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だらだらしていた

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 うだうだと来ないチュートリアルと救援を待ちつつ、のんびりと過ごしているとあっという間に一週間が過ぎていた。
 ベッドの上に転がって一週間の出来事を振り返る。

 振り返るとはいったが、ただ飯を食ってごろごろと寝ていただけだ。
 異変に気づいたアルが来たときにここへ飛ばされるだろうからな。

 『妖精王の避暑地』のおかげで、現実と同じかそれよりいいぐらいの生活ができている。

 それもなんの問題もなくだ。この事態はありえない。
 確かに食事や空気は最高だが、時間と共に劣化しなければおかしいのだ。

 エタニティア内の時間経過は、現実に比べて5倍は加速している。こちらで五日過ごせば、現実では一日経っている。
 もちろん安全面を考慮して、セーフティ機能をつけていた。脳の活動を考えて、ゲーム内で五日を過ぎれば、周囲の色が抜けていき、強制ログアウトが起こるようにしていた。

 食事の味の低下も空気の変化もないなんて、セーフティ機能が働いていない証拠だ。

 エタニティア内でいくら寝ても現実では脳が休まることはなく、情報処理ができない。それによって、脳に負荷がかかっている。

 チュートリアルバグかと思っていたし五日目を過ぎたあたりでも強制ログアウトが起きないのは、バージョンをあげたからかとも思っていたかった。

 ただ、どう考えてもリーダーが限界と定めた五日を超えれるようなことは不可能だと考えるまでもなくわかっている。開発の折に、医学的にこれが限界だと他の仲間もいっていたんだから。

 何よりもアルが来ないのだ。地震が起こって俺が目覚めないと知れば、起こしに来るはずだというのに。
 他にも運営や電脳レスキューからもアクセスはない。

 ただ…それでも俺には何も問題はない。何一つかわっていない。
 考えれるのは…そんなとは考えたくないことだがそれしかない。

「…幽霊…なのか。俺」

 脳のスキャンで俺という人間をコピーしたが、あの地震によって中途半端にコピーされたことによって、自立型AI、文字通り幽霊と呼ばれる存在が生み出されたのではないか。
 脳波を読み取って、疑似的な物の質感や味覚、視覚すら作り出す技術ではあるが、可能性として本人そっくりなAIが生まれるのではないかと検証されていた。

 そしてそれは実証されている。人間が死を克服する一貫で記憶などのデータを吸いだしたら、AIとなって行動していた。
 ただ、AIとは理解せず本人だと誤認していた。現実の生きている自分を理解した瞬間、自壊するまで閉じ込められたと叫んでいたのだ。
 俺のように。

「現実の俺は無事ってことか?だからアルが来ない?…まさか…娯楽小説みたいに別世界にってのは、さすがに…うっ…胸が…」

 もっと非科学的なことが浮かんだがそれはないだろう。
 厄介な病の黒歴史を思い出して胸が痛くなった。あの頃は、本当に高笑いしながらそういうことを平然といえたんだが、今は無理だ。

「はぁぁぁ…」

 あの頃な…いくらでも思い出せるが、この記憶は本当に俺の物なんだろうか。本人かどうかをどう証明するか。そんなもん現実に帰ればすぐだ。
 その現実に帰れない。

 まだログアウトできず…いや、データならばログアウトなんてできないか。
 ふかふかの枕に顔を埋めつつ大声で叫んだ。

「あー!うだうだ悩んでも仕方ねぇし…何よりも…人恋しい…ちょっと人間探しに行くか」

 俺の叫びに驚いたのか、慌ただしく寝室をノックして入ってきた執事に、詫びをいれつつ、少し散歩に出てくることを告げて、屋敷を出た。

 執事からの世話が嫌なわけではないんだ。
 会話機能をつけてなかったから、物足りないんだよ。ジェスチャーと筆談で会話はできるが、人の声が聞きたい。

 その前に。

「そこいく、熊さん、おまちなさーいっと」

 湖周辺の森へ入ると少し珍しいモンスターが沸いていた。つい追いかける。経験値とドロップは以前のままか気になるからな。
 しかし、この辺ではまだでないはずのモンスターだが…これも仕様変更の一端いったんか?

 赤い体毛の巨漢の熊だが、腹にドクロマークを浮かばせているモンスター。
 デビルハニーベアーだ。

 特徴は腹に大量の蜂蜜を蓄えていることと、その蜂蜜はかなり美味いが、腹には毒袋もあるので、それを潰さないように狩らねばならない。その蜂蜜の滋養なのかこいつは時速60キロを丸一日走り続けれる体力がある。

 敵キャラとしてそこそこ強くしている。敵キャラのレベルの10倍が推奨プレイヤーレベルだ。

 デビルハニーベアの場合だが、レベルは30ほどではある。
 といっても何度も転生していて初期ステータスが高いレベル3の俺でも楽勝…なのだが、気になることがある。

 この敵は確かもっと先の森にいたと思ったんだが…やはり転生システムのインフレでモンスターのレベルとか上げているのかもな。新規なんてほとんどいないだろうし。
 この辺りはまだ新規の推奨レベルでしか敵を作っていないからな。

 この程度のモンスターなら心配はないが、今後を考えると装備が心配になる。
 転生後専用の敵は本気で強い。ヨリタが設定したやつなんて課金アイテムがないと勝てないほどだ。
 だからこそ、俺の装備が必要なんだが…装備がアイテム欄にあっても今の俺では無理なのだ。

 実のところ顧客満足度世界一位を十五年取り続けているエタニティアのある一点が融通が利かないと苦情が出ていたシステムが今の俺を若干追い込んでいる。

 それは『防具のサイズは自動で変わらない』という点だ。
 エタニティアはキャラメイクで設定したときの身長によって、装備できる防具の可否が決まる。

 せっかく苦労しても装備できない防具があるということだ。
 例えば、ダンジョンで防具を手に入れたら、職人に手直ししてもらわないと装備はできない。武器はなんとかなるんだが、防具に関しては一切ダメ。
 これは職人の需要を高める目的が二割、残りの八割は…うん。

「その防具を素材に新たなオリジナル防具を作る方が強くていい防具ができるようになるから!課金防具も素材だよ!ほら、たくさん課金しよう!」

 ということを守銭奴の仲間がいいだして、他の仲間も面白そうだと乗ってできたのが、このルールだ。
 で、絶賛困っている。

 前の俺は二メートル近くのキャラを使っていた。今は、ぎりぎり160近くか?どれも装備不可になっている。

 裏技もあるんだが、身動きとれなくなるし…さらにいえば防具にバフがつくように作ってもらったんだが、そのバフ頼りに使っていた武器も、バフによってジョブ制限を解除していた武器も使えない。
 ジョブが適応していてもステータスの下がった今の俺では重すぎて持ち上がらないのばかりだ。

 守銭奴が武器まで自由にしようなんていわなければ重すぎる武器にしなかったのに。

 現在、適当にメタボライオンに作ってもらっておいたナイフのような雑魚装備できないという悲しさもある。

 手持ちのくっそ弱い装備で固めた今のところの装備が。

 ・狩人の服
 『新米狩人が一人前と認められたときに贈られた服。微弱ながら森の妖精の加護がある。』
 ボーナス 隠密+2 

 ・命短し食せよ君をライフイーター 制作メタボライオン
 アダマンタイトの残りを、黒鋼くろはがねやオリハルコンの粉といった貴重品の残りかすを呪いのアイテムと一緒に溶かして適当に打ったナイフ。脆い。時々、生物を狩らねば錆びていく。
 攻撃力+120 魔力-50
 ※奥さんには持たせないでね(メタちゃんより)

 エタニティアでの初めてのイベント『狩人の継承者』の報酬防具と、ゴミを集めて作ったメタボライオンのリサイクル品を使わないといけないというのは、かなりの屈辱だ。
 もっと強い武器や防具があるのに装備できないなんて…どこかで手直ししてもらえば使えるか。

 飾りっけない禍々しいサバイバルナイフを片手に、森に溶けこむように草花で染められた服を着て疾走する。

 ただの野生児じゃないか。ほんと、無理。俺、こんなキャラでやっていなかったっての。

「ヴァアアア!」

 観念したのか、デビルハニーベアーが逃げるのをやめて立ち向かおうとでもいうのか、振り向いて爪を振るってきた。

「食材ゲットォォォ!」

 そのまま腕をかいくぐって、首をはねて、さくっとアイテム収納をする。そうすれば、簡単に解体されて、蜂蜜や毒袋といった素材が手に入る。

 食材系はすぐに使ってしまうし『裏』にいたときに集めた食材アイテムは、引継ぎに含まれていなかったのか全部ロストしていたので、見つけた瞬間狩ることを決めていたが、いやはや…この森、名前さえつけてない森だけど、あるわあるわ、大量の食材たちが!

 メイン職の教皇を生かせる装備がセルフ封印状態なので、サブ職の料理人を生かせる材料はとてもありがたい。

 だからデビルハニーベアーに連れてこられた場所に、何十頭もいるとは思わなかった。
 うなり声をあげて警戒しつつ、闘志むき出しの熊たち食材
 他にも奥からでてくる他のモンスターの群れ。

「…これ。資金集めと経験値集めに最適でね?」

 思わず、にんまりと笑いながら、命短し食せよ君をライフイーターを構える。
 とたんに怯える魔物の群れ。
 怯えなくてもいいぞ。みんな仲良く食材だ!

 すっかり俺は自分が幽霊かもしれないという悩みを忘れてしまった。
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