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2.回想

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 お馬鹿な婚約者を持ってしまった悲劇の令嬢(自己申告)それがセレーナだ。

 そんなセレーナにはセレーナとして生まれた時から前世の記憶があった。

 初めはぼんやりしていたが、ごくたまに前世の記憶が蘇る事があった。

 だが、それが何か。とまでは分かっていなかった。

 完全に覚醒したのはセレーナ10歳の誕生日の日

 この日、セレーナは異世界に転生していることをはっきりと自覚したのだ。

 そして、めちゃくちゃ劣悪な環境に身を置いていることに気づいた。

 セレーナの不幸の始まりは始まりは母の死だ。

 セレーナの母はセレーナを産んだ半年後に亡くなった。

 セレーナの母は元々体が弱かったにも関わらず、王家のために降嫁し、子を成すように言われていたそうだ。

 その時、既にセレーナはぼんやりと前世の記憶があったが、体は思うように動かず、段々衰弱していく母を見ていることしかできなかった。

 そしてその一年後、父と共にアトランティス公爵家にやって来たのは子爵家出の女とその娘だった。

 喪が明けてすぐの再婚に驚いたが、更に驚いたのはその女が抱えていた赤ん坊がセレーナの異母妹だったことだ。

 子供はすぐにできるものではない。

 遅くても母が亡くなった後、早くて…それよりも前、セレーナの母が存命だった頃からの関係なのだろうと考えた。

 そしてその後、アトランティス公爵家では義母の手により使用人が一新された。

 そして、それからは当然ながら妹の方が優遇された。

 だからといってセレーナに体罰をくわえたり、物を買ってもらえなかったりという訳ではなかったが、明らかにセレーナは愛に飢えていた。

 なんでも買ってもらえる妹と最低限のものしか買って貰えない姉。

 両親と一緒にお出かけや旅行に行く妹と留守番の姉。

 愛される妹と愛されない姉。

 小さなセレーナは少しずつ愛に飢えていったが、それでも踏みとどまっていれたのは前世の記憶がうっすらあったからだと思う。

 そして、迎えた10歳の誕生日。

 その日はアトランティス公爵家で盛大な誕生日パーティーが開かれた。

 たくさんの料理と誕生日ケーキがあったがセレーナの気分は晴れやかではなかった。

 明らかに先月行われた義妹の誕生日パーティーの方が豪華だったからだ。

 それでも庶民のパーティーよりは遥かに豪勢だったが、愛情不足で比べる物差しが義妹しかいないセレーナは心に燻るものを感じた。

 年々募る飢えが大きくなる。

 飢えの原因には婚約者であるチャーリーの影響も大きい。生まれた時からの婚約者だが、これまでチャーリーの誕生日にしか会っていない。

 しかも、会ったとしても婚約者同士の語らいなどもなく事務的な挨拶を交わすだけだった。

 ……だったのだが、今日は来てくれると手紙を貰っていたのにパーティーが始まって1時間…一向に来る気配はない…

(今日はもう来ないのかもしれないわ…)

 セレーナはそう思い、少し休もうと席を立ち、庭へと向かった。

 セレーナの誕生日とはいえセレーナがいなくとも大人たちは盛り上がっているし、セレーナには同年代の友達がいないからひとりぼっちだった。

 先月の義妹の誕生日パーティーにはたくさんのご子息やご令嬢が来ていたというのに。

「はぁ…。」

 思わず溜息が溢れる。

(この角を曲がれば中庭だわ)

 中庭に着いたらいっぱい泣こうと思っていたセレーナ。この角を曲がれば中庭が見える、というところで、中庭から話し声が聞こえた。

(あら?先客がいるのかしら?)

 先客がいることに気づいたセレーナが立ち去ろうと後ろを振り返った時、聞きづてならない会話が聞こえてきた。

「あぁ、君はとっても可憐だね…僕の婚約者とは大違いだ…!」

 どこかで聞いたことのある声だった。

「まぁ。」

 これまたどこかで聞いたことのある声だったので、淑女が盗み聞きなんて…いけないわ!と思いながらも一生懸命一言一句逃さないように盗み聞きした。

「君は僕の運命の相手だ…」

「まぁ!私も嬉しいですわ!でも…悲しいことにあなた様はお姉様の婚約者ですわ」

「そうなんだ…僕はセレーナの婚約者…君と僕には障害(セレーナ)がいる。…けれど、君を思う気持ちは本物だ…」

「…っ!チャーリーさまっ!」

 その言葉の後にドサッという音がした。

(まさか…ね?)

 と思い、聞き耳を立てていた体勢を解除して、こっそりと2人のいるであろう場所を窺ってみると、そこにはセレーナの婚約者である王子と義妹が抱き合っていた。

 そう、お互いあなたを離さないわっ!みたいな感じで。

 そしてその瞬間を目撃した際に完全に前世の記憶が蘇った。

 そして思う。

(…えっこれ、なんの茶番ですか?)

 前世の記憶と今世の記憶が混ざり合ったセレーナの率直な感想だった。
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