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聖女はまたたび
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「イゴール様の解呪は少しずつ進んでいるようです。あと10回ほど温泉に入れば、完全に解呪されるでしょう」
三日後に温泉の効果がきれたイゴールを鑑定したスヴェンが断定した途端、部屋の中に歓喜の声や安堵のため息が満ちた。エルンスト達3人は当然だという顔をしているけれど、私は不安だったから心底ほっとした。
よかった、私の温泉はきちんと効いていた。イゴールが助かることが、ただただ嬉しい。
ヴィンセントがこちらを向き、希望できらきらと輝く顔で見つめてきた。
「サキ、本当に……本当に、感謝する。サキの望み通り、一等地の土地と建物をいくつかピックアップしている。全てサキの物にしてほしい。いくらでも改装しよう」
「ありがとうございます」
「サキには、これからも魔物除けの温泉を出してほしい。対価はサキが望むものを用意する」
「わかりました。対価はお金でお願いします」
スローライフをするには、お金が必須!
私が望む生活は、旅行をしたりほしいものを好きに買ったり、家事などを誰かに頼んで自分はのんびりすること。通帳残高を気にしながらニートなんて、恐ろしくて出来ない性格なのだ。
「後で契約書を見て、問題なければサインをお願いする」
「はい。ひとつお願いがあるんですが、次に魔物除けの作戦を実行するとき、私もその場にいていいですか?」
スキルと技術を駆使して側溝を作っているので、私たちがいる一番大きな街を囲むぶんはもうすぐ出来上がるそうだ。
その時に、私の存在を見せつけるのがいいとエルンストが言っていた。そうすれば北領の人たちは私に感謝し、王都の人間が手を出しづらくなると。
貴族が私の暗殺などを依頼しても契約書に反することになるだろうとギルも言っていたけれど、できる手はすべて打っておきたいそうだ。自分の命がかかっている以上、私もその意見に賛成だ。
エルンストに何か聞いているのか、ヴィンセントはすぐに頷いた。
「こちらとしても、そのほうがいい」
「では、そのようにお願いします」
打ち合せを終え、イゴールに孫のように可愛がられてから部屋を出る。
おじいちゃんみたいと思っていることが伝わったのか、実際に「私のことはおじいちゃんと呼んでくれ」と言われて、たくさんのお菓子をもらった。それもまたおじいちゃんの行動っぽくて、一気に打ち解けてしまった。
客室へ戻り、散歩でもしようかと考えていると、ギルに服の裾を握られた。
「……少しは警戒してくれ。アグレル家はサキを取り込もうとしている。じゃないと厳格なイゴールがおじいちゃんと呼ばせて、見せびらかすように可愛がることはしない」
「ありがとう、ギル。頭に入れておくね」
私の温泉がないと、イゴールは解呪できない。そしてアグレル家や北領の貴族は、もはや温泉のとりこ。
回復や美容の温泉を出したところ、みんなやみつきになった。特にバートのハマりようがすごくて、一日に何度も温泉に入っている。
使用人たちにも温泉に浸かってもらっているし、イゴールの呪いを解いたので、私たちの扱いは非常にいい。
「あと、スヴェンには注意してくれ」
「スヴェンさんに?」
イゴールと会う時はスヴェンもいるので顔を合わせることはあるが、話したことは少ない。あの真面目でキリッとしたスヴェンを警戒?
「スヴェンは自分のことを惚れっぽいと言っていた。本当に惚れっぽいのだと。今まで何百回も惚れていて、すでにサキをかなり好きだがサキが迷惑に思うだろうから近付かないと言われた」
「えっ、あのスヴェンさんが惚れっぽい!? 私を好き!?」
「当たり前だ。イゴールを治したのに、おごり高ぶらず美しい」
「美しいって……ギルのほうが綺麗だよ」
「サキは美しいが?」
真顔でギルにそう言われると、どう返事をすればいいかわからない。
熱くなってきた頬を指先で冷やしながら、ごまかすようにお茶を飲んだ。
「ちなみに、昨日見かけた綺麗な人妻を好きになり、今日はまたサキに惚れたそうだ。よくわからん男だから近付かないように」
「あっ、スヴェンさんの好きってそんな感じなんだね。わかった、覚えとく」
「……僕のほうが早くサキと出会ったのに、スヴェンにサキのことがわかるはずがない」
なぜか拗ねるギルが可愛くて、頬の熱がやんわりと引いていく。
この中では、ギルが一番年下だ。私たちに心を許してきたのか、こういうふうに自分のことを言うようになったのが嬉しい。
気まぐれな猫に懐かれたような気持ちになりながら、そっと頭にふれてみる。拒否されず、少しだけ頭を寄せてきたので、そうっと頭をなでた。
「ヴィンセントにも注意してほしい。自分の父が突然呪いに倒れて当主になり、王には土地ごと見捨てられ加勢はなく、魔物が強くなっていく中で、北領が滅びないよう足掻いていたんだ。そこへ全てを女神のように救うサキが現れた。この状況を考えれば納得できるが、サキを見る目がだんだんと甘くなっている」
ヴィンセントからは着られないほど多くの素敵な洋服や装飾品が届けられている。食事は豪華になって至れり尽くせりだ。温泉を出してくれるお礼だと言っていたが、もらいすぎな気がする。
ヴィンセントは一日に何度も訪ねてきて、私と軽く会話をしていく。彼が誠実なのが、この数日でよくわかった。
「私の温泉目当てだと思うから大丈夫だよ」
「これだからサキは」
なぜか思いきりため息をつかれたが、よく考えてほしい。北領を治める当主なんだから、相手がいるはずだ。こう言っても反論されるだろうから、口には出さないけれども。
その後なぜか黙ってエルンストとレオも頭を差し出してきたので、頭を撫でることになった。なんだか猫にモテているような気持ちになる午後だった。
三日後に温泉の効果がきれたイゴールを鑑定したスヴェンが断定した途端、部屋の中に歓喜の声や安堵のため息が満ちた。エルンスト達3人は当然だという顔をしているけれど、私は不安だったから心底ほっとした。
よかった、私の温泉はきちんと効いていた。イゴールが助かることが、ただただ嬉しい。
ヴィンセントがこちらを向き、希望できらきらと輝く顔で見つめてきた。
「サキ、本当に……本当に、感謝する。サキの望み通り、一等地の土地と建物をいくつかピックアップしている。全てサキの物にしてほしい。いくらでも改装しよう」
「ありがとうございます」
「サキには、これからも魔物除けの温泉を出してほしい。対価はサキが望むものを用意する」
「わかりました。対価はお金でお願いします」
スローライフをするには、お金が必須!
私が望む生活は、旅行をしたりほしいものを好きに買ったり、家事などを誰かに頼んで自分はのんびりすること。通帳残高を気にしながらニートなんて、恐ろしくて出来ない性格なのだ。
「後で契約書を見て、問題なければサインをお願いする」
「はい。ひとつお願いがあるんですが、次に魔物除けの作戦を実行するとき、私もその場にいていいですか?」
スキルと技術を駆使して側溝を作っているので、私たちがいる一番大きな街を囲むぶんはもうすぐ出来上がるそうだ。
その時に、私の存在を見せつけるのがいいとエルンストが言っていた。そうすれば北領の人たちは私に感謝し、王都の人間が手を出しづらくなると。
貴族が私の暗殺などを依頼しても契約書に反することになるだろうとギルも言っていたけれど、できる手はすべて打っておきたいそうだ。自分の命がかかっている以上、私もその意見に賛成だ。
エルンストに何か聞いているのか、ヴィンセントはすぐに頷いた。
「こちらとしても、そのほうがいい」
「では、そのようにお願いします」
打ち合せを終え、イゴールに孫のように可愛がられてから部屋を出る。
おじいちゃんみたいと思っていることが伝わったのか、実際に「私のことはおじいちゃんと呼んでくれ」と言われて、たくさんのお菓子をもらった。それもまたおじいちゃんの行動っぽくて、一気に打ち解けてしまった。
客室へ戻り、散歩でもしようかと考えていると、ギルに服の裾を握られた。
「……少しは警戒してくれ。アグレル家はサキを取り込もうとしている。じゃないと厳格なイゴールがおじいちゃんと呼ばせて、見せびらかすように可愛がることはしない」
「ありがとう、ギル。頭に入れておくね」
私の温泉がないと、イゴールは解呪できない。そしてアグレル家や北領の貴族は、もはや温泉のとりこ。
回復や美容の温泉を出したところ、みんなやみつきになった。特にバートのハマりようがすごくて、一日に何度も温泉に入っている。
使用人たちにも温泉に浸かってもらっているし、イゴールの呪いを解いたので、私たちの扱いは非常にいい。
「あと、スヴェンには注意してくれ」
「スヴェンさんに?」
イゴールと会う時はスヴェンもいるので顔を合わせることはあるが、話したことは少ない。あの真面目でキリッとしたスヴェンを警戒?
「スヴェンは自分のことを惚れっぽいと言っていた。本当に惚れっぽいのだと。今まで何百回も惚れていて、すでにサキをかなり好きだがサキが迷惑に思うだろうから近付かないと言われた」
「えっ、あのスヴェンさんが惚れっぽい!? 私を好き!?」
「当たり前だ。イゴールを治したのに、おごり高ぶらず美しい」
「美しいって……ギルのほうが綺麗だよ」
「サキは美しいが?」
真顔でギルにそう言われると、どう返事をすればいいかわからない。
熱くなってきた頬を指先で冷やしながら、ごまかすようにお茶を飲んだ。
「ちなみに、昨日見かけた綺麗な人妻を好きになり、今日はまたサキに惚れたそうだ。よくわからん男だから近付かないように」
「あっ、スヴェンさんの好きってそんな感じなんだね。わかった、覚えとく」
「……僕のほうが早くサキと出会ったのに、スヴェンにサキのことがわかるはずがない」
なぜか拗ねるギルが可愛くて、頬の熱がやんわりと引いていく。
この中では、ギルが一番年下だ。私たちに心を許してきたのか、こういうふうに自分のことを言うようになったのが嬉しい。
気まぐれな猫に懐かれたような気持ちになりながら、そっと頭にふれてみる。拒否されず、少しだけ頭を寄せてきたので、そうっと頭をなでた。
「ヴィンセントにも注意してほしい。自分の父が突然呪いに倒れて当主になり、王には土地ごと見捨てられ加勢はなく、魔物が強くなっていく中で、北領が滅びないよう足掻いていたんだ。そこへ全てを女神のように救うサキが現れた。この状況を考えれば納得できるが、サキを見る目がだんだんと甘くなっている」
ヴィンセントからは着られないほど多くの素敵な洋服や装飾品が届けられている。食事は豪華になって至れり尽くせりだ。温泉を出してくれるお礼だと言っていたが、もらいすぎな気がする。
ヴィンセントは一日に何度も訪ねてきて、私と軽く会話をしていく。彼が誠実なのが、この数日でよくわかった。
「私の温泉目当てだと思うから大丈夫だよ」
「これだからサキは」
なぜか思いきりため息をつかれたが、よく考えてほしい。北領を治める当主なんだから、相手がいるはずだ。こう言っても反論されるだろうから、口には出さないけれども。
その後なぜか黙ってエルンストとレオも頭を差し出してきたので、頭を撫でることになった。なんだか猫にモテているような気持ちになる午後だった。
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