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第7話 風炎の剣士
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——まさか、ね。
そんな良くないジンクスを払拭するために、二人に対してクリアは拳を構える。
クリアは武器の扱いの心得はあるが、まず使うことはない。
何故なら、クリアのモットーは敵味方問わず不殺で任務をこなすこと。
殺傷力の低い拳や蹴りで相手の戦う意志を奪い、丁重にお帰りいただくのだ。
そんなクリアに対して、レッドは左手に持つ大剣を肩に乗せるように構え、グリーンは両手で肩の高さに切っ先をクリアに向けて構えた。
どちらも、クリアが見たことのない構えだ。
——我流の剣術だろうか?
それならば、とクリアは彼らの戦い方を見極めるため、警戒を強めつつ先手を譲った。
「お先にどうぞ——」
「【ファイアレッド】!」
クリアが言った刹那、突然直径がクリアと同じか、それ以上ある火球がクリア目がけて飛んできた。
【ファイアレッド】と言うのが、この火球の術式名らしい。
本来、分子を操り大きな作用を発生させるには、高い集中力と的確な分子への指示の伝達が必要だ。
この一連の流れを「術式」と呼ぶのだが、分子には、完成させた術式に名を命名することで、自分が体内から放出した分子を使用する場合に限り——普通にキャスティングするなら体内の分子を使用するのは当たり前なのだが——術式名を言葉にするだけで自動で術式に沿って作用を起こす性質がある。
命名にもある程度のルールがあるが、それは今ここで説明する必要はなさそうだ。
こんな風に技名を言うのは、決して彼が特別かっこいい技名を叫びたいだとかそう言うことではなく、戦闘時においてはむしろ集中力を術式に割かずに技を出せる非常に有効な行動なのである。
もちろん、声に出すことで相手にどのような技を使ってくるか悟られたり、条件が揃ってないと最大限の作用を発揮できない場合もあるが。
何より、オリジナルで作成された術式は、開発者の発想力が大きく影響し、先人の中には、術式の作成に生涯を捧げて開発していた者もいるぐらいだ。
故に、如何に多くの術式を扱えるかどうかも、戦闘時の強さに大きく関わってくる。
実際、この放たれた火球も、一瞬で形成されたにしては巨大で、かなりの威力がありそうな事が見ただけでもクリアで無くてもわかるであろう。
今にも触れたものを焼き尽くさんと燃え盛る火球が、クリアに着弾するまでおよそ数瞬。
しかし、クリアは慌てる様子もなく、火球に対して右手を広げてまっすぐに伸ばした。
すると、火球は掌に触れた瞬間、まるで吸い込まれるように『消えて』いった。
——なるほど、こんな感じの術式なのか。
『消した』術式を【解析】してそう思ったクリアに対し、次に迫ってきたのは驚きの感情だった。
普通なら、今の火球が消えるのを見れば誰でも驚くべきだろう。
しかし、レッドは驚くこともなく、火球の後ろから炎を纏った大剣をクリアに向かって振り下ろしてきたのだ。
——これ程の術式をただの目眩しに使ってくるなんて。
そう思いつつも、クリアは即座に両手で燃える大剣の刃を挟み込むように正面から受け止めてみせる。
「相当なパワーですね。流石、大剣を振り回すだけのことはあります」
クリアは体に襲いくる衝撃を、膝をクッションにして床に逃す。
が、床は妙に複雑な分子の塊で構築されており、並の床なら今の衝撃的で壊れたりくぼみになっていたであろうが、この広間の床はびくともしなかった。
当然、逃しきれない衝撃はクリアの体に残るが、クリアは腕力で無理やり大剣ごと衝撃を抑え込んだ。
伊達に、クリアはボスの右腕と呼ばれている訳ではない。
その華奢な体からは想像できない程の力でレッドの一撃を受け止めたクリアは、そのまま大剣ごとレッドを投げ飛ばす。
刹那、気配を察知したクリアが後ろに飛べば、クリアのいた場所にグリーンの刀が空を切った。
「【ファイアレッド】は対処される前提で撃ったけど、まさか本当に『消して』くるとはなぁ。燃える刃もお構いなしに素手で受け止めてくるし。それに、完全に背後を取ったグリーンの斬撃まで躱すなんてな。……本当に自分で強いって言うだけのことはあるんだな」
レッドは頬を掻きながら、珍しいものを見るかのような視線をクリアに向けてきた。
——これは。
とクリアはある一つの考えに至る。
この二人は、自分の【力】について知っている可能性が高い、と。
それと同時に、クリアははっと唐突に思い出す。
クリアはグリーンの顔に見覚えがあった。
——ああ、どうして今朝のニュースにちゃんと目を通さなかったんだ、ちゃんと見ておけば、グリーンの姿を見た瞬間に彼の正体に気づいたろうに。
……クリアは少しだけ後悔することになった。
「グリーンさん、あなたはワイツ博士のお孫さんですね」
「ああ、その通りだ。ここまで気づかれないとは意外だったが」
彼もワイツ博士の助手として度々ニュースの映像に映り込むぐらいの人物だ。
グリーンの言う通り、すぐに気付けなかったのは、少々頭の回転が鈍り始めているのかも知れない。
エレメント学者のワイツ博士の助手とあらば、クリアの【力】について「もしかしたら」が「本当」であってもおかしくない。
むしろ、どこまでクリアは自分の【力】を把握されているかを警戒しなければならなくなった。
——先程の火球からの斬撃も、こちらの力を試すための攻防だったのなら。
相当油断できない、とクリアは気をより引き締める。
「そう考えたら、俺達、『ディールーツ』と直接対峙するのは初めてだけど、いきなりやばい相手とぶつかったってわけだな」
「その割には嬉しそうな顔してますけど?」
そう、レッドは言った内容の割には、嫌そうというより、むしろ嬉しそうな表情を浮かべていたのだ。
「だってさ、どうせこれからルーツの回収のために『ディールーツ』と戦っていくなら、最初から強いお前を倒せれば勢いが付くってもんだろ!」
まったく、このレッドという男は、楽観的なのか、本当に自信があるのか。
先の攻防で片鱗とはいえクリアの【力】を見たというのに、そんな前向きな台詞を吐けるとは。
力の差をみても怯むどころか嬉しそうに対峙するレッドに、エレメントについて豊富な知識をもつグリーン。
更に二人の連携はこれまで手合わせしてきた相手の中でも相当厄介で苦労しそうだ、とクリアは思った。
故に、もしもが起こる前に本当は強引にでもお帰り願いたい、と思う反面、二人を見て、クリアには試したい事もあった。
——まあ、もし試せなかったらそれはそれでいいか……。
クリアは心の中で割り切ると、「今度はこちらから」と言わんばかりに床を踏み込み勢いをつけてレッドに右拳を打ち込んだ。
先程の競合いで、力は大剣を振り回すレッドよりも自分に分があると確信したクリアは、剣士の苦手とする間合い、接近戦へ持ち込む事で有利に相手を追い詰めることを選んだのだ。
その判断を下したクリアに対し、レッドは間一髪で大剣の刃を盾にしてクリアの拳を受けた。
予想外の力だったのか、レッドは踏ん張りきれず足を擦りながら後退する。
すぐさま、クリアは追撃に迫ろうとするが、グリーンが横から斬撃を放ちレッドのカバーに入ってくる。
——が、その斬撃はクリアに届くことはなく。
「せめてさっきのレッドさんみたいに術式で来ないと。せっかくの風属性の速度が泣いてますよ。それとも、エレメントを乗せて振るった斬撃すら当たらないと怖気付いたんですか? その程度の速度の斬撃ならボクに当てるなんて不可能ですよ」
クリアは難なく左手の三本の指でグリーンの刀を受け止めていた。
……しかし、グリーンは別段焦る様子もなく。
「【風足】!」
術式を利用して加速したブーツによる蹴りをクリアに叩き込む。
——だが、これもクリアはもう片方の手で、後頭部目掛けて放たれた蹴りを受け止めた。
これでグリーンは、刀と片足を掴まれ宙に浮く体勢となってしまった。
……が、それが初めから狙いだったとしたら。
「【風の弾丸】!」
「【ファイアレッド】!」
刀から片手を離し、グリーンの指先から風の塊を放つ術式が、クリアの目掛けて放たれた。
それに合わせていつの間にか空中に飛んでいたレッドからも、下にいるクリア目がけて先程の火球が放たれる。
どうやら、グリーンの策略にまんまと乗せられていたらしい。
一手目の斬撃、二手目の蹴りでクリアの反応速度を確認しながら、両手を使わせる。
そこから自らの体をクリアに固定させ、至近距離から速度重視の攻撃術式。
流石に近すぎる【風の弾丸】に、クリアは避けることはできなかった。
しかし、クリアもタダで受けるつもりはなかった。
仕方なく術式を受け、その勢いを利用して吹っ飛ばされる。
——その勢いを利用してグリーンをその途中で投げ飛ばしながら。
直後、床に着弾した火球は、大きな爆発を起こし周辺のガレキを吹き飛ばした。
先程『消した』火球の術式の情報よりも爆発が激しいのを見て、クリアは流れるような一連の攻撃に素直に感動させられた。
「〈分子反応〉まで考慮した攻撃ですか……」
〈分子反応〉。それは、特定のエレメントが組み合わさった際に、より強力な分子の作用が起こる現象のことだ。
特に風と火の反応は顕著に出やすい。
火の分子は風の分子を取り込むと、風の分子を火の分子に変質させ、火力、威力を増加する性質がある。
あの場で吹き飛ばされてなければ、打ち込まれた【風の弾丸】が弾け散漫した風の分子で威力が上がった【ファイアレッド】の直撃を受ける羽目になっていただらう。
三者三様にガレキを払うと、クリアは呼吸がしづらくなったことに気が付いた。
今の爆発で、遺跡内最深部であるこの場所の空気がかなり薄くなってしまったようだ。
向こうは風属性のグリーンがいるから呼吸にはあまり困らないだろうが、これすらも戦略に組み込まれているのだとしたら……。
——これは早期決着を狙わないといけないかも知れない。
そんな焦燥感をクリアは感じた。
そんな良くないジンクスを払拭するために、二人に対してクリアは拳を構える。
クリアは武器の扱いの心得はあるが、まず使うことはない。
何故なら、クリアのモットーは敵味方問わず不殺で任務をこなすこと。
殺傷力の低い拳や蹴りで相手の戦う意志を奪い、丁重にお帰りいただくのだ。
そんなクリアに対して、レッドは左手に持つ大剣を肩に乗せるように構え、グリーンは両手で肩の高さに切っ先をクリアに向けて構えた。
どちらも、クリアが見たことのない構えだ。
——我流の剣術だろうか?
それならば、とクリアは彼らの戦い方を見極めるため、警戒を強めつつ先手を譲った。
「お先にどうぞ——」
「【ファイアレッド】!」
クリアが言った刹那、突然直径がクリアと同じか、それ以上ある火球がクリア目がけて飛んできた。
【ファイアレッド】と言うのが、この火球の術式名らしい。
本来、分子を操り大きな作用を発生させるには、高い集中力と的確な分子への指示の伝達が必要だ。
この一連の流れを「術式」と呼ぶのだが、分子には、完成させた術式に名を命名することで、自分が体内から放出した分子を使用する場合に限り——普通にキャスティングするなら体内の分子を使用するのは当たり前なのだが——術式名を言葉にするだけで自動で術式に沿って作用を起こす性質がある。
命名にもある程度のルールがあるが、それは今ここで説明する必要はなさそうだ。
こんな風に技名を言うのは、決して彼が特別かっこいい技名を叫びたいだとかそう言うことではなく、戦闘時においてはむしろ集中力を術式に割かずに技を出せる非常に有効な行動なのである。
もちろん、声に出すことで相手にどのような技を使ってくるか悟られたり、条件が揃ってないと最大限の作用を発揮できない場合もあるが。
何より、オリジナルで作成された術式は、開発者の発想力が大きく影響し、先人の中には、術式の作成に生涯を捧げて開発していた者もいるぐらいだ。
故に、如何に多くの術式を扱えるかどうかも、戦闘時の強さに大きく関わってくる。
実際、この放たれた火球も、一瞬で形成されたにしては巨大で、かなりの威力がありそうな事が見ただけでもクリアで無くてもわかるであろう。
今にも触れたものを焼き尽くさんと燃え盛る火球が、クリアに着弾するまでおよそ数瞬。
しかし、クリアは慌てる様子もなく、火球に対して右手を広げてまっすぐに伸ばした。
すると、火球は掌に触れた瞬間、まるで吸い込まれるように『消えて』いった。
——なるほど、こんな感じの術式なのか。
『消した』術式を【解析】してそう思ったクリアに対し、次に迫ってきたのは驚きの感情だった。
普通なら、今の火球が消えるのを見れば誰でも驚くべきだろう。
しかし、レッドは驚くこともなく、火球の後ろから炎を纏った大剣をクリアに向かって振り下ろしてきたのだ。
——これ程の術式をただの目眩しに使ってくるなんて。
そう思いつつも、クリアは即座に両手で燃える大剣の刃を挟み込むように正面から受け止めてみせる。
「相当なパワーですね。流石、大剣を振り回すだけのことはあります」
クリアは体に襲いくる衝撃を、膝をクッションにして床に逃す。
が、床は妙に複雑な分子の塊で構築されており、並の床なら今の衝撃的で壊れたりくぼみになっていたであろうが、この広間の床はびくともしなかった。
当然、逃しきれない衝撃はクリアの体に残るが、クリアは腕力で無理やり大剣ごと衝撃を抑え込んだ。
伊達に、クリアはボスの右腕と呼ばれている訳ではない。
その華奢な体からは想像できない程の力でレッドの一撃を受け止めたクリアは、そのまま大剣ごとレッドを投げ飛ばす。
刹那、気配を察知したクリアが後ろに飛べば、クリアのいた場所にグリーンの刀が空を切った。
「【ファイアレッド】は対処される前提で撃ったけど、まさか本当に『消して』くるとはなぁ。燃える刃もお構いなしに素手で受け止めてくるし。それに、完全に背後を取ったグリーンの斬撃まで躱すなんてな。……本当に自分で強いって言うだけのことはあるんだな」
レッドは頬を掻きながら、珍しいものを見るかのような視線をクリアに向けてきた。
——これは。
とクリアはある一つの考えに至る。
この二人は、自分の【力】について知っている可能性が高い、と。
それと同時に、クリアははっと唐突に思い出す。
クリアはグリーンの顔に見覚えがあった。
——ああ、どうして今朝のニュースにちゃんと目を通さなかったんだ、ちゃんと見ておけば、グリーンの姿を見た瞬間に彼の正体に気づいたろうに。
……クリアは少しだけ後悔することになった。
「グリーンさん、あなたはワイツ博士のお孫さんですね」
「ああ、その通りだ。ここまで気づかれないとは意外だったが」
彼もワイツ博士の助手として度々ニュースの映像に映り込むぐらいの人物だ。
グリーンの言う通り、すぐに気付けなかったのは、少々頭の回転が鈍り始めているのかも知れない。
エレメント学者のワイツ博士の助手とあらば、クリアの【力】について「もしかしたら」が「本当」であってもおかしくない。
むしろ、どこまでクリアは自分の【力】を把握されているかを警戒しなければならなくなった。
——先程の火球からの斬撃も、こちらの力を試すための攻防だったのなら。
相当油断できない、とクリアは気をより引き締める。
「そう考えたら、俺達、『ディールーツ』と直接対峙するのは初めてだけど、いきなりやばい相手とぶつかったってわけだな」
「その割には嬉しそうな顔してますけど?」
そう、レッドは言った内容の割には、嫌そうというより、むしろ嬉しそうな表情を浮かべていたのだ。
「だってさ、どうせこれからルーツの回収のために『ディールーツ』と戦っていくなら、最初から強いお前を倒せれば勢いが付くってもんだろ!」
まったく、このレッドという男は、楽観的なのか、本当に自信があるのか。
先の攻防で片鱗とはいえクリアの【力】を見たというのに、そんな前向きな台詞を吐けるとは。
力の差をみても怯むどころか嬉しそうに対峙するレッドに、エレメントについて豊富な知識をもつグリーン。
更に二人の連携はこれまで手合わせしてきた相手の中でも相当厄介で苦労しそうだ、とクリアは思った。
故に、もしもが起こる前に本当は強引にでもお帰り願いたい、と思う反面、二人を見て、クリアには試したい事もあった。
——まあ、もし試せなかったらそれはそれでいいか……。
クリアは心の中で割り切ると、「今度はこちらから」と言わんばかりに床を踏み込み勢いをつけてレッドに右拳を打ち込んだ。
先程の競合いで、力は大剣を振り回すレッドよりも自分に分があると確信したクリアは、剣士の苦手とする間合い、接近戦へ持ち込む事で有利に相手を追い詰めることを選んだのだ。
その判断を下したクリアに対し、レッドは間一髪で大剣の刃を盾にしてクリアの拳を受けた。
予想外の力だったのか、レッドは踏ん張りきれず足を擦りながら後退する。
すぐさま、クリアは追撃に迫ろうとするが、グリーンが横から斬撃を放ちレッドのカバーに入ってくる。
——が、その斬撃はクリアに届くことはなく。
「せめてさっきのレッドさんみたいに術式で来ないと。せっかくの風属性の速度が泣いてますよ。それとも、エレメントを乗せて振るった斬撃すら当たらないと怖気付いたんですか? その程度の速度の斬撃ならボクに当てるなんて不可能ですよ」
クリアは難なく左手の三本の指でグリーンの刀を受け止めていた。
……しかし、グリーンは別段焦る様子もなく。
「【風足】!」
術式を利用して加速したブーツによる蹴りをクリアに叩き込む。
——だが、これもクリアはもう片方の手で、後頭部目掛けて放たれた蹴りを受け止めた。
これでグリーンは、刀と片足を掴まれ宙に浮く体勢となってしまった。
……が、それが初めから狙いだったとしたら。
「【風の弾丸】!」
「【ファイアレッド】!」
刀から片手を離し、グリーンの指先から風の塊を放つ術式が、クリアの目掛けて放たれた。
それに合わせていつの間にか空中に飛んでいたレッドからも、下にいるクリア目がけて先程の火球が放たれる。
どうやら、グリーンの策略にまんまと乗せられていたらしい。
一手目の斬撃、二手目の蹴りでクリアの反応速度を確認しながら、両手を使わせる。
そこから自らの体をクリアに固定させ、至近距離から速度重視の攻撃術式。
流石に近すぎる【風の弾丸】に、クリアは避けることはできなかった。
しかし、クリアもタダで受けるつもりはなかった。
仕方なく術式を受け、その勢いを利用して吹っ飛ばされる。
——その勢いを利用してグリーンをその途中で投げ飛ばしながら。
直後、床に着弾した火球は、大きな爆発を起こし周辺のガレキを吹き飛ばした。
先程『消した』火球の術式の情報よりも爆発が激しいのを見て、クリアは流れるような一連の攻撃に素直に感動させられた。
「〈分子反応〉まで考慮した攻撃ですか……」
〈分子反応〉。それは、特定のエレメントが組み合わさった際に、より強力な分子の作用が起こる現象のことだ。
特に風と火の反応は顕著に出やすい。
火の分子は風の分子を取り込むと、風の分子を火の分子に変質させ、火力、威力を増加する性質がある。
あの場で吹き飛ばされてなければ、打ち込まれた【風の弾丸】が弾け散漫した風の分子で威力が上がった【ファイアレッド】の直撃を受ける羽目になっていただらう。
三者三様にガレキを払うと、クリアは呼吸がしづらくなったことに気が付いた。
今の爆発で、遺跡内最深部であるこの場所の空気がかなり薄くなってしまったようだ。
向こうは風属性のグリーンがいるから呼吸にはあまり困らないだろうが、これすらも戦略に組み込まれているのだとしたら……。
——これは早期決着を狙わないといけないかも知れない。
そんな焦燥感をクリアは感じた。
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