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1章.大学授業編
18.本当の災厄
しおりを挟む(もう絶対、ほだされた、騙された! っくしょー)
“マーレン”と名前を呼んだ途端、マーレンは口元を手で押さえた。何事、と思えば肩を震わせて笑いだし、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべ「せんせぇ。カワイイねー」とのたまわったのだ。
チョロい、その顔にはそう書いてあった。
(もう、ほだされない!)
リディアは、息を吐いて心を落ちつかせる。
冷静になる。
(とりあえず、まずは魔法制御よね)
彼には、制御できるようになるまで魔法使用禁止を命じておいたが、今後の方針を考えないといけないだろう。
――結局、昼食は食べ損ねた。
……そして今、理不尽な目にあっている。
目の前には、トトロがいた。それも大トトロ!
「あなたね! ドアが閉まっているのは、呼ぶなって意味よ!! そんなこともわからないのーーーー!!」
初めて部屋に出勤の札がかかっていた准教授の部屋。会議になっても来なかったから、教授から呼んで来るようにとの命令で、ドアをノックしたら怒鳴られた。
三角形の体型のずっしりとした大トトロが叫んでいる。
そして最後に、「常識知らず!」と怒鳴られて、ドアが閉まる。
――会議……欠席ということで、いいですか?
呆然としたまま会議室に戻り、教授に「准教授に呼ぶなと言われました」と告げたら「あっそう」とだけ返された。
……いいんだ?
けれどまた呼びに行けと言われたら、叫び返せる自信はない。
「じゃあ、会議を始めましょう。それよりあなた、冷房効いてないじゃない。いつ、つけたのよ、本当に気が利かないわね」
――はい。部屋は、冷えていないですね。
マーレンとの測定が終わり、慌てて会議室に駆け込んだが冷房を入れられたのは、会議が始まる五分前。
教授は午後からの重役出勤。
ちなみにこの会議室はあなたの部屋の目の前ですから、ポチっと冷房をつけてくださってもよかったのですけど。私、お昼も食べそこねたんですけどね。
そんな事が頭をよぎり、でも口は動かさないのが懸命だ。
「それに、ブラウスにシミがついているわ。だらしないわね」
「……失礼しました」
地獄から発したような声が自分の喉から漏れる。
マーレンとの戦闘でついた泥シミだ。会議に出るより早く洗いたいんですけどね。
リディアはお地蔵さんになることに決めた。
ホッとしたのは、王子との対戦にまつわるあれこれは何も言われないこと。今はまだバレていないから、よしとしよう。
「ところで、来月の実戦実習だけど、先方に公式に依頼文書を送っておいて頂戴」
「王国魔法師団での、魔獣討伐の実習ですよね。どこの師団に決まったんですか?」
トップ同士がかわす公文書のやり取りも、自分がやってしまっていいの? 教授名で出すのに。
「今年は、第一師団が受けてくれたらしいわ」
リディアは、MPを打つ手を止めた。第一師団――って。
「ソードですか? ――ディアン・マクウェル団長の?」
「そう、そんな名前ね。彼宛に文書を送っておいて頂戴」
リディアは、歪めた口をきゅうと引き締めた。叫び出したい。
『漆黒の災厄』、あの人、そう呼ばれているのを、知っていますか? 教授の肩を掴んでがくがく揺さぶりたい。
学生――嫌いでしたよね。実習生なんて、長い間、受けていないですよね。
――ディアン先輩。実習受けたの、わざとですか――!?
心の中でリディアはそう叫んだ。
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