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2章
全国職人手仕事市
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二週間後、リッカはトウキョウ転移港に居た。手仕事祭が終わってから少なくなった在庫の補充や宣伝のチラシ作り、新しい什器の調達等時間に追われる日々が続きあっという間に当日を迎えたのだった。ナゴヤにある「黄金の港」で行われる年に二度の催事、「全国職人手仕事市」。数年ぶりに参加するリッカは少し緊張していた。
今回はいつもの什器に加え小さな折り畳み机を二つ増やし、その上に乗せる什器も新調した。毎回使っている台車に載せきれないので宝石商に店まで迎えに来てもらい、転移港まで一緒に運んでもらったのだ。
「転移港を使って遠征するのって久しぶりかも」
普段は近郊のイベントを中心に参加しているリッカ。交通費や宿泊代を考えるとどうしても近隣のイベントに偏りがちだ。
「気分転換になりますし、たまには良いのでは?」
「そうですね。美味しい物も食べられますし」
遠征の醍醐味と言えば地元のグルメを食べられることだ。今回も食べたい物をいくつかピックアップしてある。
事前に購入したチケットを持ってゲートへ向かう。チケットには魔法が付与されており、チケットを持った状態でゲートをくぐると自動的に移動先の情報が読み込まれて転移魔法が発動する仕組みになっている。一瞬でナゴヤに到着だ。
「何度利用しても慣れないというか、便利ですね」
まだ転移魔法が無かった時代を知っているだけあって魔法技術の進歩には驚かされてばかりだ。ここからは路面電車を乗り継いで会場へ向かう。周りには同じイベントに参加するであろう大荷物を抱えた職人の姿がちらほら見受けられた。
路面電車の駅から台車を押して会場まで移動する。会場の入口には既に一般入場者の待機列が出来ていた。出展者用のパスで入場し、割り当てられた区画へ向かう。既に準備を始めている出展者が多く、あちこちから什器を組み立てる音が聞こえていた。
「ここか」
リッカのブースは展示棟の真ん中辺り、通路が交差する角地だ。
(今回は『当たり』かも)
ブース配置には「当たりはずれ」がある。人が流れてくる場所とそうでない場所があるのだ。例えば入口に近いブースは奥まった場所にあるブースよりも客が来やすい。通路の真ん中に配置されるよりも角地の方が目に留まりやすく、隣接するブースが1つしかない分自由に什器を配置出来る。
リッカのブースは入口から若干遠いものの奥まった場所ではない。さらに角地な為客にアピールしやすくなっている。同じ値段を支払うならば「当たり」の場所に配置されたいと思うのはどの職人も同じだ。配置が発表されると皆心の中で一喜一憂するのである。
「では、設営をはじめましょうか」
「はい。宜しくお願いします」
隣のブースに挨拶をしてから設営を開始する。今回使う机は3つ。いつも使っている折り畳み式の長机と新しく購入した小さな折り畳み机だ。これらをコの字型に並べ、クロスを敷いた後に上に陳列用の棚を置く。そしてバランスを見ながら作品を配置していくのだ。今回は新作が無いので売れ筋の商品を正面に置く。春の手仕事祭で販売した指輪は前回と同じ仕様で販売することにした。
宝石商に手伝ってもらいながら設営したので量は多いもののいつもと同じ位の時間で終えることが出来た。
「開場までに時間があるのでちょっと見てきて良いですか?」
「勿論。私はここに居るので安心して見て来て下さい」
「ありがとうございます!」
一人で出展している時は陳列した作品に布をかけて出かけていたのだが、先日の破損騒動のことを考えると店を無人状態するのは良くない。休憩なども考慮すると宝石商が居てくれるだけで大分違うとリッカは感謝していた。
設営準備中の会場内はゆっくり見て回るのにうってつけだ。いつもは挨拶回りをしたりしていたが今回は知り合いが出ていないのでのんびり出来る。
「全国職人手仕事市」は工芸系の職人が多く集まるイベントである。手仕事祭とはまた違った雰囲気で、来場する客も愛好家よりも家族連れの方が多い。このイベントに出るのは数年ぶりだったが、食器や木工細工など普段使いできる品を探すのがリッカの楽しみだった。
(お、陶芸家さんのブースだ。淡い色使いで可愛いなぁ)
目に留まったのは皿やカップなどを作っている陶芸家のブースだ。パステルカラーの釉薬を使った可愛らしい作品が多く目を引かれる。動物を模した箸置きも可愛い。
(転移魔法のお陰で陶器を買っても割らずに持ち帰れるのが嬉しい……)
遠方で陶器を買うと帰るまでに割れないか心配になるが、転移魔法の発達により一瞬で帰れるようになったので壊れ物でも安心して購入出来るのだ。イベントでしか買えない個性的な陶器が好きなリッカにとってはとても喜ばしいことだった。
(こっちのブースは木製の装飾品!)
木工細工で作った装飾品も素敵だ。職人が得意な技術を活かして陶器や木材など貴金属や宝石以外の素材を使って装飾品を作っている職人も多い。どれも趣向を凝らしていて面白い作品ばかりだ。
(同じ木製でも木目を生かしたものから塗りを施したものまで色々な技法が使われていて面白いなぁ)
自分が持っていない技術を使って作られた装飾品は見ているだけで楽しい。奇抜な発想に驚かされることもあれば職人との会話を通して気付かされることもある。イベント出展を重ねるごとに新しい情報をアップデート出来るような気がするのだ。
近隣のブースを一通り見終わったリッカは満足した顔で自分のブースへと戻った。
今回はいつもの什器に加え小さな折り畳み机を二つ増やし、その上に乗せる什器も新調した。毎回使っている台車に載せきれないので宝石商に店まで迎えに来てもらい、転移港まで一緒に運んでもらったのだ。
「転移港を使って遠征するのって久しぶりかも」
普段は近郊のイベントを中心に参加しているリッカ。交通費や宿泊代を考えるとどうしても近隣のイベントに偏りがちだ。
「気分転換になりますし、たまには良いのでは?」
「そうですね。美味しい物も食べられますし」
遠征の醍醐味と言えば地元のグルメを食べられることだ。今回も食べたい物をいくつかピックアップしてある。
事前に購入したチケットを持ってゲートへ向かう。チケットには魔法が付与されており、チケットを持った状態でゲートをくぐると自動的に移動先の情報が読み込まれて転移魔法が発動する仕組みになっている。一瞬でナゴヤに到着だ。
「何度利用しても慣れないというか、便利ですね」
まだ転移魔法が無かった時代を知っているだけあって魔法技術の進歩には驚かされてばかりだ。ここからは路面電車を乗り継いで会場へ向かう。周りには同じイベントに参加するであろう大荷物を抱えた職人の姿がちらほら見受けられた。
路面電車の駅から台車を押して会場まで移動する。会場の入口には既に一般入場者の待機列が出来ていた。出展者用のパスで入場し、割り当てられた区画へ向かう。既に準備を始めている出展者が多く、あちこちから什器を組み立てる音が聞こえていた。
「ここか」
リッカのブースは展示棟の真ん中辺り、通路が交差する角地だ。
(今回は『当たり』かも)
ブース配置には「当たりはずれ」がある。人が流れてくる場所とそうでない場所があるのだ。例えば入口に近いブースは奥まった場所にあるブースよりも客が来やすい。通路の真ん中に配置されるよりも角地の方が目に留まりやすく、隣接するブースが1つしかない分自由に什器を配置出来る。
リッカのブースは入口から若干遠いものの奥まった場所ではない。さらに角地な為客にアピールしやすくなっている。同じ値段を支払うならば「当たり」の場所に配置されたいと思うのはどの職人も同じだ。配置が発表されると皆心の中で一喜一憂するのである。
「では、設営をはじめましょうか」
「はい。宜しくお願いします」
隣のブースに挨拶をしてから設営を開始する。今回使う机は3つ。いつも使っている折り畳み式の長机と新しく購入した小さな折り畳み机だ。これらをコの字型に並べ、クロスを敷いた後に上に陳列用の棚を置く。そしてバランスを見ながら作品を配置していくのだ。今回は新作が無いので売れ筋の商品を正面に置く。春の手仕事祭で販売した指輪は前回と同じ仕様で販売することにした。
宝石商に手伝ってもらいながら設営したので量は多いもののいつもと同じ位の時間で終えることが出来た。
「開場までに時間があるのでちょっと見てきて良いですか?」
「勿論。私はここに居るので安心して見て来て下さい」
「ありがとうございます!」
一人で出展している時は陳列した作品に布をかけて出かけていたのだが、先日の破損騒動のことを考えると店を無人状態するのは良くない。休憩なども考慮すると宝石商が居てくれるだけで大分違うとリッカは感謝していた。
設営準備中の会場内はゆっくり見て回るのにうってつけだ。いつもは挨拶回りをしたりしていたが今回は知り合いが出ていないのでのんびり出来る。
「全国職人手仕事市」は工芸系の職人が多く集まるイベントである。手仕事祭とはまた違った雰囲気で、来場する客も愛好家よりも家族連れの方が多い。このイベントに出るのは数年ぶりだったが、食器や木工細工など普段使いできる品を探すのがリッカの楽しみだった。
(お、陶芸家さんのブースだ。淡い色使いで可愛いなぁ)
目に留まったのは皿やカップなどを作っている陶芸家のブースだ。パステルカラーの釉薬を使った可愛らしい作品が多く目を引かれる。動物を模した箸置きも可愛い。
(転移魔法のお陰で陶器を買っても割らずに持ち帰れるのが嬉しい……)
遠方で陶器を買うと帰るまでに割れないか心配になるが、転移魔法の発達により一瞬で帰れるようになったので壊れ物でも安心して購入出来るのだ。イベントでしか買えない個性的な陶器が好きなリッカにとってはとても喜ばしいことだった。
(こっちのブースは木製の装飾品!)
木工細工で作った装飾品も素敵だ。職人が得意な技術を活かして陶器や木材など貴金属や宝石以外の素材を使って装飾品を作っている職人も多い。どれも趣向を凝らしていて面白い作品ばかりだ。
(同じ木製でも木目を生かしたものから塗りを施したものまで色々な技法が使われていて面白いなぁ)
自分が持っていない技術を使って作られた装飾品は見ているだけで楽しい。奇抜な発想に驚かされることもあれば職人との会話を通して気付かされることもある。イベント出展を重ねるごとに新しい情報をアップデート出来るような気がするのだ。
近隣のブースを一通り見終わったリッカは満足した顔で自分のブースへと戻った。
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