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2章
造形魔法至上主義
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その頃、アキのブースには一人の訪問者がいた。
「アキ、久しぶり」
「……。ナギサさんこそ」
「新星社」のナギサだ。ナギサとアキは同じコンテストで何度もしのぎを削った仲。表彰式でいつも真ん中に立つのはナギサでその横にはアキが居て、ナギサには一度も勝てなかった。悔しいというより諦めの気持ちの方が強い。そんな事もあり、アキはナギサが少し苦手だった。
「どういう風の吹き回しですか?あなたが『手仕事祭』に出るなんて。あんなに『手仕事』には興味が無さそうだったのに」
「うん。興味は無かったよ」
ナギサははっきりと言い切った。
「でも、前回の手仕事祭に君が出たって言うのを聞いて興味が湧いたんだ。あれだけ造形魔法の才能があるのに何故『手仕事』に執着するのか。僕も出て見れば分かるかなって思って」
アキの作品を眺めながらナギサは続ける。
「これが君がやりたかったことなのかい?」
今回アキは新しい手法での製作に踏み切った。全てを造形魔法に頼るのではなく、造形魔法で作った原型を複製型で複製して手で仕上げる。リッカに指導をしてもらいながら手作業で仕上げと石留めを行ったのだ。
御世辞にも仕上げが完璧とは言えない。造形魔法のキズ一つ無い鏡面仕上げに比べたらまだまだ甘い部分も多い。それでもアキはこの方法で作品を作りたかった。
「そうです。何か文句でも?」
「せっかくの原型が台無しだ。複製魔法を使えばこんな不格好な」
「喧嘩を売りに来たんですか?」
アキはナギサの声を遮るように言った。
「あなたが造形魔法至上主義なのは知っています。確かに造形魔法は素晴らしい。複製魔法だって仕上げの手間が省けて便利です。
でも私がやりたいのは『手仕事』なんです。確かに不格好かもしれない。けれど一つ一つ自分の手で仕上げて石を留めて仕上げた大事な作品です。それをそんな言い方するなんて失礼にも程がありますよ?」
「理解できない」
ナギサは考え込むような仕草を見せる。この人とは分かり合えない。アキはそう思った。
「造形魔法を使えば完璧に仕上げる事が出来るし、複製魔法を使えばその姿のまま何個でも複製する事が出来る。なのに何故そんな前時代的な技法に拘るんだ?非効率だ。美しくない。
石だって何故わざわざ傷やムラのある物を使うんだ。魔工宝石ならば最上級の宝石をどんな大きさ、どんなカットでも用意出来るというのに」
「……あなたは他の出展者の作品を見て何も感じないんですか?」
「ん?そうだな。造形魔法を使えばもっと魅力的な作品になるのにとは思ったよ」
「……」
「やっぱり造形魔法はもっと広まるべきだと改めて思ったね」
(本気で言っているんだ)
真面目な顔でそう言い放つナギサを見て、まるで別世界の人間を見ているようだとアキは思った。造形魔法こそ至高。手仕事は非効率だから造形魔法に置き換わるべき。そういう考えの持ち主なのだと。
(この人、なんでこの場所にいるの……)
「場違いだ」と思った。もうこれ以上ナギサの言葉を聞きたくない。造形魔法について語り続けるナギサの声を頭に入れたくなくて、追い返すために言葉を発しようとした時
「通路塞がってるからどいてくれ」
というコハルの声がした。周りを見渡すとナギサを一目見ようとアキのブース周辺に人だかりが出来始めている。
「いちゃもんをつけに来ただけなら帰れ。営業妨害だぞ」
「コハルも来ていたのか」
「話ならオレが聞く。アキ、店に戻れ」
「……ありがとう」
コハルはナギサの腕を取り無理矢理広い通路の方へ連れ出した。
「あのさ、せっかくアキの夢が叶ったんだ。邪魔しないでくれ」
「邪魔とは失礼だな。ボクはただ勿体無いと思っただけだよ。アキならもっと美しくて素晴らしい作品に仕上げられる。せっかく美しい原型を作っても仕上げがアレでは台無しだろう」
「余計なお世話なんだよ。アキは『手仕事』で作品を作りたい、それが夢だったんだ。お前が造形魔法に傾倒しているのは知っているが、それを押し付けるのはやめろ」
「理解できないな。何故わざわざ不格好な物を作るんだ?」
ナギサは周りのブースを見渡して言う。
「ボクの作品を見たかい?造形魔法ならば前時代的なモチーフでもあんなに美しく完璧に作る事が出来る。ちゃんと一つずつ丁寧に作った一点物さ。あれがボクの『手仕事』の答えだ」
「『前時代的なモチーフ』ねぇ……」
「造形魔法は元々量産のために作られた物ではない。原型製作をよりスムーズに、簡単に、美しく仕上げるために作られた魔法だ。製作を補助する工具の一種みたいなものなんだよ。だから造形魔法を使ったって『手仕事』と言っても良いんじゃないかとボクは思う。
そう考えると『手仕事』に拘るなら何も前時代的な方法を使う必要はないんじゃないかな。ここにいる人達にももっと造形魔法の良さを知って貰いたいんだ」
(こいつ……)
コハルは目を輝かせて語るナギサを見てため息をついた。
「アキがどうしてあんなに前時代的な方法に拘るのかは分からなかったけど、色々なブースを見て分かったよ。まだまだ造形魔法を広める余地があるってことがね」
「お前は根本的な所から間違っている。ここに集まっているのは造形魔法を『あえて』使わない連中ばかりだ。手で作るのが好きなんだよ。理解出来ないならそれでいい。ただ、お前のエゴを押し付けるな!」
そう言い捨ててコハルはアキのブースに戻って行くコハルをナギサはぽかんとした顔で見つめていたのだった。
「アキ、久しぶり」
「……。ナギサさんこそ」
「新星社」のナギサだ。ナギサとアキは同じコンテストで何度もしのぎを削った仲。表彰式でいつも真ん中に立つのはナギサでその横にはアキが居て、ナギサには一度も勝てなかった。悔しいというより諦めの気持ちの方が強い。そんな事もあり、アキはナギサが少し苦手だった。
「どういう風の吹き回しですか?あなたが『手仕事祭』に出るなんて。あんなに『手仕事』には興味が無さそうだったのに」
「うん。興味は無かったよ」
ナギサははっきりと言い切った。
「でも、前回の手仕事祭に君が出たって言うのを聞いて興味が湧いたんだ。あれだけ造形魔法の才能があるのに何故『手仕事』に執着するのか。僕も出て見れば分かるかなって思って」
アキの作品を眺めながらナギサは続ける。
「これが君がやりたかったことなのかい?」
今回アキは新しい手法での製作に踏み切った。全てを造形魔法に頼るのではなく、造形魔法で作った原型を複製型で複製して手で仕上げる。リッカに指導をしてもらいながら手作業で仕上げと石留めを行ったのだ。
御世辞にも仕上げが完璧とは言えない。造形魔法のキズ一つ無い鏡面仕上げに比べたらまだまだ甘い部分も多い。それでもアキはこの方法で作品を作りたかった。
「そうです。何か文句でも?」
「せっかくの原型が台無しだ。複製魔法を使えばこんな不格好な」
「喧嘩を売りに来たんですか?」
アキはナギサの声を遮るように言った。
「あなたが造形魔法至上主義なのは知っています。確かに造形魔法は素晴らしい。複製魔法だって仕上げの手間が省けて便利です。
でも私がやりたいのは『手仕事』なんです。確かに不格好かもしれない。けれど一つ一つ自分の手で仕上げて石を留めて仕上げた大事な作品です。それをそんな言い方するなんて失礼にも程がありますよ?」
「理解できない」
ナギサは考え込むような仕草を見せる。この人とは分かり合えない。アキはそう思った。
「造形魔法を使えば完璧に仕上げる事が出来るし、複製魔法を使えばその姿のまま何個でも複製する事が出来る。なのに何故そんな前時代的な技法に拘るんだ?非効率だ。美しくない。
石だって何故わざわざ傷やムラのある物を使うんだ。魔工宝石ならば最上級の宝石をどんな大きさ、どんなカットでも用意出来るというのに」
「……あなたは他の出展者の作品を見て何も感じないんですか?」
「ん?そうだな。造形魔法を使えばもっと魅力的な作品になるのにとは思ったよ」
「……」
「やっぱり造形魔法はもっと広まるべきだと改めて思ったね」
(本気で言っているんだ)
真面目な顔でそう言い放つナギサを見て、まるで別世界の人間を見ているようだとアキは思った。造形魔法こそ至高。手仕事は非効率だから造形魔法に置き換わるべき。そういう考えの持ち主なのだと。
(この人、なんでこの場所にいるの……)
「場違いだ」と思った。もうこれ以上ナギサの言葉を聞きたくない。造形魔法について語り続けるナギサの声を頭に入れたくなくて、追い返すために言葉を発しようとした時
「通路塞がってるからどいてくれ」
というコハルの声がした。周りを見渡すとナギサを一目見ようとアキのブース周辺に人だかりが出来始めている。
「いちゃもんをつけに来ただけなら帰れ。営業妨害だぞ」
「コハルも来ていたのか」
「話ならオレが聞く。アキ、店に戻れ」
「……ありがとう」
コハルはナギサの腕を取り無理矢理広い通路の方へ連れ出した。
「あのさ、せっかくアキの夢が叶ったんだ。邪魔しないでくれ」
「邪魔とは失礼だな。ボクはただ勿体無いと思っただけだよ。アキならもっと美しくて素晴らしい作品に仕上げられる。せっかく美しい原型を作っても仕上げがアレでは台無しだろう」
「余計なお世話なんだよ。アキは『手仕事』で作品を作りたい、それが夢だったんだ。お前が造形魔法に傾倒しているのは知っているが、それを押し付けるのはやめろ」
「理解できないな。何故わざわざ不格好な物を作るんだ?」
ナギサは周りのブースを見渡して言う。
「ボクの作品を見たかい?造形魔法ならば前時代的なモチーフでもあんなに美しく完璧に作る事が出来る。ちゃんと一つずつ丁寧に作った一点物さ。あれがボクの『手仕事』の答えだ」
「『前時代的なモチーフ』ねぇ……」
「造形魔法は元々量産のために作られた物ではない。原型製作をよりスムーズに、簡単に、美しく仕上げるために作られた魔法だ。製作を補助する工具の一種みたいなものなんだよ。だから造形魔法を使ったって『手仕事』と言っても良いんじゃないかとボクは思う。
そう考えると『手仕事』に拘るなら何も前時代的な方法を使う必要はないんじゃないかな。ここにいる人達にももっと造形魔法の良さを知って貰いたいんだ」
(こいつ……)
コハルは目を輝かせて語るナギサを見てため息をついた。
「アキがどうしてあんなに前時代的な方法に拘るのかは分からなかったけど、色々なブースを見て分かったよ。まだまだ造形魔法を広める余地があるってことがね」
「お前は根本的な所から間違っている。ここに集まっているのは造形魔法を『あえて』使わない連中ばかりだ。手で作るのが好きなんだよ。理解出来ないならそれでいい。ただ、お前のエゴを押し付けるな!」
そう言い捨ててコハルはアキのブースに戻って行くコハルをナギサはぽかんとした顔で見つめていたのだった。
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