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裁判の裏側2

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「かしこまりました。裁判で証言した人間ですが、全員行方不明です。騎士団員と、商人だったジャンは辞職し、それから目撃情報はありません。筆跡鑑定師と娼婦は、裁判に出かけたきり消えております」
「……消されたのね」
「おそらくは。生きている可能性は低いでしょうが、まだお探しになりますか?」
「いいえ、もういいわ。あなた達が探して見つからないということは、そういうことだから。騎士団に納品していたピエール商会はどうなっているの?」
「横領に関与していたのはジャン個人でピエール商会自体は関係ないと主張して認められましたが、騎士団への納品はなくなりました。クレール商会に契約の話が来ましたが、旦那様が断っております」
「お父様が? ……そうね、ここで騎士団へ納品するようになったら、私がテオバルト様を陥れたとさらに思われてしまうわ」


 気遣うように見てくるリックに微笑んでみせ、アデルは報告書を読みながら考え込んだ。

 ピエール商会は中規模だが信用されている商会だ。騎士団と契約できたのは、代々騎士団長を務めてきたレノー家の推薦があったからだ。シリル・レノーもピエール商会あるいはジャンと取り引きをしていたはず。
 それが、この裁判でピエール商会との取り引きはなくなってしまった。ピエール商会からレノー家へあったであろうキックバックがなくなり、レノー家は使える手駒がひとつ減ってしまった。


「それで、次に契約した商会がブライアン・カンテの紹介なのね……」


 財務署のトップ、ロボットのようなブライアン・カンテの推薦ならば間違いないだろう。金銭の横領があった後なので、商会は徹底的に調べ上げられたはずだ。


「ピエール商会を失ってまで、騎士団長の座をレノー家のものにしたかったということ……?」
「そうではないかと思っています。レノー家の栄光は過去のもの、騎士団にしがみつくしかないのです」


 報告書をめくり、シリル・レノーとレノー家に関する箇所を読んでいく。

 レノー家は代々武官を輩出しており、戦争で武功を上げて侯爵となった家だ。騎士団で実権を握っているレノー家だが、戦争が終わって和平が結ばれると、次第に権力を失っていった。
 レノー家が騎士団に固執している状況で、一年前に騎士団長になったのがテオバルト・ヴァレリーだった。

 ヴァレリー家は代々文官を輩出していて、レノー家とは折り合いが悪い。文官になれという圧力の中で見習いとして入団したテオバルト・ヴァレリーは、総当たり戦で優勝して団長となった。
 優勝者には団長となる権利が与えられ、代々レノー家が優勝してきた。総当たり戦の翌日、騎士団長であったクレイグ・レノーは騎士団を辞めた。
 プライドの高いクレイグ・レノーには耐えられなかったのだろう。ちなみにテオバルトは、クレイグとシリルの二人と戦っているが、どちらにも勝っている。


「クレイグ・レノーが計画してシリルが実行したのかしら」


 ゲームではシリル・レノーがひとりで計画し実行したと自白したが、実際は違ったのではないだろうか。レノー家を守るため、シリル・レノーはすべての罪を被ったのだ。


「証拠さえあればいいのですが、すべて消されております。申し訳ございません」
「リックが謝ることはないわ。レノー家は用意万端にしてから裁判を起こしたはずだもの。何か見落としがないか、もう少し考えてみるわ。リックも、何かわかれば教えてちょうだい」
「すぐにお伝えいたします」


 リックを見送ってから、部屋に戻って考え込む。
 状況を知れば知るほど、テオバルトの冤罪はレノー家が作り上げたものだと思えてしまう。実際、ゲームではシリル・レノーが犯人だったのだから。


「そうだ、裁判に提出された証拠を実際に見に行ってみようかしら? 確か申請すれば見られたはず。あとは騎士団の方々が、テオバルト様の潔白を証明できる何かを知っていればいいけれど……」


 うまくいかないかもしれないが、希望がないよりマシだ。今は昼前で、どこかへ行く時間は十分にある。
 父と兄と昼食を一緒にする約束をしているので、ハンカチに刺繍をしながら昼食の時間になるのを待つことにした。アデルは刺繍が上手ではないが、それでもアランとベルナールならば喜んで受け取ってくれると確信していた。

 家族そろっての和やかな昼食を終え、外出することを告げて支度を終えたアデルの元へ、三郎がやってきた。


「テオバルト・ヴァレリー様がお越しになりました」

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