上 下
20 / 28
1章.大学授業編

13.生徒の特長

しおりを挟む
「バッカらしい、そんなのやっても意味ねーじゃん」
 
 大きく音をたてて、立ち上がり「帰るわ」と言ったのは、ウィルだった。橙色の髪の毛を揺らして、教室を出ていく。
 
 僅かに静かになる教室。リディアは他の生徒も出ていくかと覚悟した。
 
 けれど、「先生、僕やっていい?」と、笑う少年に顔を向ける。
 愛らしい笑みで、一番乗りをしたのは美少年。肌はつやつやで、天使のよう。

「えーと、あなた。たしか――ケイ・ベーカー?」

 なんとも可愛らしく小首を傾げて、ニッコリと笑う顔。
 それが肯定らしい。ちなみに、男子だ。女のリディアが到底敵わない愛嬌を持っている。

「はい。先生が覚えていてくれて嬉しい」

 彼は、前に出てきて楽しげに計測をする。水属性と風属性が百超えし、あとは五十から八十の平均的な値だった。魔石も、風属性が反応し、その後水属性が反応。それだけで変わったところはない。

「平均的だし、バランスもいいわ。魔石との差異もないから、測定器の値と同じかな」

 首を傾げているケイに、リディアも何かと思う。

「得意な魔法はある?」
「火球魔法です。前の学校ではクラスでも、詠唱から三分と発現が早いし、連続で二発打てるのでS評価もらっていました」

(詠唱から三分、詠唱に一分かかるとすると、早くて四分か)

「連続って、二回目はどのくらいで発現する?」
「……さあ。五分はかからないですけど」

 ケイはそれきりニコニコと黙っている。けれど次第に顔を曇らせる。

「僕、早いほうですよ。普通は五分くらいかかるんだから」

 その顔も愛らしいけれど、リディアは気にかかることがあった。

(そういえば、学生の魔法の発現にかかる平均時間を私は知らない)

 魔法師団に配属される新人くらいかと思っていたけど、更に下限修正しないといけないみたい。

「そうね。でも、水と風が高いから、水系や風系魔法の習得に力を入れてもいいんじゃない?」
「だって、水や風って防御系でしょ? 僕、攻撃系のほうがいいな。意外って言われるんだけど」
「え?」
「え?」

 リディアが聞き返すと彼も、えっと返す。ええと何を言われたの?

(“意外”っていう言葉に同意を求められている?)

 別に何も思わなかったのだけど。

「僕、癒し系みたいなんだけど、結構違うんですよ? 肉食系男子?」

 にこにこにこ。

「そ、そうなの?」
「僕、先生が担当でよかったです」

 機械をゼロ設定に戻すリディアに、ケイはずっと話しかけてくる。なついてくる子犬みたいだけど……。どうしよう、会話に困る。

「先生優しいし。話しやすいし」
「ええと……そう、なのね」

 なんていうか。なんていうか。
 なんというか、距離の近さが――苦手かもしれない。慕ってくる様子は、女子にも可愛がられそうだけど。

 顔がいい男性が苦手というのもあるけれど、それとは少し違う気もする。

 リディアは、さり気なく距離をとって、次の生徒に促す。でもまだ話しかけてくる。

「この領域って、それ以外の能力も伸ばしてくれるんですよね?」
「伸ばすというより、その分野の研究よ。それに、あなたは六系統の魔法が使えるだけでもすごいことよ?」
 
 ケイは何故この領域を選んだのだろう。火系魔法が得意と思うのであれば、火系領域を選択すればよかったのに。

(ただ、火系領域はすごく人気で倍率が高かったからな)

 ケイの火属性値は八十だ。人気の領域は通りにくいかもしれない。けれどそれなら風か水を選択してもよかった、って彼は、そちらはお好みではないと言っていた。

 じゃあ、なんでこの領域?

(編入生だから、他の先生からの情報がないのよね)

「じゃあ、また測ってもいいですか?」
「一度測ったから、そんなに変わらないと思うわ」

(ひっかかるというか……)

「僕、先生みたいになりたいです」
「そうね、頑張って。はい、次は他の生徒の番。ベーカーは、席で見ていなさい」

 ケイは肩を竦めて、席に戻る。その顔が強張って、舌打ちが聞こえたのは、気の所為――じゃないよね。

「先生、僕も?」
 
 いつも寝ているバーナビーが、うつ伏せていた顔をあげて訊いてくる。とろんとした眼差し。 
 オリーブ色の肌に、長い黒髪の合間に垣間見える特徴的な赤い瞳。
 色っぽく見えるが、まだ寝ぼけているだけだろう。

 うつ伏せで寝ていると気づかないけれど、ラテン系の血が入っているからか、上半身だけ見てもかなり立派な体格の大きな身体だ。

「オルコット、具合は?」
「うん。悪くないよ」
 
 バーナビー・オルコット。
 失われた地下世界で、常に夢を見て生きる予知能力のある民族。
 彼らの民族は日中が苦手だから、寝ていても仕方がないと一年次から大目に見られているらしい。
 
「あなたも興味があれば測って」

 リディアを含め魔力がある人間は、誰もが魔力を少しずつ消耗している。日常では、生命に問題ない程度だが、大きな魔法や魔力を捧げなければいけない召喚術などで消耗し、ある一定値以下になると、昏睡状態になってしまうのだ。

 彼は、魔力欠乏症という魔力代謝障害を起こす疾患を持っている。
 息をして日々生活しているだけで、魔力をどんどん消費してしまう。
 だから常に魔力補充薬を内服して魔力を補充している。


「うん、わかった」

 大きな身体なのに、温和な表情。彼こそ癒し系ではないかと思ってしまう。
 大型犬のように穏やかな気配で微笑んで、彼はまた寝てしまった。

 彼の魔力値は、薬で補充したものだから測っても仕方がない。だから強制はしない。
 ただ、授業参加をしてくれないと単位があげられない。

 本当は、起きていて欲しいけどね。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ボクとセンセイの秘密

七町 優
恋愛
高校2年のボクと24歳のセンセイの秘密を描いたストーリーです。 タイトルで分かるとは思うのですが、恋愛ストーリーです。 一応登場人物たちのいる学校は関西という設定です。 なので関西弁での会話が多くなります。 ボクとセンセイの濃いような淡いような恋愛ストーリーをお楽しみください。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...