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第25話 決意と守るべきもの
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エレメンタルアームズを使った術式は凄まじい威力だった。
それこそ、ライズの【雷撃の大鎌】を軽く凌駕する程に。
……が、それはライズまで届く事はなく。
「【消滅の左手】!」
いつの間にかライズの目の前に現れたクリアの左手に纏った巨大な手を模した【力】——誰にも視認することはできないが——によって、ギリギリのところで吸収されていた。
——直撃すれば、ライズさんはもしかしたら跡形もなく消えていたかも知れない。
クリアは瞬発力と防御力を兼ね備えた【消滅の左手】でなければ吸収せなかったかもしれないエレメントの量と術式の情報からそう思わざるを得なかった。
「なんだ、やればできるじゃねぇか! その調子でオレの——」
「ライズさん」
クリアの一言で、ライズは続けて口にしようとした言葉を失った。
それほどクリアは冷たく、恐怖心を煽る様な声でライズの名前を呼んだのだ。
何かが吹っ切れたクリアは振り返ってライズにできる限りの冷ややかな目線を向けて、言い放ってやった。
「何か勘違いしてますけど。あなたの指揮権は既に失われてるんですよ。ゴールドさんがルーツを所持していることが判明した時点で、任務は失敗してるんです。という訳で——」
一度クリアは言葉を区切ると、ニッコリと笑顔を浮かべて、続ける。
「ゴールドさんの村の人達、今すぐ解放してもらえます?」
その一言は、幹部であるライズですらごくり、と喉を鳴らすぐらいには恐ろしさを感じされられたらしい。
それほどまで、クリアは怒りをライズに向けていたのだ。
「……この場所にはもう居ねえんだ。部下共を使って本部に転送した」
もはやこの場でライズの味方のはずのクリアすら敵に回したと悟ったのだろうか。
渋々といった感じだが、ライズは白状した。
——まあ、ライズさんの部下の姿が見えない時点でそんな気はしてたけど。
吹っ切れたおかげか、思考が戻ってきていたクリアはそう考えると、ライズにクリアは淡々と伝えながらライズに手を伸ばす。
「そうですか。……ライズさん、もうここにはあなたは必要ないみたいです。なので——」
「なぁ⁉︎ クリアテメェ! こんな事が許されると——」
自身へと伸ばされた手で察したのか、ライズは最後に反論しようとしたが、その言葉はそれ以上続く事はなかった。
「……逆に許されないとでも? これでも、ボクはあなたより上の立場なんですけどね」
既にこの場より居なくなったライズに、この言葉は届かないことを知りつつもクリアは独り言の様に呟いた。
——ライズさんの部下は、とりあえず可能な限りの権限を使って村人を解放させて……。
そんな次にすべき事をクリアが考えている時。
信じられないものを見た、と言いたげな表情でゴールドが問いかけた。
「な、何をしたんスか、アンタ……」
そういえば、ゴールドには自分の力を詳しくは知られていなかったことを今更になってクリアは思い出した。
「改めまして、ゴールドさん。ボクは『ディールーツ』の代表補佐官のクリアです。司る力は……【無属性】です」
クリアの【力】についてそれなりに知っているレッド達がいるし、もうバラしてもいいかと考えたクリアはゴールドへ改めて自己紹介をした。
「【無属性】って……なんだ? そんなん聞いたことないんスけど……」
流石にグリーンぐらいの情報のパイプがないゴールドが知ってるはずもないかと、「後はその二人に聞いといてください」と続けたクリアは、ライズの話から推測した「圏外」の文字を表示し続ける端末から、唯一使えるであろう機能を表示させる。
以前も調査隊に使わせた〈撤退装置〉は、クリアの予想通り圏外とは無縁に使用できるようだった。
まあ、ライズの部下が村人を連れて本部に戻ってるという話だったので、使えるだろうと思うのは普通かもしれないが。
とりあえずゴールドを一安心させるべく、クリアは端末をしまいながら説明を始めた。
「ゴールドさん。とりあえずあなたの村の人々は無事ですし、ボクが安全を保証します。……村のこの悲惨な状況は申し訳ないんですけど、それもなんとかボクの権限で復興支援を全力でさせてもらいますので」
淡々と説明するクリアに、ゴールドはまだ信用できないのか。
「でもアンタもアイツの仲間なんスよね?」と警戒を解いた様子は無いまま返してきた。
それに対しては、クリアは素直に認めざるを得なかった。
結局、ボスが何故ライズのような強引で好戦的な者を幹部として取り入れたことに関する疑問はクリアにも理解できていないので、反論できる立場にいないからだ。
そんな敵意剥き出しのゴールドに、まさかのレッドがフォローを入れた。
「ゴールド、きっと村の人達はクリアに任せておけば大丈夫だ。」
いきなりの根拠のないレッドの言葉に、当然ゴールドはすぐに納得できるはずもなく。
「なんでそんなことが言えるんスか? アンタ達だってこの人と敵対してるんじゃないんスか?」
ゴールドのいう事はもっともだ。
だが、レッドはゴールドの肩に手を置き、諭すように言った。
「クリアとは、まだ二回しか会ってないし手合わせもそれしかしてないけどそれでも戦ってわかった事がある。
コイツは、どんな状況でも人の命を無碍に扱わない。
目的のために邪魔になったとしても、敵味方関係無しに最大限お互いに傷付かない方法を取ろうとする。
さっきまでの戦いもそうだ。途中から動きはおかしくなってたけど、それはきっとその信念が揺らぐようなことがあったからなんだろうな。
その証拠に、ゴールドの術式からライズを守る時はとんでもない速さで前に出て守ってた」
レッドの長い説明にまだ納得していないのか、食い気味にゴールドはレッドに返す。
「でもその後ライズをどっかに消しちまってたっスよね?」
「理屈はわからないけど、クリアの【力】は人を一度消してまた出せる力もあるみたいなんだよ。あのまま撤退させてたら村の人達へ何かするかもしれないと思っての処置だったんじゃないか? なあ、クリア」
「え、ええ、そんな感じです……」
予想外に、細かく丁寧にフォローしてくれたレッドにクリアは意図が読めず困惑する。
しかし、本当に今回はこの三人には助けられてしまった。
あの三人のどんな状況でも諦めないという強い心を見なければ、今どうなっていたかわからない。
——その前向きなところは敵ながら見習わないと。
あの時迷ってた自分の心にまるで一筋の光のように差し込んで、自分のすべき事を決意するきっかけをくれたのだから。
だから、クリアはこう思った。
——きっと、こういう周りに良い影響を与える存在を英雄と言うんだろうな。
それこそ、ライズの【雷撃の大鎌】を軽く凌駕する程に。
……が、それはライズまで届く事はなく。
「【消滅の左手】!」
いつの間にかライズの目の前に現れたクリアの左手に纏った巨大な手を模した【力】——誰にも視認することはできないが——によって、ギリギリのところで吸収されていた。
——直撃すれば、ライズさんはもしかしたら跡形もなく消えていたかも知れない。
クリアは瞬発力と防御力を兼ね備えた【消滅の左手】でなければ吸収せなかったかもしれないエレメントの量と術式の情報からそう思わざるを得なかった。
「なんだ、やればできるじゃねぇか! その調子でオレの——」
「ライズさん」
クリアの一言で、ライズは続けて口にしようとした言葉を失った。
それほどクリアは冷たく、恐怖心を煽る様な声でライズの名前を呼んだのだ。
何かが吹っ切れたクリアは振り返ってライズにできる限りの冷ややかな目線を向けて、言い放ってやった。
「何か勘違いしてますけど。あなたの指揮権は既に失われてるんですよ。ゴールドさんがルーツを所持していることが判明した時点で、任務は失敗してるんです。という訳で——」
一度クリアは言葉を区切ると、ニッコリと笑顔を浮かべて、続ける。
「ゴールドさんの村の人達、今すぐ解放してもらえます?」
その一言は、幹部であるライズですらごくり、と喉を鳴らすぐらいには恐ろしさを感じされられたらしい。
それほどまで、クリアは怒りをライズに向けていたのだ。
「……この場所にはもう居ねえんだ。部下共を使って本部に転送した」
もはやこの場でライズの味方のはずのクリアすら敵に回したと悟ったのだろうか。
渋々といった感じだが、ライズは白状した。
——まあ、ライズさんの部下の姿が見えない時点でそんな気はしてたけど。
吹っ切れたおかげか、思考が戻ってきていたクリアはそう考えると、ライズにクリアは淡々と伝えながらライズに手を伸ばす。
「そうですか。……ライズさん、もうここにはあなたは必要ないみたいです。なので——」
「なぁ⁉︎ クリアテメェ! こんな事が許されると——」
自身へと伸ばされた手で察したのか、ライズは最後に反論しようとしたが、その言葉はそれ以上続く事はなかった。
「……逆に許されないとでも? これでも、ボクはあなたより上の立場なんですけどね」
既にこの場より居なくなったライズに、この言葉は届かないことを知りつつもクリアは独り言の様に呟いた。
——ライズさんの部下は、とりあえず可能な限りの権限を使って村人を解放させて……。
そんな次にすべき事をクリアが考えている時。
信じられないものを見た、と言いたげな表情でゴールドが問いかけた。
「な、何をしたんスか、アンタ……」
そういえば、ゴールドには自分の力を詳しくは知られていなかったことを今更になってクリアは思い出した。
「改めまして、ゴールドさん。ボクは『ディールーツ』の代表補佐官のクリアです。司る力は……【無属性】です」
クリアの【力】についてそれなりに知っているレッド達がいるし、もうバラしてもいいかと考えたクリアはゴールドへ改めて自己紹介をした。
「【無属性】って……なんだ? そんなん聞いたことないんスけど……」
流石にグリーンぐらいの情報のパイプがないゴールドが知ってるはずもないかと、「後はその二人に聞いといてください」と続けたクリアは、ライズの話から推測した「圏外」の文字を表示し続ける端末から、唯一使えるであろう機能を表示させる。
以前も調査隊に使わせた〈撤退装置〉は、クリアの予想通り圏外とは無縁に使用できるようだった。
まあ、ライズの部下が村人を連れて本部に戻ってるという話だったので、使えるだろうと思うのは普通かもしれないが。
とりあえずゴールドを一安心させるべく、クリアは端末をしまいながら説明を始めた。
「ゴールドさん。とりあえずあなたの村の人々は無事ですし、ボクが安全を保証します。……村のこの悲惨な状況は申し訳ないんですけど、それもなんとかボクの権限で復興支援を全力でさせてもらいますので」
淡々と説明するクリアに、ゴールドはまだ信用できないのか。
「でもアンタもアイツの仲間なんスよね?」と警戒を解いた様子は無いまま返してきた。
それに対しては、クリアは素直に認めざるを得なかった。
結局、ボスが何故ライズのような強引で好戦的な者を幹部として取り入れたことに関する疑問はクリアにも理解できていないので、反論できる立場にいないからだ。
そんな敵意剥き出しのゴールドに、まさかのレッドがフォローを入れた。
「ゴールド、きっと村の人達はクリアに任せておけば大丈夫だ。」
いきなりの根拠のないレッドの言葉に、当然ゴールドはすぐに納得できるはずもなく。
「なんでそんなことが言えるんスか? アンタ達だってこの人と敵対してるんじゃないんスか?」
ゴールドのいう事はもっともだ。
だが、レッドはゴールドの肩に手を置き、諭すように言った。
「クリアとは、まだ二回しか会ってないし手合わせもそれしかしてないけどそれでも戦ってわかった事がある。
コイツは、どんな状況でも人の命を無碍に扱わない。
目的のために邪魔になったとしても、敵味方関係無しに最大限お互いに傷付かない方法を取ろうとする。
さっきまでの戦いもそうだ。途中から動きはおかしくなってたけど、それはきっとその信念が揺らぐようなことがあったからなんだろうな。
その証拠に、ゴールドの術式からライズを守る時はとんでもない速さで前に出て守ってた」
レッドの長い説明にまだ納得していないのか、食い気味にゴールドはレッドに返す。
「でもその後ライズをどっかに消しちまってたっスよね?」
「理屈はわからないけど、クリアの【力】は人を一度消してまた出せる力もあるみたいなんだよ。あのまま撤退させてたら村の人達へ何かするかもしれないと思っての処置だったんじゃないか? なあ、クリア」
「え、ええ、そんな感じです……」
予想外に、細かく丁寧にフォローしてくれたレッドにクリアは意図が読めず困惑する。
しかし、本当に今回はこの三人には助けられてしまった。
あの三人のどんな状況でも諦めないという強い心を見なければ、今どうなっていたかわからない。
——その前向きなところは敵ながら見習わないと。
あの時迷ってた自分の心にまるで一筋の光のように差し込んで、自分のすべき事を決意するきっかけをくれたのだから。
だから、クリアはこう思った。
——きっと、こういう周りに良い影響を与える存在を英雄と言うんだろうな。
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