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2章
思わぬ返答
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翌日、リッカは完成したイヤーカフを持って宝石商を訪ねた。定休日期間なので店の扉には鍵がかかっていたが、インターホンを押すと鍵が開いて中に招き入れられた。
「新年早々すみません」
「いえいえ。寒い中どうしたんです?お茶淹れますね」
宝石商の店は一階が店舗、二階が私室と談話室になっている。談話室では来客対応や商談などが行われるため豪華な作りになっており、立派な絨毯が敷かれ大きな暖炉が備え付けられている。宝石商は暖炉に火を灯すとお茶を淹れるために台所へ向かった。
(この部屋に入るの初めてかも)
基本的に宝石商がリッカの店に足を運ぶことが多くあまり実店舗に来た事がない。何回か足を運んだ際も一階の店舗に寄っただけで二階に上がるのは初めてだった。
木製の古そうなテーブルには綺麗なテーブルクロスが敷かれており、ソファーもとても立派な革張りだ。リッカはそっとソファーに腰を下ろして宝石商が来るのを待った。
「お待たせしましたー」
部屋が暖炉の熱気で暖まって来た頃、宝石商がティーセットを抱えて戻ってきた。部屋の中にほのかに甘い香りが広がる。
「蜂蜜ですか?」
「はい。フレーバーティーがお好きなのかなと思いまして」
テーブルにティーセットが据えられ、ティーカップに紅茶が注がれる。立ち上る湯気と一緒に漂う濃厚な蜂蜜の香りに思わずため息を漏らした。
「これも一緒にどうぞ」
ティーセットと一緒に運ばれて来た皿には可愛らしいウサギのお菓子が載っている。
「かわいい!」
「近所の和菓子屋さんで出している冬限定の大福なんです。苺のあんこと生クリームが入っていて美味しいんですよ」
柔らかい求肥で苺餡と生クリームを包み柊と真っ赤な目を模したチョコレート細工をトッピングしてある雪うさぎの大福だ。冬限定で販売されており毎日完売するほど人気らしい。
「で、今日はどうしたんです?」
紅茶と雪うさぎに夢中になっていたリッカはハッとして鞄からイヤーカフを入れたケースを取り出す。
「実は去年ご依頼頂いたイヤーカフが完成しまして。持ってきました」
「おや、随分と早いですね」
「正月休みで暇だったので。暫くイベントも無いですし……」
ケースをぱかっと開いて見せると宝石商は「ほう」と感嘆の声を上げた。
「これは……。リッカさんに頼んで正解でしたね」
「ありがとうございます。身に着ける方が男性か女性か分からなかったので男女兼用で使えるデザインにしてみました。あと二つとの事だったのでペアかなと思って同じデザインで揃えたのですが、大丈夫ですか?」
「はい。一個は自分用なので。彫り留めとは渋いですね。唐草模様の彫も美しい」
宝石商はイヤーカフを手に取りくるくると回しながら細部まで観察している。こうして目の前でじっくりと見られると恥ずかしい。
「もう一つは贈答用ですか?」
恥ずかしさを紛らわせるようにリッカは宝石商へ尋ねる。
「ええ。実はこれ、リッカさん用なんです」
「……へ?」
思わぬ回答に間の抜けた声が出る。
「ちょっとこれから行きたい所があるのでお付き合い頂いても良いですか?」
宝石商はぽかんとするリッカにそう告げた。
「新年早々すみません」
「いえいえ。寒い中どうしたんです?お茶淹れますね」
宝石商の店は一階が店舗、二階が私室と談話室になっている。談話室では来客対応や商談などが行われるため豪華な作りになっており、立派な絨毯が敷かれ大きな暖炉が備え付けられている。宝石商は暖炉に火を灯すとお茶を淹れるために台所へ向かった。
(この部屋に入るの初めてかも)
基本的に宝石商がリッカの店に足を運ぶことが多くあまり実店舗に来た事がない。何回か足を運んだ際も一階の店舗に寄っただけで二階に上がるのは初めてだった。
木製の古そうなテーブルには綺麗なテーブルクロスが敷かれており、ソファーもとても立派な革張りだ。リッカはそっとソファーに腰を下ろして宝石商が来るのを待った。
「お待たせしましたー」
部屋が暖炉の熱気で暖まって来た頃、宝石商がティーセットを抱えて戻ってきた。部屋の中にほのかに甘い香りが広がる。
「蜂蜜ですか?」
「はい。フレーバーティーがお好きなのかなと思いまして」
テーブルにティーセットが据えられ、ティーカップに紅茶が注がれる。立ち上る湯気と一緒に漂う濃厚な蜂蜜の香りに思わずため息を漏らした。
「これも一緒にどうぞ」
ティーセットと一緒に運ばれて来た皿には可愛らしいウサギのお菓子が載っている。
「かわいい!」
「近所の和菓子屋さんで出している冬限定の大福なんです。苺のあんこと生クリームが入っていて美味しいんですよ」
柔らかい求肥で苺餡と生クリームを包み柊と真っ赤な目を模したチョコレート細工をトッピングしてある雪うさぎの大福だ。冬限定で販売されており毎日完売するほど人気らしい。
「で、今日はどうしたんです?」
紅茶と雪うさぎに夢中になっていたリッカはハッとして鞄からイヤーカフを入れたケースを取り出す。
「実は去年ご依頼頂いたイヤーカフが完成しまして。持ってきました」
「おや、随分と早いですね」
「正月休みで暇だったので。暫くイベントも無いですし……」
ケースをぱかっと開いて見せると宝石商は「ほう」と感嘆の声を上げた。
「これは……。リッカさんに頼んで正解でしたね」
「ありがとうございます。身に着ける方が男性か女性か分からなかったので男女兼用で使えるデザインにしてみました。あと二つとの事だったのでペアかなと思って同じデザインで揃えたのですが、大丈夫ですか?」
「はい。一個は自分用なので。彫り留めとは渋いですね。唐草模様の彫も美しい」
宝石商はイヤーカフを手に取りくるくると回しながら細部まで観察している。こうして目の前でじっくりと見られると恥ずかしい。
「もう一つは贈答用ですか?」
恥ずかしさを紛らわせるようにリッカは宝石商へ尋ねる。
「ええ。実はこれ、リッカさん用なんです」
「……へ?」
思わぬ回答に間の抜けた声が出る。
「ちょっとこれから行きたい所があるのでお付き合い頂いても良いですか?」
宝石商はぽかんとするリッカにそう告げた。
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