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第48話 初めましてでは?
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土煙が晴れた頃には、その広がる光景に客席は騒ついているようだった。
先のヒカリの時もそうだったが、どうにもこの場には客席と隔離する舞台装置のようなものが存在しているらしい。
それ故、ヒカリの声もその騒めきもクリア——恐らく『所有者』達も——には届いていない。
——エレメント自体を遮断している?
まるで味見するかのように、自分の近くで展開している【不可視疑の一部】を一部分岐させ客席との境目に触れさせて見れば、原理は不明だがなんとなくクリアは自分の【力】に近しいモノであると感じた。
そして、客席が騒ついている理由。
『所有者』が各々術式を繰り出そうとした時、クリアはそれより早く【不可視疑の一部】で攻撃した。
……ただ、それだけなのだが。
——まさか躱されるとはなァ……。
裏路地でレッドに見せたことで——不可視なのに見せたというのは変な例えだが——警戒されていたのだろうか。
先手必勝のつもりで『所有者』全員を捕らえて終わらせるつもりだったのだが、見事に全員に躱され壁に直撃したことが土煙を巻き上げることになったのだ。
壁に叩きつけてそのまま拘束するつもりだったため、レッド達の後ろの石壁には人間サイズの円形の凹みができており、パラパラと音を立て壁の一部が地面に崩れて落ちている。
「レッドの情報通りだったな。ただ消すだけじゃなく、見えない攻撃手段まで身に付けてきているとは」
「直撃してたら一発でアウトっスよこんなん! レッドさんにマジで感謝っスね」
「いや、俺の情報だけじゃこんな簡単にはいかなかっただろうな。身体強化を全員にかけてくれて助かったよゴールド」
「こんなの朝飯前っスよ!」
「……それにしても、流石『高術士』と呼ばれるだけはあるな。水属性で感知する術式を行使するとは」
グリーンの言う通り、ブルーまでもが躱してくるとは予想はしていなかったクリアは、心の中で同意しつつ次の手を考える。
……【不可視疑の一部】もとい【無属性】にはまだ欠陥が残っている故、恐らくこれ以上は近距離以外では使えない。
この能力は便利な反面、最近会得したという事もあり、一度に多量に出したり、遠距離で運用すればするほど、また繊細な動きで使い続けるとクリアの【無属性】の力は大きくに消耗してしまうらしく。
今日は既に周囲の感知のために広範囲に幾度と展開した上、数十回の枷を外す作業に使い、今全力で少し離れた位置に居た四人を捕らえるために最高速度で一度に多量に出した事で、既に石壁付近に触れている一部からの感覚を得ることができなくなっていた。
——今ので、彼らは気付いてしまっただろうか?
もしそうだとしたら厄介だ、とクリアは思った。
今、まだ【力】を使って感知できる範囲はクリアを中心に半径十メートルほどと言ったところだろうか。
それも、できるだけ展開することを抑えていかなければ徐々に感覚を得ることができなくなっていくだろう。
——そうすれば、終わりだ。
クリアがエレメントを吸収すためには必ずエレメントの構造に対して、【分析】し【分解】して【吸収】するという手順を踏む必要がある。
感覚が失われてしまえば、必然的に【分析】できなくなってしまい丸腰とほぼ変わらない状態になってしまう。
出した力で追撃はできないことで自分の未熟さに苛立ちを感じながら、クリアは前方に放出した【力】を少しずつ自分の元へ戻していく。
……そんな状況に、ブルーをはじめとして『所有者』は違和感を覚えたようだった。
「あたし達がおしゃべりしてる間に追撃せず能力を手元に戻しているあたり、意外と便利な力では無いのかしら?」
ブルー達の感知能力によってクリアの挙動が赤裸々に感じ取られてしまっているようで。
「どうするんスか? さっきはいきなりで術式の発動を途中で止められ最初の予定通り遠距離からの一斉攻撃で様子見っスか?」
「いや、レッド達は各々自由に動け。俺とブルーがそれに合わせる」
「ま、それが一番賢明かしらね。とりあえず連携の練習にでも付き合ってもらいましょうか」
話しながらも、ブルーの周囲に次々と水球や泡、つららのような形状の水の槍とでも呼べる物が展開されている。
つまり、ブルーは術式命名を使わずに術式を次々に繰り出し、それを空中に固定しているのだ。
余程の集中力と空間把握能力に長けていると言える凄さだ。
……空中に固定しているのは、もしかしたら彼女の力では無いかもしれないが。
水は——水属性に限った話ではないが——物質として構成されれば他の方向に力を加えられない限りこの世界が有する〈力属性〉のエレメントの作用に引っ張られて地面に落ちるものだ。
その作用に逆らって空中に固定されているというのは、他ならぬ何かの要因があるわけで。
「何が連携の練習ですか。既に息ぴったりでしょう」
クリアはブルーに聞こえるように言いながら、左右に展開したレッドとゴールドからの攻撃に備えてようやく回収し終わった【力】を両手に纏わせる。
「あら、流石にネタがバレちゃったかしら。グリーン!」
「ああ!」
ブルーの掛け声と共にグリーンが指を振るえば、空中に止まって居た水の術式が次々とクリアに向かって飛んでくる。
緩急をつけながら時には同時に水の槍が、遅れて水球や泡がクリアに襲いかかる。
そこに畳み掛けるよう、展開したゴールドが術式名を唱えれば。
「【五つの雷撃】!」
彼のエレメンタルアームズである五つの黄金のリングからそれぞれ今にも弾けそうな音を出しながら雷撃がクリア目掛けて迫り来る。
そして——。
「【フレア・ブレード】!」
『アスラカチミオ』の時よりも術式命名をしてより威力を高めたのか、それともエレメンタルアームズ自体が火のエレメントの塊だからなのか。
刀身に以前見た時よりも遥かに威力が上がっていそうな炎を纏った斬撃がレッドから放たれた。
クリアを囲むように迫り来るそれぞれの術式が、容赦無く襲いかかってくる——。
先のヒカリの時もそうだったが、どうにもこの場には客席と隔離する舞台装置のようなものが存在しているらしい。
それ故、ヒカリの声もその騒めきもクリア——恐らく『所有者』達も——には届いていない。
——エレメント自体を遮断している?
まるで味見するかのように、自分の近くで展開している【不可視疑の一部】を一部分岐させ客席との境目に触れさせて見れば、原理は不明だがなんとなくクリアは自分の【力】に近しいモノであると感じた。
そして、客席が騒ついている理由。
『所有者』が各々術式を繰り出そうとした時、クリアはそれより早く【不可視疑の一部】で攻撃した。
……ただ、それだけなのだが。
——まさか躱されるとはなァ……。
裏路地でレッドに見せたことで——不可視なのに見せたというのは変な例えだが——警戒されていたのだろうか。
先手必勝のつもりで『所有者』全員を捕らえて終わらせるつもりだったのだが、見事に全員に躱され壁に直撃したことが土煙を巻き上げることになったのだ。
壁に叩きつけてそのまま拘束するつもりだったため、レッド達の後ろの石壁には人間サイズの円形の凹みができており、パラパラと音を立て壁の一部が地面に崩れて落ちている。
「レッドの情報通りだったな。ただ消すだけじゃなく、見えない攻撃手段まで身に付けてきているとは」
「直撃してたら一発でアウトっスよこんなん! レッドさんにマジで感謝っスね」
「いや、俺の情報だけじゃこんな簡単にはいかなかっただろうな。身体強化を全員にかけてくれて助かったよゴールド」
「こんなの朝飯前っスよ!」
「……それにしても、流石『高術士』と呼ばれるだけはあるな。水属性で感知する術式を行使するとは」
グリーンの言う通り、ブルーまでもが躱してくるとは予想はしていなかったクリアは、心の中で同意しつつ次の手を考える。
……【不可視疑の一部】もとい【無属性】にはまだ欠陥が残っている故、恐らくこれ以上は近距離以外では使えない。
この能力は便利な反面、最近会得したという事もあり、一度に多量に出したり、遠距離で運用すればするほど、また繊細な動きで使い続けるとクリアの【無属性】の力は大きくに消耗してしまうらしく。
今日は既に周囲の感知のために広範囲に幾度と展開した上、数十回の枷を外す作業に使い、今全力で少し離れた位置に居た四人を捕らえるために最高速度で一度に多量に出した事で、既に石壁付近に触れている一部からの感覚を得ることができなくなっていた。
——今ので、彼らは気付いてしまっただろうか?
もしそうだとしたら厄介だ、とクリアは思った。
今、まだ【力】を使って感知できる範囲はクリアを中心に半径十メートルほどと言ったところだろうか。
それも、できるだけ展開することを抑えていかなければ徐々に感覚を得ることができなくなっていくだろう。
——そうすれば、終わりだ。
クリアがエレメントを吸収すためには必ずエレメントの構造に対して、【分析】し【分解】して【吸収】するという手順を踏む必要がある。
感覚が失われてしまえば、必然的に【分析】できなくなってしまい丸腰とほぼ変わらない状態になってしまう。
出した力で追撃はできないことで自分の未熟さに苛立ちを感じながら、クリアは前方に放出した【力】を少しずつ自分の元へ戻していく。
……そんな状況に、ブルーをはじめとして『所有者』は違和感を覚えたようだった。
「あたし達がおしゃべりしてる間に追撃せず能力を手元に戻しているあたり、意外と便利な力では無いのかしら?」
ブルー達の感知能力によってクリアの挙動が赤裸々に感じ取られてしまっているようで。
「どうするんスか? さっきはいきなりで術式の発動を途中で止められ最初の予定通り遠距離からの一斉攻撃で様子見っスか?」
「いや、レッド達は各々自由に動け。俺とブルーがそれに合わせる」
「ま、それが一番賢明かしらね。とりあえず連携の練習にでも付き合ってもらいましょうか」
話しながらも、ブルーの周囲に次々と水球や泡、つららのような形状の水の槍とでも呼べる物が展開されている。
つまり、ブルーは術式命名を使わずに術式を次々に繰り出し、それを空中に固定しているのだ。
余程の集中力と空間把握能力に長けていると言える凄さだ。
……空中に固定しているのは、もしかしたら彼女の力では無いかもしれないが。
水は——水属性に限った話ではないが——物質として構成されれば他の方向に力を加えられない限りこの世界が有する〈力属性〉のエレメントの作用に引っ張られて地面に落ちるものだ。
その作用に逆らって空中に固定されているというのは、他ならぬ何かの要因があるわけで。
「何が連携の練習ですか。既に息ぴったりでしょう」
クリアはブルーに聞こえるように言いながら、左右に展開したレッドとゴールドからの攻撃に備えてようやく回収し終わった【力】を両手に纏わせる。
「あら、流石にネタがバレちゃったかしら。グリーン!」
「ああ!」
ブルーの掛け声と共にグリーンが指を振るえば、空中に止まって居た水の術式が次々とクリアに向かって飛んでくる。
緩急をつけながら時には同時に水の槍が、遅れて水球や泡がクリアに襲いかかる。
そこに畳み掛けるよう、展開したゴールドが術式名を唱えれば。
「【五つの雷撃】!」
彼のエレメンタルアームズである五つの黄金のリングからそれぞれ今にも弾けそうな音を出しながら雷撃がクリア目掛けて迫り来る。
そして——。
「【フレア・ブレード】!」
『アスラカチミオ』の時よりも術式命名をしてより威力を高めたのか、それともエレメンタルアームズ自体が火のエレメントの塊だからなのか。
刀身に以前見た時よりも遥かに威力が上がっていそうな炎を纏った斬撃がレッドから放たれた。
クリアを囲むように迫り来るそれぞれの術式が、容赦無く襲いかかってくる——。
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