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第1話 クリアとディールーツ

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「うあぁぁぁ! ……はあ、またこの記憶ゆめか」

 ベッドから勢いよく飛び起きた青年、もといクリアは、先ほどまでの光景と感覚がいつもの記憶ゆめである事を認識した。そして、よく初対面で珍しいと言われる生まれつきの白い髪を無意識に軽くクシャッと握った。

 これはこの記憶ゆめを見た時によくやる、クリアの癖のようなものだ。

 ——髪も寝巻きもだいぶ汗ばんでいて、気持ちが悪い。

 この映像ゆめは、昔から何度も何度も繰り返し夢として再生されてきた。
 クリアにとって忘れない、忘れられてはならない記憶。

 「大丈夫」と自分に言い聞かせるようにゆっくりと深呼吸をしたクリアは、汗を流すためベッドから降りて部屋を出た。
 

「今日は久々の大切な任務なんだ。今は夢の事を忘れて、集中しないと」

 早朝故に他に人がいないこのシャワールームで、誰に聞かせるわけでもなく。
 クリアはシャワーを浴びながら自分の頬をペチペチと両手で叩き、気合を入れる。

 クリアはあの記憶ゆめの出来事が起こった日より、自分を迎え入れてくれた組織『ディールーツ』の一員として過ごしてきた。

 『ディールーツ』は、様々な分野の事業を成功させてきた世界的に有名な組織である。

 今や世界の市場の拡大や土地の開発、技術的発展の一端を担っている。

 また、その事業で得た利益を世界の歴史的な文化遺産や遺跡の保護、研究を行う組織としても有名だ。

 ……まあそれは表向きの話、だが。

 もちろん、組織のボスであるガウス・ウィルの組織を運営する能力は本物だし、今までの事業の拡大の成功がそれを物語っている。

 ではなにが真の目的なのか。

 それは、世界各地の遺跡や古代文明の跡地に存在しているとある遺物を探しているのだ。

 元はおとぎ話や古い文献に記された代物だったが、その文献を基にいくつかは既に発見され、『ディールーツ』が所有、保管している。

今のクリアは弱冠十八歳にして、ボスのボディガードとしての戦闘面の実力や遺跡調査、更には表事業拡大にも大きな成果を出し、それらの功績を認められボスの右腕——と呼ばれる役職である代表補佐官——となった。

 全てを失ったあの日、偶然ボスに命を救われ拾われてから、それはもう想像を絶するような努力を重ねクリアは今の役職まで昇り詰めたのだ。

その昇進の報告を受けた時の気持ちは、感無量でクリアにとって今でも鮮明に思い出せるぐらいだ。

 何故なら、クリアはボスを本当の父親の様に慕っているから。
 そのボスの一番役に立てる所まで昇り詰めた時の喜びは、今でもずっと胸にクリアは密かにしまっていた。

 そして今、その培ってきた力を存分に振るう時が来ているのだ。

 ……まあ、同じくそれも表向きの役職なのだが。

 組織の真の目的達成を進める中で、クリアの役職は裏向きとして目的の遺物を発掘及び回収すること、そして邪魔する者の排除も含んでいるのである。

 今日の任務も、クリアが独り言で言ったように久々に発掘できそうなその目的の遺物を回収することだ。 

 ボスの期待を裏切らない為にも、「今日も必ず任務を成功させる」と意気込見ながらシャワー室から出たクリアは、設備の一つである全身ドライヤーで体や髪を乾かすと、黒を基調とした胸元にディールーツの組織マークが刺繍された制服を身に纏う。

 そして最後に自分の役職を示す青いバンドを左腕に通した。

 これで、『ディールーツ』のボスの右腕、クリアが完成したというわけだ。
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