1 / 7
俺の話を聞いてくれ
しおりを挟む
状況整理のために独り言に付き合ってもらいたい。
俺は国民番号53698247765。アジア圏に居を構えている。
個体名ヒサト。年齢は29になったばかりだ。
未婚かつ同居人はいない。ペットの類いも世話が面倒だからいない。
苗字は使わないから忘れたが…問題はないだろう。父親という遺伝子の型番だから興味がなくてな。
性別は男だ。まったく同じ遺伝子の女もいるらしいが、男性体は楽でよかった。どこぞで生きている同じ遺伝子の女には感謝だ。
男女でもまったく同じ遺伝子を持つなんて一昔前ではありえないことだ。今では当たり前な技術として行われている。男性体と女性体で得意なことが違うからどちらも用意をしている。
苗字や親が記号でしないのには色々と理由がある。
『人類社会の発展のため』
そのスローガンのもとに、人種や性別なんてものがなくなったとき、名字や信仰は全て不要になった。血筋なんて遺伝子をいじればどうとでもなるんだから、一番最初に廃れた。
信仰はもめにもめたが、よその星へと旅だって布教をするという名目で宗教家がいなくなったら、信仰がなくなった。
そこら辺から歯止めが効かなくなったんだろう。
遺伝子情報の解析から数百年。人類は貪欲にも進化を目指した。
その結果、遺伝子工学の発展によって、天才は簡単に生まれるようになった。それこそ、どの分野においてもだ。結果、親族というものの利点はなくなった。親の跡を継ぐよりも優秀な者を用意する方が低コストで確実になったからだ。
遺伝子の組み換えなんて当たり前になってしまい、子供は人工子宮から取り出され、工場から出荷された部品と変わらない。
愛情や家族という概念が希薄してしまっていた。
蜂の巣があるだろ?決まった部屋に卵を産んで生まれたら働き蜂が幼虫の世話をする。
あれが今の人類のライフスタイルだ。
俺も生まれてすぐに部屋を与えられその部屋の中で人生のほとんどを過ごしていた。
それに対して困ったと思ったことはない。
いつからか人工知能が統合国家の元首として人類を管理し、さらに人類の質を高めようとしいたぐらいだ。
人と交流するのは、仮想空間、とりわけ電脳会議とよばれる自分の分身のアバターを使って話す空間が主流になった。
学校というものがある地域もあるが、直接頭に書き込めば覚えれることを自力でしようなんて、暇をもて余している人間がやることだ。
何でもやれる。何でもできる。
それが人類だ。
ただ一つ。人類はまだ死に勝てない。外部記憶をクローンに植えつけても本人の記憶があるクローンができるだけで、本人ではない。
姿形や記憶は本人そのまはまでも、そこから未来はないのだ。過去の行動なら上手くいく。しかし、新たに行動をさせれば、上手くいかない。
例えば物語の続きを書かせようとしても、書けない。あるいは独創的な料理を作らせようとしてもできない。
感性。あるいは心のような物がクローンにも芽生えているのだろう。
死の完全なる克服はまだ時間がかかることだろう。心の研究をしている人間は徐々に減っている。
何せ心だ。一番不要なものだと俺はお前。
常に変動している物を予測するなどまだ人類には早いのかとしれない。
人は進化をすることで心を失ってしまった。行く先は破滅しかない。
なんて昔の哲学者がいっていたそうだが、目に見えないものを考える容量は、俺の中には存在しない。
人類はほぼ優秀な者しか残っていない。数は全盛期の頃よりもだいぶ減ってしまい、人口は数億ほどだが、そのほぼ全員が知能も身体も飛び抜けている。
ほぼと表しているのは少数だが懐古主義の者たちがおり、原始的な生活をしている者たちがいるからだ。
交流はしているが、彼らはどこか俺らと違う。
そんな中でも飛び抜けて優秀な者たち…俺もその中の一人だが…がいた。年齢や人種、性別などが無意味になった世の中においても、かなり変わった集団だっただろう。
医学、物理学、遺伝子工学から電子工学多岐にわたる専門家の中で、俺はソフトウェア工学において世界中でも二番手にいた。
あるとき、特に優秀でどの分野でも一番という、化け物じみた俺たちのリーダーのような男がこういった。
「ちょっと退屈だから新しい世界でも創らない?」
自堕落に、下手をすれば人類でも滅ぼす?なんてうっかりやらかしそうな犯罪予備軍ともいえる俺たちにそんな指針を打ち出した。
単純に面白そうだとその提案は、電脳会議で即決されたぐらいだ。
そういってできたのがVRMMO『エタニティア』だ。
現実とは反対で科学は発展していない、剣と魔法といったファンタジーという誰も見向きがしないゲームを作った。
そう。懐古主義者がしている生活を模倣したゲームだ。
そこには便利さはなく、人が一人では生きていけないというほど過酷な環境。
リーダーの願いに沿って、AIは人類が進化する前の旧人類のような、人との繋がりを求めたり、家族や仲間といった概念を教え、自己進化を促すように構築した。
AI同士のやりとりで新たなAIを生み出すようにするなど、俺たちすら把握できないほど、ゲームの『世界』は発展していた。
売れるはずがない。そうリーダー以外は思っていた。現代でこんな気持ちの悪い距離間…愛だの友情だの…目に見えない付加価値など無意味。
ただの暇つぶし。それだけで作った。
が、非常に売れた。本当にびっくりするほど売れた。
統合国家から配給された趣味や課題としての『仕事』の報酬としてたんまり貯めていた金をほとんど放出するようになるなんて、リーダー以外は予想していなかった。
ゲーム内の進化していくAIは、人間社会が破綻してしまった現代人にとってかなり新鮮味があるらしい。
家族というものを見直して、結婚という極々一部地域にしか残っていなかった風習が再評価されるようにもなった。
「エタニティアの人々は暖かい。我々現代人こそAIのようだ」
そういったレビューがついたほどだ。
正直、くだらないと思ってはいたが、仲間と作ったゲームが評価されたのは嬉しかったし、初めて誇らしい気持ちになれた。
それまでの俺は優秀ではあるった。だがその優秀さってのは、出された問題を解決することだけだ。自分から何かをしたり、作ったりはしなかった。
それが仲間たちとああでもない、こうでもないと話し合いながら作っていたのだ。
仲間といえど、世界のはみ出し者が群れていただけの集団。それがいつの間にか本当の仲間になっていた。
自覚を持つようになってからは、俺や他の仲間たちもさらに『エタニティア』を現実になるようにアップデートを繰り返した。
そのおかげもあって、およそ十五年弱も人々を魅了して、すでに別の世界と認識されるようになったのだ。
関連商品や、エタニティアの収入は俺たち開発者たちに分配された。その額は、旧人類史上にあった小さな国の国家予算をはるかに越えていた。
とはいえ、仲間たちはエタニティアで得た収入はそのままエタニティアへと還元していた。俺もかなりの額をつぎ込んだから、あまり実感はないが、まぁ、使いすぎってことはないだろう。
正直なところ、振り込まれた金額をみても、適当に組んだプログラムの特許で得ている金額に見慣れてしまい大金を手にしても、まったく心が踊ることはない。そんな冷めたガキであったことは認めよう。
くっそ生意気で恥ずかしいガキだった。自分が選ばれた人間だと本気で思っていて、他人を見下していた。
そうだ。そのときの俺は仲間の中でも最年少の十四歳だった。
俺は国民番号53698247765。アジア圏に居を構えている。
個体名ヒサト。年齢は29になったばかりだ。
未婚かつ同居人はいない。ペットの類いも世話が面倒だからいない。
苗字は使わないから忘れたが…問題はないだろう。父親という遺伝子の型番だから興味がなくてな。
性別は男だ。まったく同じ遺伝子の女もいるらしいが、男性体は楽でよかった。どこぞで生きている同じ遺伝子の女には感謝だ。
男女でもまったく同じ遺伝子を持つなんて一昔前ではありえないことだ。今では当たり前な技術として行われている。男性体と女性体で得意なことが違うからどちらも用意をしている。
苗字や親が記号でしないのには色々と理由がある。
『人類社会の発展のため』
そのスローガンのもとに、人種や性別なんてものがなくなったとき、名字や信仰は全て不要になった。血筋なんて遺伝子をいじればどうとでもなるんだから、一番最初に廃れた。
信仰はもめにもめたが、よその星へと旅だって布教をするという名目で宗教家がいなくなったら、信仰がなくなった。
そこら辺から歯止めが効かなくなったんだろう。
遺伝子情報の解析から数百年。人類は貪欲にも進化を目指した。
その結果、遺伝子工学の発展によって、天才は簡単に生まれるようになった。それこそ、どの分野においてもだ。結果、親族というものの利点はなくなった。親の跡を継ぐよりも優秀な者を用意する方が低コストで確実になったからだ。
遺伝子の組み換えなんて当たり前になってしまい、子供は人工子宮から取り出され、工場から出荷された部品と変わらない。
愛情や家族という概念が希薄してしまっていた。
蜂の巣があるだろ?決まった部屋に卵を産んで生まれたら働き蜂が幼虫の世話をする。
あれが今の人類のライフスタイルだ。
俺も生まれてすぐに部屋を与えられその部屋の中で人生のほとんどを過ごしていた。
それに対して困ったと思ったことはない。
いつからか人工知能が統合国家の元首として人類を管理し、さらに人類の質を高めようとしいたぐらいだ。
人と交流するのは、仮想空間、とりわけ電脳会議とよばれる自分の分身のアバターを使って話す空間が主流になった。
学校というものがある地域もあるが、直接頭に書き込めば覚えれることを自力でしようなんて、暇をもて余している人間がやることだ。
何でもやれる。何でもできる。
それが人類だ。
ただ一つ。人類はまだ死に勝てない。外部記憶をクローンに植えつけても本人の記憶があるクローンができるだけで、本人ではない。
姿形や記憶は本人そのまはまでも、そこから未来はないのだ。過去の行動なら上手くいく。しかし、新たに行動をさせれば、上手くいかない。
例えば物語の続きを書かせようとしても、書けない。あるいは独創的な料理を作らせようとしてもできない。
感性。あるいは心のような物がクローンにも芽生えているのだろう。
死の完全なる克服はまだ時間がかかることだろう。心の研究をしている人間は徐々に減っている。
何せ心だ。一番不要なものだと俺はお前。
常に変動している物を予測するなどまだ人類には早いのかとしれない。
人は進化をすることで心を失ってしまった。行く先は破滅しかない。
なんて昔の哲学者がいっていたそうだが、目に見えないものを考える容量は、俺の中には存在しない。
人類はほぼ優秀な者しか残っていない。数は全盛期の頃よりもだいぶ減ってしまい、人口は数億ほどだが、そのほぼ全員が知能も身体も飛び抜けている。
ほぼと表しているのは少数だが懐古主義の者たちがおり、原始的な生活をしている者たちがいるからだ。
交流はしているが、彼らはどこか俺らと違う。
そんな中でも飛び抜けて優秀な者たち…俺もその中の一人だが…がいた。年齢や人種、性別などが無意味になった世の中においても、かなり変わった集団だっただろう。
医学、物理学、遺伝子工学から電子工学多岐にわたる専門家の中で、俺はソフトウェア工学において世界中でも二番手にいた。
あるとき、特に優秀でどの分野でも一番という、化け物じみた俺たちのリーダーのような男がこういった。
「ちょっと退屈だから新しい世界でも創らない?」
自堕落に、下手をすれば人類でも滅ぼす?なんてうっかりやらかしそうな犯罪予備軍ともいえる俺たちにそんな指針を打ち出した。
単純に面白そうだとその提案は、電脳会議で即決されたぐらいだ。
そういってできたのがVRMMO『エタニティア』だ。
現実とは反対で科学は発展していない、剣と魔法といったファンタジーという誰も見向きがしないゲームを作った。
そう。懐古主義者がしている生活を模倣したゲームだ。
そこには便利さはなく、人が一人では生きていけないというほど過酷な環境。
リーダーの願いに沿って、AIは人類が進化する前の旧人類のような、人との繋がりを求めたり、家族や仲間といった概念を教え、自己進化を促すように構築した。
AI同士のやりとりで新たなAIを生み出すようにするなど、俺たちすら把握できないほど、ゲームの『世界』は発展していた。
売れるはずがない。そうリーダー以外は思っていた。現代でこんな気持ちの悪い距離間…愛だの友情だの…目に見えない付加価値など無意味。
ただの暇つぶし。それだけで作った。
が、非常に売れた。本当にびっくりするほど売れた。
統合国家から配給された趣味や課題としての『仕事』の報酬としてたんまり貯めていた金をほとんど放出するようになるなんて、リーダー以外は予想していなかった。
ゲーム内の進化していくAIは、人間社会が破綻してしまった現代人にとってかなり新鮮味があるらしい。
家族というものを見直して、結婚という極々一部地域にしか残っていなかった風習が再評価されるようにもなった。
「エタニティアの人々は暖かい。我々現代人こそAIのようだ」
そういったレビューがついたほどだ。
正直、くだらないと思ってはいたが、仲間と作ったゲームが評価されたのは嬉しかったし、初めて誇らしい気持ちになれた。
それまでの俺は優秀ではあるった。だがその優秀さってのは、出された問題を解決することだけだ。自分から何かをしたり、作ったりはしなかった。
それが仲間たちとああでもない、こうでもないと話し合いながら作っていたのだ。
仲間といえど、世界のはみ出し者が群れていただけの集団。それがいつの間にか本当の仲間になっていた。
自覚を持つようになってからは、俺や他の仲間たちもさらに『エタニティア』を現実になるようにアップデートを繰り返した。
そのおかげもあって、およそ十五年弱も人々を魅了して、すでに別の世界と認識されるようになったのだ。
関連商品や、エタニティアの収入は俺たち開発者たちに分配された。その額は、旧人類史上にあった小さな国の国家予算をはるかに越えていた。
とはいえ、仲間たちはエタニティアで得た収入はそのままエタニティアへと還元していた。俺もかなりの額をつぎ込んだから、あまり実感はないが、まぁ、使いすぎってことはないだろう。
正直なところ、振り込まれた金額をみても、適当に組んだプログラムの特許で得ている金額に見慣れてしまい大金を手にしても、まったく心が踊ることはない。そんな冷めたガキであったことは認めよう。
くっそ生意気で恥ずかしいガキだった。自分が選ばれた人間だと本気で思っていて、他人を見下していた。
そうだ。そのときの俺は仲間の中でも最年少の十四歳だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる