すべては神様のてのひらのうえ

ゆうひゆかり

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もしも天国があったなら

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『みくる、泣いてるのか?』

『うん、れいらちゃんとケンカしちゃって』

お兄ちゃんは私に悲しいことがあるといつも後ろから抱きしめてくれた。

それこそ保育園での揉め事からお母さんとのすれ違いまで。

お兄ちゃんの腕はあたたかくて私を夢見心地にしてくれて。

なのに八雲君の腕はやっぱり冬の水道水のように冷たくて。

私はほとんど無意識に彼の腕をそれも乱暴に振り解いてた。

「あ、ごめ…」

私の謝罪の言葉は形にならなかった。

不意に八雲君に頭を撫でられたから。

そして。

「僕のほうこそごめんね。
 どうやらびっくりさせちゃったみたいだ」

そう言う八雲君の顔はまるで捨てられた子犬みたいに俯いてて。

間がいいのか悪いのか茶一がやってきて私のスカートの裾を噛んで。

私はまるで茶一に導かれるように自室へと向かった。

自室はベッドと勉強机と本棚があって、そのどれにも大小様々なぬいぐるみが飾られていて、本棚のぬいぐるみはひとつの写真立てが。

「お兄ちゃん。
 私、お兄ちゃんを捨てようとしてたかも。
 ごめん」

その写真立ての中のお兄ちゃんはまるで謝る私を許すかのように大きくピースをしてた。

私は罪悪感を抱きながら八雲君から預かってたオモチャを投げて茶一と遊びはじめた。

私が投げるたびに茶一はハッハッと楽しげな息を漏らしながら私とドアまでのあいだを行き来して。

そんな茶一をぼんやりと眺めながら考える。

もし天国があったならお兄ちゃんはそこに逝けてるだろうか。

幸せだろうか。

そんなことを。
 
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