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第19話 音信不通と再会の森

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 様々な事情が折り重なってしまい、今はボスから火と風のルーツを二人の剣士かれらから無理に回収しようとしなくていいと言われている。

 ——できれば会いたくはないかな。

 そう思うのは、クリアのエゴだ。
 恐らく出会ってしまえばまた戦わざるを得なくなってしまいそうであり、クリアはそれが嫌だった。

 ルーツの回収について、クリアは『アスラカチミオ』から戻ってきて調べ直した。

 そして、新たに知った事はルーツが主として認めた者がいる場合、これまた面倒なものであるということだった。

 クリア的にはエレメンタルアームズにまでなるほどにルーツから認められている二人から回収するのは尚更面倒だ。

 先程の様々な事情の一つには、以前のミヤの時の様に相手ごとルーツを回収——あの方法は回収と呼べるのかはいささか疑問だが——する事はボスから禁止されているということ。

 理由は、闇のルーツが未だにクリアの中から出せていないからだ。
 少なくとも闇のルーツを出せるようになるまでは、手元にルーツを保管しておきたいボスからその方法を取ることを許可されないだろう。

 他にも二つ、明確に人が所有しているルーツを回収する明確にわかっている方法があるにはあるが、一つ目はまず不可能だろう。

 何故なら、ルーツの所有者ホルダー——ルーツを使用する者やルーツの主に認められた者をクリア達組織はそう呼んでいる——が認めた相手に対して譲渡をするという行為だからだ。

 もう一つの手段は、……クリアにはできない。

 ちなみにクリアは他にもう一つ方法を思いつきはしたが……。
 試したことも無く、文献にも記載されていなかったのでクリアの中では試す必要は無い方法として扱っている。

 ヒカリとの一週間後の約束を守るため、とりあえず彼らに会わず、順調にルーツの回収今回の任務を終わらせて他にも少し残っている仕事も片付けて置きたいとクリアは考えていた。

 そんな事を考えているうちに、本日二度目のどこへでもドアの起動完了音が大きく室内に響いた。

 ヒカリからもらった弁当を大事そうに【保存空間一号】——クリアがギンガに開発してもらった、別空間を作り出してその中に物を保存しておける術式である——に入れると、目的地へと繋がった扉を開き、クリアは『トーライ』の地へ足を踏み入れた。
 
 迷いの森と呼ばれるだけあって、見渡す限り木々が生い茂り、見るものを圧倒させてくるというのが、クリアのこの地への第一印象だった。

 ——この森の中で一緒に食事できていたら、さぞ楽しかっただろうな……。

 そんなことを無意識に考えたクリアは、まだ若干ヒカリと来たかった気持ちが残っていたことに気付き、慌てて頭を振って気持ちを切り替える。

 ——……うん。さてさて、この中からどうルーツを探せば良いのやら。

 とりあえず、先に視察に来ているはずの幹部の一人、ライズ・グリッド氏と合流するために先日新たにカスタマイズされ支給されたホワイトカラーの端末を取り出して連絡を取ろうとするクリアだったが。

「……うっそだぁ」

 思いの外言い方がおかしくなるぐらいには、予想外の二文字が画面に映っており、それは操作しようとするクリアの指を止めさせた。

『圏外』

 それが、クリアの思考を止めた現実を知らしめる画面の表記だった。

 組織の連絡用端末は支給制であり、ディールーツが誇る技術の数々を惜しげもなく使って作られている。

 さらに、クリアの様な上級役職に支給される端末は更に特別性なはずであるのだが。

 生まれて初めて見た、端末のこの二文字にクリアは頭を悩ませる羽目になったというわけだ。

 それと同時に、なんとなくだがクリアはここが迷いの森と言われる由縁を垣間見た気がした。

 ——それで先発隊のライズさんから経過報告が全く送られて来なかったのか。

 てっきりいつもの面倒と言う理由での未報告かと思っていたクリアは、心の中でこっそり謝罪しつつ、自分がこの地域に到着した事を知らせるためにはどうしようかと頭を捻った。

 ——こんな事になるなら、合図でも決めておけばよかったかな?

 いっそ、上空に何か派手な術式を放ってみようかとクリアが思った時。

 ——微かだが、少し先で人の話し声がした。

 その中に雷のエレメント特有のバチバチと鳴る音も混ざっていたので、探し人がすぐそこにいると思ったクリアはそちらに赴く事にした。
 
「……あれ?」

 クリアが声と音がしたと思われる場所に到着して目にした景色は、想定していたものと違っていた。

 てっきり先程聞こえた雷のエレメントの作用した時の音が鳴っていたので、クリアはライズがいると思っていたのだが。

 ——どうしてこう、最近はこうじゃなければいいなと思うならことが起こってしまうのだろうか。

 クリアにそう思わせるように、そこには出会いたくなかったレッドとグリーン二人が何故か地に伏せっていた。

 いや、一応先ほどの音から雷の術式で動きを封じられているのは理解できるのだが。

 さらにもう一人、恐らく二人をこの状態にしたであろう自分の白髪と同じぐらい見たことのない、まるでイナズマのマークがたくさん集まった様な独特な髪型の金髪に、額にゴーグルを付けた少年が二人を見下ろすように立っていた。

 ——あの二人の動きを封じたのは彼なのか。

 その予想を裏付けるように、少年はまるで悪戯を成功させた様な笑みを浮かべて二人を見ていた。

 掌に『スタンガン』——雷のエレメントの作用で一時的に当てた相手の動きを奪う護身用に開発された道具——のように電撃をバチバチと放ちながら。

 雷のエレメントは、扱いが難しい分、攻撃や筋肉を刺激することによる身体強化バフ、また現状の二人のように体の動きを妨害する感電デバフを相手に与える事ができる。

 少年は悪びれも無さそうに、片目を閉じ手を合わせて二人に向かって言った。

「いやー、悪いっスね。騙し討ちみてーなことして。まあ、騙されるアンタらが悪いって事で」

 少年を睨みつける二人に対し、一筋の汗をながしつつ、笑みを浮かべながら少年はレッドのエレメンタルアームズに手を伸ばす。

 少年の目的は二人のエレメンタルアームズだったらしい。

 ——あの二人に、不意打ちとはいえ出し抜いて行動不能に持ってくなんて。

 普段の状況なら、クリアはこのように思いながら様子を見ていたことだろう。

 ……しかし、今は状況が状況だった。

 ——次の瞬間には、ほぼ反射的にクリアは飛び出していた。
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