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第七章 ケモナーと精霊の血脈

手紙の内容

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 部屋に戻ってゆっくりと封筒の中身を確認することにした。ケルンが早く早くと急かすから、ミルディに封を切ってもらい、ついでにお茶の用意をしてもらう。

 封筒には何枚かの手紙と銀色のカードの様なものが入っていた。

『エフデ、ケルン。頑張ったようだね。上手く契約ができてババアも一安心だ。約束した通り駄賃としていい物をお前たちに直接渡そうと思ったんだが、少し体調が悪くてね。悪いんだけど会えそうにないんだ』

「ユリばあ様大丈夫かな?」
「心配だな」

 見た目からしてかなり高齢だったから心配になる。風邪一つでも油断ならない。
 季節の変わり目というか、もう夏になるからそれで体調を崩されたのかもな。

『まぁ、心配はしなくていいよ。今はだいぶましになったからね。会えないのは残念だけど、代わりに手紙に同封させてもらったよ』

 銀色のカードがいい物?

「何か彫ってるよ」
「…うっすいな」

 ケルンが光に当てながら見ているがかなりうすく模様らしき物が彫られている。そのままケルンは模様が何かを探るようだし、俺が声に出して手紙を読んでやればいいか。

『鍵は渡したよ。鍵穴を探してごらん。フェスマルク家に連なるお前たちならきっとわかるはずさ。そこにある物はきっとお前たちの役にたつはずさ。それとケルン。あまり焦って契約をしてはいけないよ。どうも焦っているみたいだけど、慌ててはいけない。土の精霊と火の精霊はただでさえ偏愛と気難しさのある精霊だ。下心が丸見えじゃ、契約は難しいよ。まずは第一に風の精霊と友好を深めな。あのシルフェニアの眷属なんだろ?きっと助けてくれるはずさ。そしたらババアからエフデに誕生祝いを贈ってやるからね。エフデは弟の面倒をきちんとみるんだよ。それとやたらとサイジャルで発明をするんじゃないよ。わかったね?』

「だとさ」
「ユリばあ様、すごいね。何でも知ってる」
「どこで情報を得てるんだか…」

 カードをかざしたりしていたのをやめて、感心したようにケルンがいう。

 ミルディがお茶を渡してくれたので一口飲む。いつもの緑茶だ。
 ケルンは飲まずに机の上に置きっぱなしだ。紅茶が好きなケルンならいつもは、一口ぐらい飲むんだけどそれをしていない。

 それほど驚いたっていうより、もやっとした物があるからだろう。
 ミルディが風呂の用意をしに部屋を出ると、顔が一瞬むくれる。

「きっと、情報を得る人がたくさんいるんだぜ?スパイとか忍者とか」
「にんじゃー?本で見た!いるんだね!」

 感心した顔に戻ってくれた。キラキラが飛んでるし、こっちの方がいい。あんまり、むくれた顔をしているケルンを見るのは好きじゃないからな。

 どこからか俺たちの動きが流れているようなのは確実だ。それがスパイとか忍者とかからはわからないけど。ってか、可能性は低い話だ。
 でも、発明なんてやっていないんだけどなー。改良はちょこちょこやったけど、それだけだ。

 さて、カードが何か…あ?

「何だよケルン。口を曲げてるぞ?」
「だって…」

 感心したようにしていたのに、またむくれている。何が気に入らないんだ?

「ほら、話してみろ。聞いてやるから」

 こういうときに放っておくのは悪手だ。何が原因か聞いてやらないとそのままになってしまう。
 原因はおそらく俺のことだろうけどな。

 ケルンは俺を抱き上げて、そのまはま抱きしめる。

「…早くね…精霊様とお友だちになりたい…それでね、お兄ちゃんの呪いを解きたいんだもん」

 ケルンは変わらない。あくまで俺のために焦っている。
 それはユリばあ様もわかっている。だからこそ焦るなといってきているのだ。

 土と火の精霊様は契約が難しい。それは精霊様の性質が気難しいからだ。
 モフーナにおいて、土と火の精霊様は大きな分類だと闇の精霊様側の精霊様になる。

 だからこそ扱いが難しい。下心が丸見えだと契約は難しいっていうのは、闇の精霊様側の精霊様だからだろう。
 特に火の精霊様はかなり激しい性質を持っているみたいだからな。

「まぁ、ゆっくりでいいさ。どのみち、土と火の精霊様と契約する場所がわからないんだから調べるのが先だしな」

 どうせ契約のできる場所がわかっていないのだし、きっと、父様が判断して契約をできる場所をその時が来れば教えてくれるだろう。
 ゆっくりでいい。俺は別に気にしないんだし。
 それよりも俺は貰った物が、なんなのかの方が知りたい。

「で、カードの模様が何かわかったのか?」
「うん!お兄ちゃん、これね、お家の紋章に似てるよ!」
「紋章に?」

 薄すぎ俺にはよくわからないが?

「えーと…紙に描くと…こんな感じ」

 銀色のカードはトランプほどの大きさだ。華美な彩飾はされておらず、表と裏に彫りがある。

「後ろのは古代語みたいにみえるけど、読める?」
「確かにあるな…古いものなのか元々こうなのか…かなり薄いけど…」

 なぞれば、ケルンが描いた絵の通りだ。目がいいんだな。角度を変えても俺にはさっぱりだ。

「これってお家のと一緒だよね?」
「一緒にみえるが…だけどちょっと違うな」

 紋章は大きな葉っぱに杖が一本だけ。裏には『主人を待つ者のため』と書かれていた。

 今のフェスマルク家の紋章は、大きな葉っぱに、杖が二本クロスしていて下に「我らは旅する」という文字が書いてある。
 これにはそれがない。大きな葉っぱと杖は同じに見えるんだが、これだけなら他にも使っている貴族がいてもおかしくはない。

「昔の紋章なのかな?」
「かもしれないが…フェスマルク家のものじゃないかもしれないし…」

 紋章院のように管理をしているところなら一発でわかるんだろうが…さすがにケルンの体にいたときも外に出てからも紋章関連の本は漁っていないから、わからないんだよな。

 裏に書かれている文字も気になるところだ。

「どこで使うのかな?」
「ヒントが俺たちならわかるっていうだけだからな」
「むー…めーたんてーでもわかりません!」

 迷探偵ケルンはもれなく迷宮入り確定だからやめとこうか。

「ここは探偵じゃなくて、冒険者とか探検家だろ」

 冒険者は俺らには無理だし、探検家も似たようなものか。

「探検家?やってみたい!」
「なら探検するか?」
「する!」

 なんていっても明日の話だ。今日はそのまはま、風呂に入ってやたらと興奮したケルンをなんとか寝かしつけた。
 遠足前の子供ならぬ、探検前の子供のテンションは抑えれないもんがあるんだな。

「で、あっちに行ったり、こっちに行ったりで迷子になったんですね」
「面目ない…」
「ごめんなさい…」

 翌日、午前中の授業を休んでケルンは探検をはりきってやっていた。
 最初の十数分は黙々と学園内を歩いていた。
 古いカードを考えて新しい建物ではなく古い建物を中心として探そうと考えたからだ。

 一番古い建物がこの継ぎはぎだらけの学園の校舎だった。
 そもそも一度更地になったのを『大嵐』ことトーマお祖父様が再建したからだ。

 その更地になった原因もトーマお祖父様らしいけど、何をやったんだろうか。

 継ぎはぎだらけの学園は、今でも増改築を重ねている。毎日どこかしらで新しい建物をくっつけているので、気を抜くと迷ってしまう。
 上に上がっていると思うと地下だったり、中庭があったと思うとプールがあったりと、まるで迷路だ。

 出れなくなるかもしれないような建物なんだが、警備員さんに助けを求めれば出口まで案内してもらえるため、最悪の場合は助けを求めればいい。
 ただ、薄暗い廊下とかであの警備員さんが急に壁を通り抜けてやってきたら恐怖で腰が抜けるだろう。

 おそらく今はどこかの棟…もしくは塔の中なんだと思う。煙突みたいな塔の中を出たり入ったりしたり、校舎にも出入りをしたからどちらかなはず。
 ワープみたいに急に変なところに出るからこの校舎は王城みたく魔道具なんじゃねぇかな?

 ただ昼になっても手がかりもなく歩いてどこにいるかわからなくなるとは思いもしない効果があるとは…いや、これは、方向狂わす魔道具が使われているのに違いない。

 だからミルディ。少しは鎮まりたまえ!

「目的地があると聞いてついてきましたが、目的地を探すのが目的だったなら最初にいってください。特にエフデ様。このことは、エセニアさんに報告します」

 角が生えている。
 蛇なのに。鬼だったのか。

 ってか、エセニアに報告は待ってくれ!あいつマジでこっちに使用人枠として来れないかを父様に相談してるから!

 あいつがきたらケルンに頼んで動物さんたちと触れ合いをするために、授業の間にこっそり校舎を出て商業区画にいっているのがばれるじゃねぇか!
 ただでさえ、わんこと触れあったのを自慢したら冷めた目であいついうんだぞ。

「まだ幼い坊ちゃまと一緒にしゃいでどうするんですか?動物が好きなのはいいですが、兄としてどっしりなさってください」

 っていってくるんだぞ!にゃんこなら怒らないのに!わんこだとゲキおこエセニアになるんだぞ!
 だから、報告はしないでもらいたい。どうにか穏便にだな。

「いや、あの、な」
「お昼ご飯も食べていないんですよ?成長期の坊ちゃまがおやつだけでしのぐなんて…報告します。いいですね?」
「ウッス」

 それをいわれたら、ミルディが怒るのも無理もない。
 すでにいつものお昼の時間を過ぎている。こばらが空いたからとおやつを食べているがきちんとした食事ではない。

 成長期と言葉を濁したが、魔法の反動で体力を削る可能性が高いケルンにとって栄養をとることは、衰弱を防ぐことだ。
 魔法の制御は杖のサポートと特訓のおかげでよくなっても、反動はまだよくならない。

 それどころか強い魔法を覚えたせいか、夜は早くに寝てしまっている。ひどいときは、特訓の休憩をしているときには、寝ているほどだ。

 だからミルディは怒ったのだ。
 それが、わかったからこそミルディの言葉を受け入れた。

「ミルディ、ごめんね?エセニアにはなるべく、お兄ちゃんのこと優しく伝えてあげてね?あと僕のこともね?お願いね?」

 腕組みをしているミルディと廊下で正座をする俺に、頭をぺこりと下げるケルン。
 ケルンもエセニアに怒られるのがわかっているのか、覚悟を決めている。

 こういう感じでミルディによく怒られるんだが、これはケルンに怒れないからだろうな…恋は盲目というか…毎度、正座で小言を聞いている。

 俺、年長者なんだけどなー。
 ミルディがしっかりしているから忘れるけど、年齢的にはまだ、ぎりぎり一桁ぐらいなんだよな、ミルディって。本人が卵から孵ったって年数から考えてだから、正確なのはわからないが。

 で、ここはどこの廊下なんだろうか。不思議なことに、誰もいないから静かなんだけど。



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暑くなったり、夜は冷えたりで体調を崩していました。
ぼちぼちふっきします。
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