごめん」と謝りながら状況を整理するためにクリアは情報の提供を促してみた。
意外にも、ザ・クロは知っている事をあらかたクリアに教えてくれた。
『——とまァ、俺が知ってんのはそれだけだなァ』
ザ・クロから得た情報からわかったことはそう多くはなかったが、完全に意識を失っていたクリアからすればありがたいものだった。
一つは、クリアが意識を手放してからそう時間は経っていないこと。
あのクリアが受け損なって以前も死にかけた三重術式である【炎雷の風渦】を取り込んで更に威力を増したグリーンの術式の直撃を——残っていた力全てで展開した【消滅の左手】で多少威力を落としていたとはいえ——受けたのだ。
普通なら死んでもおかしくないダメージだった上、受けた後に無理やりザ・クロが体を動かしたこともありその反動も相まって何度も言うようだが生きているのが不思議なぐらいだ。
それほどのダメージを受けたというのにも関わらず、何ヶ月、何年単位ではなく一日すら経っていないらしい。
——『頑丈』という言葉で片付けていいのだろうか?
自らの体に若干疑問を持ち考えていた時、クリアは今も体中に走る痛みが、徐々に収まってきていることに気付いた。
口元から得ている感触は、おそらく〈生属性〉を供給する生命維持装置のマスクだ。
そこから〈生属性〉のエレメントが呼吸と共に体内に取り込まれるように作られた装置で、理論上生物であれば生きている限り、徐々に体の回復を促進する医療用に開発された『ディールーツ』の技術の結晶の一つである。
〈生属性〉。それは、主に生物の体を構成する生命に関与するエレメントだ。
大抵の生物の体は八十パーセント以上の割合でこの生属性のエレメントで構成されており、体内で様々なエレメントと分子反応を起こすことで体を動かす〈力属性〉のエレメントを生成したり、生物が生きる上で必要な分子反応を絶えず起こす。
それを直接外部から取り込むことで、身体が受けたダメージの回復を促進させる、というものだ。
しかし、これはあくまで回復を促進させるだけであって、体のダメージを直接取り除くものではない。
故に、クリアの目覚め及びダメージの回復があまりにも早いのは恐らくこの装置のおかげではないとクリアは考える。
——そういえば、夢の中で何か聞こえたような……。
先程まで見ていた夢の記憶を探ってみるが、ほとんどクリアの記憶内には夢の内容は残っておらず。
とりあえずクリアは自分の原因不明の高速回復ついては置いておくことにし、次の情報について考えることにした。
二つ目はクリアと同じくこの近くの医療部屋に運び込まれたミヤが未だに目を覚まさないということだった。
原因も未だ究明中らしく、心配する声が——主にヒカリから——聞こえてきていたという話だ。
体が動かせるようになれば、原因を突き止めることに一役買って出ることができるだろうとクリアは考えている。
ただ、今は早く自分の体が回復することを祈るしかない。
そして最後に。
これはクリア自身も自分で感じ取れていることだが、自分の体の中からザ・クロ……もとい〈闇のルーツ〉が存在していることがはっきりとわかる。
恐らくだが、クリアのもつ知識が正しければ、ザ・クロが拒まない限りクリアはザ・クロに体を明け渡さなくてもこの先闇のルーツの力を使うことができるだろう。
しかし、『セインテッド王国』の一件以前までは一切応対の無かったザ・クロが何故突然クリアの窮地に現れその力を振るったのか。
クリアがそんな疑問を頭に浮かべた時、ザ・クロはそれに答えるかのように語りかけてきた。
『……そんなに気になるかァ? 俺がお前を助けたことが』
——そりゃあね。あの遺跡では本気でボクを、そして人間を殺そうとしてたのに。しかもミヤの体を乗っ取って散々ボクのこと煽ってくれたし。
後、ダメじゃないけどあんまり勝手に人の心の声を聞かないでくれたらありがたいんだけど。
クリアはその時の感情を包み隠さずザ・クロにぶつけるよう伝える。
今は成り行きで相棒ポジションの様に頭の中で会話をしているが、元を辿ればザ・クロは本気でクリアと殺し合いを——と言っても一方的に殺意を向けていたのはザ・クロだけだったが——した間柄だ。
クリアとしては大事な妹を苦しめたザ・クロの行いをこのまま流れで無かったことにはできない。
だからこそ、クリアの個人的な感情を除いてもザ・クロがクリアに手を貸した理由がいくら考えてもわからない。
『……お前の体が動かせるようになるまで暇潰しにその辺りの話をしてやろうと思ったが……やめとくかァ?』
——うっ……。
今そのザ・クロの行動の動機を知るのは、ザ・クロ本人しかいない。
痛いところを容赦なくついてくるザ・クロに、クリアは心の中で顔をしかめた。
——逆に、キミは何故ボクに話してくれる気になったんだ? また何か企んでいると考えるのが普通だと思うんだけど。
ザ・クロの話は聞くべきだとはクリアも思うが、やはり急に協力的になったザ・クロを訝しむ気持ちは割り切れなかった。
そんなクリアの問いかけに、ザ・クロはあっさりと返す。
『こればっかりは〈ルーツ〉である宿命ってやつだなァ。お前と出会ったのが俺の運の尽きってやつだっただけだァ』
その言葉は、クリアの心に何故か妙に突き刺さった。
『おィ、そんな話をするために俺を呼んだんじゃねェだろォ?』
少し不機嫌そうに言ってきたザ・クロに、「ごめん」と謝りながら状況を整理するためにクリアは情報の提供を促してみた。
意外にも、ザ・クロは知っている事をあらかたクリアに教えてくれた。
『——とまァ、俺が知ってんのはそれだけだなァ』
ザ・クロから得た情報からわかったことはそう多くはなかったが、完全に意識を失っていたクリアからすればありがたいものだった。
一つは、クリアが意識を手放してからそう時間は経っていないこと。
あのクリアが受け損なって以前も死にかけた三重術式である【炎雷の風渦】を取り込んで更に威力を増したグリーンの術式の直撃を——残っていた力全てで展開した【消滅の左手】で多少威力を落としていたとはいえ——受けたのだ。
普通なら死んでもおかしくないダメージだった上、受けた後に無理やりザ・クロが体を動かしたこともありその反動も相まって何度も言うようだが生きているのが不思議なぐらいだ。
それほどのダメージを受けたというのにも関わらず、何ヶ月、何年単位ではなく一日すら経っていないらしい。
——『頑丈』という言葉で片付けていいのだろうか?
自らの体に若干疑問を持ち考えていた時、クリアは今も体中に走る痛みが、徐々に収まってきていることに気付いた。
口元から得ている感触は、おそらく〈生属性〉を供給する生命維持装置のマスクだ。
そこから〈生属性〉のエレメントが呼吸と共に体内に取り込まれるように作られた装置で、理論上生物であれば生きている限り、徐々に体の回復を促進する医療用に開発された『ディールーツ』の技術の結晶の一つである。
〈生属性〉。それは、主に生物の体を構成する生命に関与するエレメントだ。
大抵の生物の体は八十パーセント以上の割合でこの生属性のエレメントで構成されており、体内で様々なエレメントと分子反応を起こすことで体を動かす〈力属性〉のエレメントを生成したり、生物が生きる上で必要な分子反応を絶えず起こす。
それを直接外部から取り込むことで、身体が受けたダメージの回復を促進させる、というものだ。
しかし、これはあくまで回復を促進させるだけであって、体のダメージを直接取り除くものではない。
故に、クリアの目覚め及びダメージの回復があまりにも早いのは恐らくこの装置のおかげではないとクリアは考える。
——そういえば、夢の中で何か聞こえたような……。
先程まで見ていた夢の記憶を探ってみるが、ほとんどクリアの記憶内には夢の内容は残っておらず。
とりあえずクリアは自分の原因不明の高速回復ついては置いておくことにし、次の情報について考えることにした。
二つ目はクリアと同じくこの近くの医療部屋に運び込まれたミヤが未だに目を覚まさないということだった。
原因も未だ究明中らしく、心配する声が——主にヒカリから——聞こえてきていたという話だ。
体が動かせるようになれば、原因を突き止めることに一役買って出ることができるだろうとクリアは考えている。
ただ、今は早く自分の体が回復することを祈るしかない。
そして最後に。
これはクリア自身も自分で感じ取れていることだが、自分の体の中からザ・クロ……もとい〈闇のルーツ〉が存在していることがはっきりとわかる。
恐らくだが、クリアのもつ知識が正しければ、ザ・クロが拒まない限りクリアはザ・クロに体を明け渡さなくてもこの先闇のルーツの力を使うことができるだろう。
しかし、『セインテッド王国』の一件以前までは一切応対の無かったザ・クロが何故突然クリアの窮地に現れその力を振るったのか。
クリアがそんな疑問を頭に浮かべた時、ザ・クロはそれに答えるかのように語りかけてきた。
『……そんなに気になるかァ? 俺がお前を助けたことが』
——そりゃあね。あの遺跡では本気でボクを、そして人間を殺そうとしてたのに。しかもミヤの体を乗っ取って散々ボクのこと煽ってくれたし。
後、ダメじゃないけどあんまり勝手に人の心の声を聞かないでくれたらありがたいんだけど。
クリアはその時の感情を包み隠さずザ・クロにぶつけるよう伝える。
今は成り行きで相棒ポジションの様に頭の中で会話をしているが、元を辿ればザ・クロは本気でクリアと殺し合いを——と言っても一方的に殺意を向けていたのはザ・クロだけだったが——した間柄だ。
クリアとしては大事な妹を苦しめたザ・クロの行いをこのまま流れで無かったことにはできない。
だからこそ、クリアの個人的な感情を除いてもザ・クロがクリアに手を貸した理由がいくら考えてもわからない。
『……お前の体が動かせるようになるまで暇潰しにその辺りの話をしてやろうと思ったが……やめとくかァ?』
——うっ……。
今そのザ・クロの行動の動機を知るのは、ザ・クロ本人しかいない。
痛いところを容赦なくついてくるザ・クロに、クリアは心の中で顔をしかめた。
——逆に、キミは何故ボクに話してくれる気になったんだ? また何か企んでいると考えるのが普通だと思うんだけど。
ザ・クロの話は聞くべきだとはクリアも思うが、やはり急に協力的になったザ・クロを訝しむ気持ちは割り切れなかった。
そんなクリアの問いかけに、ザ・クロはあっさりと返す。
『こればっかりは〈ルーツ〉である宿命ってやつだなァ。お前と出会ったのが俺の運の尽きってやつだっただけだァ』
その言葉は、クリアの心に何故か妙に突き刺さった。
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
母を訪ねて十万里
サクラ近衛将監
ファンタジー
エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。
この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。
概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ヴァンパイアハーフだが、血統に問題アリっ!?
月白ヤトヒコ
ファンタジー
久々に実家に帰ると、結婚か幽閉か放浪の三択を父親に突き付けられた主人公。
結婚も幽閉も嫌なので放浪を選んだ。
とりあえず当面の資金調達を開始すると、美少女顔の男の子や自称女の子に優しいおにーさん、海賊の船長とやらに遭遇して拐われた!
これ幸いと、海賊船を足にすることにして鬼、人狼、猫又、妖精、人魚との船旅を。
・・・そして蠢く、主人公と因縁のあるサイコなヴァンパイアの真祖。
主人公を守るべく暗躍する保護者達。
主人公を狙うヤンデレな兄弟達。百合人魚。色欲全開の馬。妖艶な夢魔。
それぞれの思惑が絡み合う。
宿命なんか、知ったことじゃない。
一人称のリレー方式で、途中からキャラの視点がコロコロ変わりながら話が進んで行きます。
※病んでいる登場人物が複数人います。
※バトルシーンや怪我の描写には、痛い表現や多少グロい表現があります。
※偶に武器回があるので、武器に興味の無い方は、武器説明を読み流してください。
※序盤はシスコン、ブラコン成分が多めですが、♥️の付く話から百合成分が増えます。
不定期更新。
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ちょっとエッチな執事の体調管理
mm
ファンタジー
私は小川優。大学生になり上京して来て1ヶ月。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。
住んでいるのはそこらへんのマンション。
変わりばえない生活に飽き飽きしている今日この頃である。
「はぁ…疲れた」
連勤のバイトを終え、独り言を呟きながらいつものようにマンションへ向かった。
(エレベーターのあるマンションに引っ越したい)
そう思いながらやっとの思いで階段を上りきり、自分の部屋の方へ目を向けると、そこには見知らぬ男がいた。
「優様、おかえりなさいませ。本日付けで雇われた、優様の執事でございます。」
「はい?どちら様で…?」
「私、優様の執事の佐川と申します。この度はお嬢様体験プランご当選おめでとうございます」
(あぁ…!)
今の今まで忘れていたが、2ヶ月ほど前に「お嬢様体験プラン」というのに応募していた。それは無料で自分だけの執事がつき、身の回りの世話をしてくれるという画期的なプランだった。執事を雇用する会社はまだ新米の執事に実際にお嬢様をつけ、3ヶ月無料でご奉仕しながら執事業を学ばせるのが目的のようだった。
「え、私当たったの?この私が?」
「さようでございます。本日から3ヶ月間よろしくお願い致します。」
尿・便表現あり
アダルトな表現あり
うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?
プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。
小説家になろうでも公開している短編集です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる