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1章.大学授業編
13.生徒の特長
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「バッカらしい、そんなのやっても意味ねーじゃん」
大きく音をたてて、立ち上がり「帰るわ」と言ったのは、ウィルだった。橙色の髪の毛を揺らして、教室を出ていく。
僅かに静かになる教室。リディアは他の生徒も出ていくかと覚悟した。
けれど、「先生、僕やっていい?」と、笑う少年に顔を向ける。
愛らしい笑みで、一番乗りをしたのは美少年。肌はつやつやで、天使のよう。
「えーと、あなた。たしか――ケイ・ベーカー?」
なんとも可愛らしく小首を傾げて、ニッコリと笑う顔。
それが肯定らしい。ちなみに、男子だ。女のリディアが到底敵わない愛嬌を持っている。
「はい。先生が覚えていてくれて嬉しい」
彼は、前に出てきて楽しげに計測をする。水属性と風属性が百超えし、あとは五十から八十の平均的な値だった。魔石も、風属性が反応し、その後水属性が反応。それだけで変わったところはない。
「平均的だし、バランスもいいわ。魔石との差異もないから、測定器の値と同じかな」
首を傾げているケイに、リディアも何かと思う。
「得意な魔法はある?」
「火球魔法です。前の学校ではクラスでも、詠唱から三分と発現が早いし、連続で二発打てるのでS評価もらっていました」
(詠唱から三分、詠唱に一分かかるとすると、早くて四分か)
「連続って、二回目はどのくらいで発現する?」
「……さあ。五分はかからないですけど」
ケイはそれきりニコニコと黙っている。けれど次第に顔を曇らせる。
「僕、早いほうですよ。普通は五分くらいかかるんだから」
その顔も愛らしいけれど、リディアは気にかかることがあった。
(そういえば、学生の魔法の発現にかかる平均時間を私は知らない)
魔法師団に配属される新人くらいかと思っていたけど、更に下限修正しないといけないみたい。
「そうね。でも、水と風が高いから、水系や風系魔法の習得に力を入れてもいいんじゃない?」
「だって、水や風って防御系でしょ? 僕、攻撃系のほうがいいな。意外って言われるんだけど」
「え?」
「え?」
リディアが聞き返すと彼も、えっと返す。ええと何を言われたの?
(“意外”っていう言葉に同意を求められている?)
別に何も思わなかったのだけど。
「僕、癒し系みたいなんだけど、結構違うんですよ? 肉食系男子?」
にこにこにこ。
「そ、そうなの?」
「僕、先生が担当でよかったです」
機械をゼロ設定に戻すリディアに、ケイはずっと話しかけてくる。なついてくる子犬みたいだけど……。どうしよう、会話に困る。
「先生優しいし。話しやすいし」
「ええと……そう、なのね」
なんていうか。なんていうか。
なんというか、距離の近さが――苦手かもしれない。慕ってくる様子は、女子にも可愛がられそうだけど。
顔がいい男性が苦手というのもあるけれど、それとは少し違う気もする。
リディアは、さり気なく距離をとって、次の生徒に促す。でもまだ話しかけてくる。
「この領域って、それ以外の能力も伸ばしてくれるんですよね?」
「伸ばすというより、その分野の研究よ。それに、あなたは六系統の魔法が使えるだけでもすごいことよ?」
ケイは何故この領域を選んだのだろう。火系魔法が得意と思うのであれば、火系領域を選択すればよかったのに。
(ただ、火系領域はすごく人気で倍率が高かったからな)
ケイの火属性値は八十だ。人気の領域は通りにくいかもしれない。けれどそれなら風か水を選択してもよかった、って彼は、そちらはお好みではないと言っていた。
じゃあ、なんでこの領域?
(編入生だから、他の先生からの情報がないのよね)
「じゃあ、また測ってもいいですか?」
「一度測ったから、そんなに変わらないと思うわ」
(ひっかかるというか……)
「僕、先生みたいになりたいです」
「そうね、頑張って。はい、次は他の生徒の番。ベーカーは、席で見ていなさい」
ケイは肩を竦めて、席に戻る。その顔が強張って、舌打ちが聞こえたのは、気の所為――じゃないよね。
「先生、僕も?」
いつも寝ているバーナビーが、うつ伏せていた顔をあげて訊いてくる。とろんとした眼差し。
オリーブ色の肌に、長い黒髪の合間に垣間見える特徴的な赤い瞳。
色っぽく見えるが、まだ寝ぼけているだけだろう。
うつ伏せで寝ていると気づかないけれど、ラテン系の血が入っているからか、上半身だけ見てもかなり立派な体格の大きな身体だ。
「オルコット、具合は?」
「うん。悪くないよ」
バーナビー・オルコット。
失われた地下世界で、常に夢を見て生きる予知能力のある民族。
彼らの民族は日中が苦手だから、寝ていても仕方がないと一年次から大目に見られているらしい。
「あなたも興味があれば測って」
リディアを含め魔力がある人間は、誰もが魔力を少しずつ消耗している。日常では、生命に問題ない程度だが、大きな魔法や魔力を捧げなければいけない召喚術などで消耗し、ある一定値以下になると、昏睡状態になってしまうのだ。
彼は、魔力欠乏症という魔力代謝障害を起こす疾患を持っている。
息をして日々生活しているだけで、魔力をどんどん消費してしまう。
だから常に魔力補充薬を内服して魔力を補充している。
「うん、わかった」
大きな身体なのに、温和な表情。彼こそ癒し系ではないかと思ってしまう。
大型犬のように穏やかな気配で微笑んで、彼はまた寝てしまった。
彼の魔力値は、薬で補充したものだから測っても仕方がない。だから強制はしない。
ただ、授業参加をしてくれないと単位があげられない。
本当は、起きていて欲しいけどね。
大きく音をたてて、立ち上がり「帰るわ」と言ったのは、ウィルだった。橙色の髪の毛を揺らして、教室を出ていく。
僅かに静かになる教室。リディアは他の生徒も出ていくかと覚悟した。
けれど、「先生、僕やっていい?」と、笑う少年に顔を向ける。
愛らしい笑みで、一番乗りをしたのは美少年。肌はつやつやで、天使のよう。
「えーと、あなた。たしか――ケイ・ベーカー?」
なんとも可愛らしく小首を傾げて、ニッコリと笑う顔。
それが肯定らしい。ちなみに、男子だ。女のリディアが到底敵わない愛嬌を持っている。
「はい。先生が覚えていてくれて嬉しい」
彼は、前に出てきて楽しげに計測をする。水属性と風属性が百超えし、あとは五十から八十の平均的な値だった。魔石も、風属性が反応し、その後水属性が反応。それだけで変わったところはない。
「平均的だし、バランスもいいわ。魔石との差異もないから、測定器の値と同じかな」
首を傾げているケイに、リディアも何かと思う。
「得意な魔法はある?」
「火球魔法です。前の学校ではクラスでも、詠唱から三分と発現が早いし、連続で二発打てるのでS評価もらっていました」
(詠唱から三分、詠唱に一分かかるとすると、早くて四分か)
「連続って、二回目はどのくらいで発現する?」
「……さあ。五分はかからないですけど」
ケイはそれきりニコニコと黙っている。けれど次第に顔を曇らせる。
「僕、早いほうですよ。普通は五分くらいかかるんだから」
その顔も愛らしいけれど、リディアは気にかかることがあった。
(そういえば、学生の魔法の発現にかかる平均時間を私は知らない)
魔法師団に配属される新人くらいかと思っていたけど、更に下限修正しないといけないみたい。
「そうね。でも、水と風が高いから、水系や風系魔法の習得に力を入れてもいいんじゃない?」
「だって、水や風って防御系でしょ? 僕、攻撃系のほうがいいな。意外って言われるんだけど」
「え?」
「え?」
リディアが聞き返すと彼も、えっと返す。ええと何を言われたの?
(“意外”っていう言葉に同意を求められている?)
別に何も思わなかったのだけど。
「僕、癒し系みたいなんだけど、結構違うんですよ? 肉食系男子?」
にこにこにこ。
「そ、そうなの?」
「僕、先生が担当でよかったです」
機械をゼロ設定に戻すリディアに、ケイはずっと話しかけてくる。なついてくる子犬みたいだけど……。どうしよう、会話に困る。
「先生優しいし。話しやすいし」
「ええと……そう、なのね」
なんていうか。なんていうか。
なんというか、距離の近さが――苦手かもしれない。慕ってくる様子は、女子にも可愛がられそうだけど。
顔がいい男性が苦手というのもあるけれど、それとは少し違う気もする。
リディアは、さり気なく距離をとって、次の生徒に促す。でもまだ話しかけてくる。
「この領域って、それ以外の能力も伸ばしてくれるんですよね?」
「伸ばすというより、その分野の研究よ。それに、あなたは六系統の魔法が使えるだけでもすごいことよ?」
ケイは何故この領域を選んだのだろう。火系魔法が得意と思うのであれば、火系領域を選択すればよかったのに。
(ただ、火系領域はすごく人気で倍率が高かったからな)
ケイの火属性値は八十だ。人気の領域は通りにくいかもしれない。けれどそれなら風か水を選択してもよかった、って彼は、そちらはお好みではないと言っていた。
じゃあ、なんでこの領域?
(編入生だから、他の先生からの情報がないのよね)
「じゃあ、また測ってもいいですか?」
「一度測ったから、そんなに変わらないと思うわ」
(ひっかかるというか……)
「僕、先生みたいになりたいです」
「そうね、頑張って。はい、次は他の生徒の番。ベーカーは、席で見ていなさい」
ケイは肩を竦めて、席に戻る。その顔が強張って、舌打ちが聞こえたのは、気の所為――じゃないよね。
「先生、僕も?」
いつも寝ているバーナビーが、うつ伏せていた顔をあげて訊いてくる。とろんとした眼差し。
オリーブ色の肌に、長い黒髪の合間に垣間見える特徴的な赤い瞳。
色っぽく見えるが、まだ寝ぼけているだけだろう。
うつ伏せで寝ていると気づかないけれど、ラテン系の血が入っているからか、上半身だけ見てもかなり立派な体格の大きな身体だ。
「オルコット、具合は?」
「うん。悪くないよ」
バーナビー・オルコット。
失われた地下世界で、常に夢を見て生きる予知能力のある民族。
彼らの民族は日中が苦手だから、寝ていても仕方がないと一年次から大目に見られているらしい。
「あなたも興味があれば測って」
リディアを含め魔力がある人間は、誰もが魔力を少しずつ消耗している。日常では、生命に問題ない程度だが、大きな魔法や魔力を捧げなければいけない召喚術などで消耗し、ある一定値以下になると、昏睡状態になってしまうのだ。
彼は、魔力欠乏症という魔力代謝障害を起こす疾患を持っている。
息をして日々生活しているだけで、魔力をどんどん消費してしまう。
だから常に魔力補充薬を内服して魔力を補充している。
「うん、わかった」
大きな身体なのに、温和な表情。彼こそ癒し系ではないかと思ってしまう。
大型犬のように穏やかな気配で微笑んで、彼はまた寝てしまった。
彼の魔力値は、薬で補充したものだから測っても仕方がない。だから強制はしない。
ただ、授業参加をしてくれないと単位があげられない。
本当は、起きていて欲しいけどね。
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