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新しい世界を新しい自分で

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 目が覚めても何も変わらない。いや、俺たちの『世界』が消えたってことだけで、他のやつらには何にも影響がないだけだ。

「…起きた」
『かしこまりました』

 俺の声に合わせて動き出した29年間も一緒にいるやつが、いつものように世話をし始める。

 俺専属の世話用アンドロイドに体をふかれつつ、頭をすっきりさせる。シャワーもいいが軽く寝たぐらいなら拭いてもらう方が楽だ。恥ずかしくもなんともない。
 赤ん坊のころからこの頭部が豆電球型アンドロイドを使っているが、他のやつらが使っている人型や、動物型のよさがわからない。
 俺のとこのアンドロイドが一番だろ。一言で察するなんてなかなかできないことなんだ。プログラムをいじったりしたから性能はずば抜けていいんだ。
 名前は『アルシャポート三世』通称アルだ。

『メールが届いています』
「表示させてくれ。それとアル。いつもの」
『はい。では、お飲み物をお持ちします』

 アルにワインを持ってこさせて、新たな運営からのメールを表示する。
 パパっといくつものメールが空中に浮かぶ。仕事の依頼がほとんどだ。

 エタニティアのは…これか。

「さてアイテム類、称号などの基本は全て引継できる…ただ、種族はさすがに表に合わせろと…譲歩されたもんだな」

 空中に浮かぶメールを読んでいけば俺たちに対してはいくつか条件があった。
 一つ、運営コマンドの回収。これはチートコマンドだからまぁ、わかる。デバック処理をしなくていいってことだな。つまり俺たちはただの利用者ってことにしたいと。

 そして種族。利用するまでの制限が厳しいから見直しをする…つまり廃止にするって記述がある。

 例にあげればアンデッドドワーフキング、ゴルゴーン、サイクロプス、毛羽毛現けうけげん…他の奴のアバターだが、人型いないってどういうことだ。まともなのは俺のアバターくらじゃね?人型だったし。ただ、恥ずかしいから、人前では出したくないが…作ったときはかっこいいとか思ってたんだがな。とにかく俺たちのアバターは全滅だった。

 たぶん、わざとだろう。確かに俺たちのアバターを作るためには時間と金がかかるし、取得条件がかなり厳しいため、俺たちしか使っていなかった。『表』じゃ知られていないんじゃねぇか?
 ようはこれは俺たちへの当てつけだ。

「だいたい、前作とは異なりとか、前作にはなかった、なんてどんだけコンプレックスもってんだよ、今回の開発陣」

 逆に前作が凄いって思っているってことだろ?めんどくせぇな。あんま目立たないようにプレイしていくか。イベント限定とか欲しいから、頑張りたいんだが。

 例え開発者だろうが、『表』同様にイベントをして限定武器を集めていたものだ。時々、表のランキングにもアンノウンプレイヤーとして載っているくらいには正攻法でプレイしてきている。
 だが、次の項目には頭が痛くなった。

「ガチャ限種族は…ハイエルフ、貴族?あー…うわ、竜人までガチャにしたのかよ…表でも転生で選べたってのに」

 エタニティアには課金すれば手に入るアイテムや、役職、種族などがある。利用料よりも課金額の方が高いのは遊戯というものが人類史に出てから不変だ。
 軽く数十憶ほど課金する人間だっているだろう。

 俺だ。

 …出なかったからムキになった。たぶん、仲間の誰かが調整したんじゃねぇか。乱数調整しても出ないとか操作したんじゃねぇかと解析ソフトをぶっこんだが結果は白。
 俺の運がないことが立証されただけだ。

 そんな天国と地獄の課金システムを楽しんでいる側からすれば、このガチャ限種族は改悪だろう。あとで匿名サーバーから苦情を送りつけよう。金でなんとかなるにしろ、運がないやつにはどうしろっていうんだ。この歳でアルに小言をもらうのはつらいんだぞ。

 竜人のステータスはかなり高めで、種族補正も高い。補正値だとヨリタの趣味趣向らしく獣人はステータスが高く設定されている。さすが嫁に猫耳を移植した男だ。やることがえげつない。

 ただ、ハイエルフ…紙とも呼ばれる防御力の種族をガチャ限にしたのは、今回の開発者にエルフ主義者が多いのかもしれないな。異形系は人気がないのを理由に軒並み外されているようだ。天使もダメとはな。
 何か理由があるのか?

「正直、種族補正は転生でどうにかなるし…ステータス引継なら、人族でいいか」

 どうも転生扱いでスタートするみたいだし、人族は転生後に使うのに便利だからいいか。すぐに成長するからな。その間にガチャを回して次の転生先を考えればいい。

 レベルが最大になれば転生ができるようにシステムを組んでいるおかげで、やりこめばより強くなる。
 開発としても強いモンスターを出せるようになって楽しめるからどんどん強くなってもらいたいとこだ。

 派手なスキルや魔法はやはり面白いからな。そのためには強い敵が必要だ。鬼畜なモンスターを仲間が生み出して、それに対抗するという遊びが一時期、流行って…ほんと腹が立つほど楽しかったな。

 種族を選んで次はアバター、『表』ではキャラメイクか。

「キャラメイク…どうせがんがんレベル上げてガチャを回して、転生させるし…」

 時間をかけて作るのもいいが、転生すれば見た目が変わる。そのときに再度キャラメイクするし…だったら、適当に…そうだ!

「確か…研究会の写真が…おっ、あったあった…くっそ生意気かつ、青白いんだけど…少し日焼けさせとくか」

 仲間の一人が写真好きで、電脳会議でよく写真を撮っては送ってきていた。当時の電脳会議のアバターはリアルの俺のままだった。
 見つけ出した写真データは、ひょろいタレ目のガキがつまらなさそうに写真を撮られている姿だ。

 我ながら腹が立つが、人間のアバター、いや、キャラメイクなんてしたことがない。『裏』のときは…天使族をわざわざガチャで手に入れてデフォルトを軽くいじっただけだからな。

 初めの頃、適当にしてくれってヨリタに頼んだらヨリタの選んだ虎族は…顔が俺のまま虎耳という拷問だった。あいつ、キャラメイクをする気がなかったんじゃなく、とりあえず動物の耳を生やしたい病気なんだ。

 即座にレベルあげて転生してやった。
 天使族を選んだのは…ちょっと病を発症してたからだ。察してくれ。

「さてと、先に拠点作りして、メタボライオンたちに連絡を…あ、名前変えたのいっておかないとな」

 あんな厨二病で痛いのはもうこりごりだ。
 今回の名前は無難だ。
 人族のアオ。前の名前とかすりもしない。色とあとは俺の優秀なアンドロイドに合わせてだ。

『ヒサト様。ご遊戯をなさるので?』
「ああ。仕事の連絡はあとでまとめて聞くことにする」
『ほどほどにしてお戻りください。今日は合成肉の質のよいものができそうです』
「わかった。あとでお前も繋いで呼びにこいよ。サポートで用意しといたから」
『またですか?…本当にほどほどにしてくださいね』

 アルに小言をいわれつつ後のことは任せた。
 何だかんだとアルは俺を優先するようにプログラムをされている。ヨリタの作ったAIプログラムコードを教えてもらってアルに組み込んだのだが、まだそこまで自由にする考えが生まれてこない。
 そのうち本当に自分の意思で行動するのだろうか?話題を作って話したり…そうなれば俺もゲームをする時間が減るんだがな。

「脳波バランスをとって…システム…カウントスタート」

 ベッド型の端末にゴーグルをつけて、横になれるように調整して…椅子に座ってやるよりも、負担が少ないからこのスタイルを推奨している。
 肉体に直接刺すよりも脳に負荷がかからないのと時々暴れる人もいるからな。俺もモンスターに怯える反応をし出したのは…いつ頃だったかな。

 夢を見ている状態にかなり近いだろう。夢でもたまに感覚のある夢。白昼夢とか明晰夢とかいうやつ。あれをじつげんさせている。

 ゴーグル内のモニターが10から減りだして、6を超えた時にわずかな揺れを感じた。
 地震か?珍しい。あまり大きくならないように、大規模な工事をしたがアジア圏ではたまに揺れる。

 だが、一瞬でそれは巨大な揺れに変わった。

「うおっ!地震!」

 モニターにはノイズが走り、全身が痺れるような感覚が走る。
 思わずベッドから上体を起こす。こんなときは、ゴーグルが映す『エタニティアへのご帰還、お待ちしておりました』が邪魔だ。警報や状況を映すように誰かしておけよ!

 いやそんな余計なプログラミングなんて組む奴はいない。地震予報が出ていない突発的な地震なんて、初めての経験だ。しかもこんな大揺れは体験したことがない。

「て、停止!停止!」

 ゴーグルを急に外すとせっかく引き継いだデータが吹き飛ぶかもしれない。自力でサルベージは余裕でできるが、仲間に知られたら爆笑されてしまう。それが嫌だったから待機画面まで待ってしまった。
 ゲームを始める前に停止ができるようにしてあってよかった。
 状況が悪化する前に退避しよう。

「アル!避難を…はぁ?」

 ばっとゴーグルを外して見渡した先は見知らぬ湖だった。
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