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第38話 失念
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——どうにかして無理に吸収すのではなく、このまま外す方法は無いものか……。
せっかくの拘束具を利用したいクリアは、とりあえずヒカリの手にはめられている枷に【不可視疑の一部】で触れてみる。
するとどうだろう、特にクリアへの影響は無いようで、触れている【不可視疑の一部】が消えたり制御できなくなるようなことは起こらなかった。
どうやら、この枷は【無属性】には影響を及ぼさないらしい。
これは、【無属性】というモノがキャスティングする行為と関係ないと言うことを示しているのか、それとも偶々なのか。
キャスティング能力を狂わせる仕掛けを開発した人に【無属性】を無力化できない様に開発してくれた事を感謝しつつ、クリアは思う。
——どちらにせよ、それならば話は早い。
鍵穴はアナログ式でできている。
それならばとクリアは鍵穴に【不可視疑の一部】を細く伸ばして穴の中に侵入させていく。
鍵穴の内部を伝わってくる感覚で探れば、よくあるシリンダーを押して解錠する、ピッキングができるタイプの物で。
何パターンか試すと、ヒカリの手の自由を奪っていた枷は、カランと音を立てて地面に落ちていった。
同じ手筈でヒカリの足にもはめられている枷を外せば、ヒカリは完全に自由になり、喜びを大袈裟に表現するようにその場から石路に立ち上がると、くるりと一回転して見せた。
しかし、クリアはそんな光景を見ながら、笑みを浮かべ……自らの失態に気付いてしまった。
時間が無かったりも理由にあるのだろうが、今のクリアは普段よりも明らかに思考能力が落ちていると自覚する。
なんと言うか、ヒカリ達を追跡し始めたあたりからあまりに感情的な、もしくは衝動的に行動してしまっていて。
今思えば、敵対関係であるレッドにも自ら詳しく解説していない【無属性】の【力】についてレッドがわかっている前提で話してしまったり。
……つまり何が言いたいかと言えば。
クリアは、完全に失念していたのだ。
「ありがとうクリア! ……でも、どうやってこれを外したの?」
ヒカリが『ディールーツ』という組織の表側の人物であり、クリアの【無属性】を知らない人物という事を。
そして、今まで懸命に隠してきた自分の努力を。
「あ……えっと、これは……」
不思議そうな顔で疑問を投げかけてきたヒカリに、クリアは言葉を詰まらせてしまう。
そんなクリアにより強い疑念と困惑の感情が入り混じったような表情をヒカリが向ければ。
クリアはまるで今まで大切にしてきたものが一気に音を立てて崩れていくような感覚に襲われた。
——ヒカリは今、何を思っているのだろうか。……ヒカリの目には、ボクは今、どう映っているのだろうか?
クリアは今ならまだなんとか誤魔化しが効くのでは、とも思った。
しかし、ヒカリはクリアに対する勘が妙に鋭い事を知っているクリアは、何と誤魔化しても全て見透かされる予感がし、なんの説明の言葉も見つけ出すことはできなかった。
普段、クリアが組織の表側の仕事をする際、まずその【力】を見せることはない。
故に組織の表側の人物からは、真摯に仕事に取り組むクリアは親しまれやすい反面、謎多き人物としても噂されていた。
しかし、表の世界で仕事をする際、社員はキャスティング能力を発揮して働く——正確にはキャスティング能力を使用してもあまり仕事の評価を有利にしない——ことはしないのが組織『ディールーツ』の方針だ。
それは、意図的に組み込まれた方針であり、これは表向きは社員が宿す属性のキャスティング能力に左右されることなく好きな仕事ができるようと公言されている。
……が、本当はクリアやギンガのような特殊な能力を持つ人物の力を隠すためにあるのだった。
だからこそ、今までどれほど仲良くしてこようと、クリアとヒカリはお互いのキャスティングできる属性の話をしたことは無かった。
否、その話題が出ないよう気を遣ってきた。
それなのに、こんなところでヒカリの前で見せてしまうことになるなんて、とクリアは激しく後悔した。
ヒカリ達を助ける事と【力】の事がばれてヒカリが遠い存在になってしまう事、天秤にかける事など一切考慮せず彼女達を助ける事を優先した、と言えばまだ聞こえはいいだろうか。
——これで、よかったん……だよ。
クリアは自分に無理やりそう言い聞かせた。
——このまま自分のすべきことに彼女を巻き込むことになるぐらいなら、いっそ自分から身を引いて行った方がいい。
とはいえ、結局ヒカリに返す言葉を見つけることができなかったクリアは、ただ一言「ごめん」と申し訳なさそうにヒカリに言うと、ばつの悪そうな顔をしたままクリアはヒカリの隣を通り抜け、荷車の中へと入って行った。
せっかくの拘束具を利用したいクリアは、とりあえずヒカリの手にはめられている枷に【不可視疑の一部】で触れてみる。
するとどうだろう、特にクリアへの影響は無いようで、触れている【不可視疑の一部】が消えたり制御できなくなるようなことは起こらなかった。
どうやら、この枷は【無属性】には影響を及ぼさないらしい。
これは、【無属性】というモノがキャスティングする行為と関係ないと言うことを示しているのか、それとも偶々なのか。
キャスティング能力を狂わせる仕掛けを開発した人に【無属性】を無力化できない様に開発してくれた事を感謝しつつ、クリアは思う。
——どちらにせよ、それならば話は早い。
鍵穴はアナログ式でできている。
それならばとクリアは鍵穴に【不可視疑の一部】を細く伸ばして穴の中に侵入させていく。
鍵穴の内部を伝わってくる感覚で探れば、よくあるシリンダーを押して解錠する、ピッキングができるタイプの物で。
何パターンか試すと、ヒカリの手の自由を奪っていた枷は、カランと音を立てて地面に落ちていった。
同じ手筈でヒカリの足にもはめられている枷を外せば、ヒカリは完全に自由になり、喜びを大袈裟に表現するようにその場から石路に立ち上がると、くるりと一回転して見せた。
しかし、クリアはそんな光景を見ながら、笑みを浮かべ……自らの失態に気付いてしまった。
時間が無かったりも理由にあるのだろうが、今のクリアは普段よりも明らかに思考能力が落ちていると自覚する。
なんと言うか、ヒカリ達を追跡し始めたあたりからあまりに感情的な、もしくは衝動的に行動してしまっていて。
今思えば、敵対関係であるレッドにも自ら詳しく解説していない【無属性】の【力】についてレッドがわかっている前提で話してしまったり。
……つまり何が言いたいかと言えば。
クリアは、完全に失念していたのだ。
「ありがとうクリア! ……でも、どうやってこれを外したの?」
ヒカリが『ディールーツ』という組織の表側の人物であり、クリアの【無属性】を知らない人物という事を。
そして、今まで懸命に隠してきた自分の努力を。
「あ……えっと、これは……」
不思議そうな顔で疑問を投げかけてきたヒカリに、クリアは言葉を詰まらせてしまう。
そんなクリアにより強い疑念と困惑の感情が入り混じったような表情をヒカリが向ければ。
クリアはまるで今まで大切にしてきたものが一気に音を立てて崩れていくような感覚に襲われた。
——ヒカリは今、何を思っているのだろうか。……ヒカリの目には、ボクは今、どう映っているのだろうか?
クリアは今ならまだなんとか誤魔化しが効くのでは、とも思った。
しかし、ヒカリはクリアに対する勘が妙に鋭い事を知っているクリアは、何と誤魔化しても全て見透かされる予感がし、なんの説明の言葉も見つけ出すことはできなかった。
普段、クリアが組織の表側の仕事をする際、まずその【力】を見せることはない。
故に組織の表側の人物からは、真摯に仕事に取り組むクリアは親しまれやすい反面、謎多き人物としても噂されていた。
しかし、表の世界で仕事をする際、社員はキャスティング能力を発揮して働く——正確にはキャスティング能力を使用してもあまり仕事の評価を有利にしない——ことはしないのが組織『ディールーツ』の方針だ。
それは、意図的に組み込まれた方針であり、これは表向きは社員が宿す属性のキャスティング能力に左右されることなく好きな仕事ができるようと公言されている。
……が、本当はクリアやギンガのような特殊な能力を持つ人物の力を隠すためにあるのだった。
だからこそ、今までどれほど仲良くしてこようと、クリアとヒカリはお互いのキャスティングできる属性の話をしたことは無かった。
否、その話題が出ないよう気を遣ってきた。
それなのに、こんなところでヒカリの前で見せてしまうことになるなんて、とクリアは激しく後悔した。
ヒカリ達を助ける事と【力】の事がばれてヒカリが遠い存在になってしまう事、天秤にかける事など一切考慮せず彼女達を助ける事を優先した、と言えばまだ聞こえはいいだろうか。
——これで、よかったん……だよ。
クリアは自分に無理やりそう言い聞かせた。
——このまま自分のすべきことに彼女を巻き込むことになるぐらいなら、いっそ自分から身を引いて行った方がいい。
とはいえ、結局ヒカリに返す言葉を見つけることができなかったクリアは、ただ一言「ごめん」と申し訳なさそうにヒカリに言うと、ばつの悪そうな顔をしたままクリアはヒカリの隣を通り抜け、荷車の中へと入って行った。
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