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第28話 祭りの前日談2 No Sense

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 「生誕祭の昼の城下街での祭りで彼女をエスコートする為の服装等の準備はできているのか?」
「……はい?」

 全く予想していなかった突然ガウスの言葉は、クリアの思考を一瞬フリーズさせた。

 そのせいでクリアはつい裏返った声で返してしまったのだった。

 そして、そんなクリアにガウスはとある書類をヒラヒラとなびかせて見せてきた。

 上部に大きく『有給休暇申請書』と書かれたそれは、クリアにとってその下の記入欄を見なくても誰が出したものか状況的に即行き着いてしまうわけで。

 あまりに急な事で、クリアは顔から火を吹きそうになる——実際できるがこれは比喩である——。

「な……それ……ボスが……⁉︎」

 ——何でそれをボスが持っているんですか⁉︎

 そう言おうとしてうまく発声できなかったクリアに、クリアの言いたいことを理解したらしいガウスが——相当珍しく——わかりやすく笑みを浮かべると、理由の項目を指差した。

 そこにはあの子ヒカリの可愛らしい字で「クリア代表補佐官の当日の補助サポートとしてついて行くので本業をお休みします」と書かれていた。

 ……ド直球ストレートで明後日の方向に投げてきたのが実にヒカリらしい。

 この理由だと『有給休暇申請』じゃなくて上司クリアが出さなければならない『引き抜き申請』が必要になってしまう。

 ——そりゃボクが書類申請しつたえてないのにクリアボクの名前が書いてあったらボスの所まで確認に回ってくるよなぁ……。

 そんな事を考えながら、ガウスの意図をようやく汲み取ったクリアは、自分の服の中から出かける為の服を記憶から検索する。

 しかし、クリアの頭に思い浮かんでくるのは普段訓練するために用意してある使い捨ての服か、公の場でボスの補佐としている際の仕事着、もしくは調査の時に着る制服ぐらいしかないことを確認した。

 ……せめてヒカリに恥をかかせないような格好をすべく、服を調達するために明日の午前中は買い物に出かけようと決めたのだった。
 

 そして、時は現在に戻るのだ——。

「やっぱりどういう服を選んだらいいか全然わからないや……」

 そもそも自分でお出かけ用のそういった服を選んだ経験が無いクリアがどれだけ悩んでも、早々に答えを出せるはずもなく。

 かれこれ既に三十分ぐらいは店の前でうろうろしていたクリアは、若干諦めが入り、マネキンのコーデ一式を購入しようと店員に声をかけようとした時だった。

「あらクリアくん、まさかその服装でヒカリちゃんとデートしようなんて言わないわよねぇ?」

 後ろからウェーブがかったバラ色のロングヘアーのクリアより背の高い、クリアから見てもオシャレだと分かる服装に身を包んだ、まるで見る者全てを虜にしそうなスタイルの良い女性が突然声をかけてきたのだった。

「こんにちはロザリアさん。やっぱりこれじゃあダメ……って、デートって!」
「あらぁ、男女でお祭り見て回るんでしょう? それはもうデートとしか言わないわよぉ」

 うふふ、と笑いながら話すロザリアに、まともに返せなくなったクリアはまた自分の顔が熱くなっていくのがわかった。

 ——やっぱり側から見たらそう思われるのかな?

「というか! なんでお祭りのこと知っているんですか⁉︎」

 そうクリアが聞けば、ロザリアは手を口に当てふふっと笑いながら答える。

「そんなのぉ、アタシがヒカリちゃんの上司だからに決まってるじゃない。あの申請書見た時、ほんと笑わないようにこらえるの大変だったんだからぁ。しかも彼女、めちゃくちゃ上機嫌で提出してきたのよ? これで気付かなかったらそっちの方が問題よぉ」

 そう、このロザリア・リラストはヒカリの所属する表事業の調査部門の一部隊の隊長であり、公表はされていないがライズと同じく組織の幹部の一人である。

 ライズと違ってかなり部下思いで良識がある人物で、その美貌と人当たりの良さから『お姉様』と崇め慕う者も多く、ファンクラブがあるのだとか。

 そんな人が何故ディールーツのファッション部門ではなく調査部門の所属なのかは、表側事業のディールーツ社員達の間で不思議とされている。

「……まあ、デートかどうかは置いといて。ロザリアさんはなんでここにいるんですか?」
「今日、本当は非番だったんだけどぉ。あなたの服を見繕ってあげて欲しいって頼まれたのよぉ。あ、代金は全部組織で領収書切っていいとも言われてるわぁ」

 ——十中八九お父さんボスだ。

 クリアは即確信し、心の中で感謝をした。

「正直すごく助かります。多忙な中せっかくの休みなのに来て下さって」
「別にいいわよぉ、そんなにかしこまらなくても。ヒカリちゃんいつも一生懸命頑張ってくれてるし、彼女にいい思い出をプレゼントしてあげたいって気持ちもあるしね」

 パチっとウインクしたロザリアは、本当に頼り甲斐のあるお姉さんで、クリアはファンクラブが作られる理由もわかる気がした。

「あ、でも、服の代金は自分で出します」
「あら、どうして? せっかくなんだし甘えたら?」
「こういう、楽しむための服を買うのって初めてで……。せっかくだし、それならちゃんと自分で用意したいんです。……変、ですかね?」

 言ってて照れくさくなったクリアは頬をかいたが、ロザリアは笑う事なく。

「いいえ、すてきな考えだと思うわ。さ、そしたら早く選んでしまいましょ! お姉さんにおまかせよ!」

 ニコっとすてきな笑顔でクリアの考えを肯定してくれたのだった——。
 

「とりあえず、明日はこれでよしね。それに、何種類か揃えたし、それで少しファッションの勉強をしたらいいと思うわ」
「本当、何から何までありがとうございました!」

 数時間後、色々な店を回ったクリアの手には大量の服が入った紙袋が大量に握られていた。

「うふふ、お礼はそうねぇ……。ヒカリちゃんをちゃんと楽しませてあげてくれたらそれでいいわぁ。それじゃ、アタシはここで失礼させてもらうわね」
「え、丁度お昼時ですし、何か食べていきませんか? 服のお礼もやっぱりちゃんとしたいですし!」
「うふ、それはまた今度にさせてもらうわね。人と会う約束があるのよぉ。じゃあねぇ!」

 それだけ言うと、ロザリアは小走りで手を振りながら人混みの中に消えていった。

「まあ、この大量の服を持ったままだとあれだし、ボクも戻ってからお昼でいいか……」

 残されたクリアは一人呟くと、自室へ戻るためなるべく人気の少ない場所を探すために移動する。

 ——荷物のわりに移動の際に妙に足取りが軽いのは、きっときのせいじゃ無いはずだ。

 そんな事を思いながら、クリアはどこからでもドアを召喚し、ショッピングモールを後にしたのだった。
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