上 下
213 / 229
第七章 ケモナーと精霊の血脈

『大嵐』前の静けさ

しおりを挟む
 短い休暇だったが、サイジャルに戻らねばならない。
 この三日間は完全に休みだからと利用させてもらったが、もう一樹月半もすれば長期の休みがとれるんだ。
 基本的にのんびりとさせてもらった。

 ピクニックに行ったり、画材屋に行ったりもした。店主のザックおじさんと挨拶をしたんだが、父様がいいっといったからしたが、よかったのか?俺は姿を隠してないといけないと思っていたんだが…ザックおじさんはあいかわらず顔がいかつかったが、変な目で俺をみなかった。
 代わりに酒場付近は来ないでくれといわれた。行く予定はなかったから了承したが、荒くれ者がいそうだし、ケルンは子供だから行くわけがないんだが。
 父様も頷いてたし、間違いはないな。

 絵や彫刻を作成したり…あんまりサイジャルと変わらないことをしてたんだが、こっちの方が気が楽だったな。

 勉強も少しした。少しってか、知らなくていいと内緒にされていたことを教えてもらったぐらいか。
 貴族の格付けとかな…建国貴族がまさか王族とそこまで差がないとは思ってもみなかった。

 それからフートを夜に呼び出して話をしたんだったな。
 ケルンが契約した精霊様の名前を聞こうとしたんだ。

「申し訳ござりませぬ。某の口からは…許可されておりませぬ」

 という。さすがに俺たちも変だと思った。なにせ、わざと伏せているとしか思えないからだ。

「何で隠すんだ?」
「…教えたくないの?」

 ほら、みろ。ケルンがしょんぼりしているぞ。それをみたフートが慌てて膝をついて頭をたれる。

「主殿!何とぞそのようなお顔をなされないでくだされ!…あの方の名は契約者に捧げられておるのです」
「契約者に捧げる?何をだ?」

 聞いたこともない話をフートがするので、思わず俺が口にする。フートは渋々といった様子だったが、説明してくれた。

「我ら意志ある精霊は初めて契約をする者に名を捧げまする。名を捧げ、我らは契約者と縁を繋げ契約者は魔力を精霊に渡し、世界に干渉するのでござります」
「初めて契約をするときだけ?僕はどうなの?」
「そうでござります。某の場合はお屋形様に捧げました。主殿は二人目でございますな」

 初めてってそういう意味だったのか?…いや、含みがあるいい方だったし…触れないでおこう。
 それよりも、名を捧げることと、名前を教えないことがどうして繋がるのかいまいちわからない。

「なぁ、名を捧げたらどうして、名前を教えてくれないことに繋がるんだ?別に俺たちが知ったらいけないとかじゃないだろ?」

 少なくともフートは前のお屋形様って人に名前を捧げても俺たちに教えているし…それこそ、契約者ではない俺にも教えたぐらいだからな。

「教えたくても教えれないのです…あの方の契約者はかなり力の強い方で、その上、契約をされたまま姿を消されたのです」
「消えた?」
「どこかに行っちゃったの?」

 契約をしたまま消えた…っていっても消えたから教えれないじゃ話が通じな…捧げる…何となく浮かんだことを口に出す。

「捧げる…ってのは、その消えた契約者ってのが精霊様の名前を握ってるってことか?」

 教えたくても教えれないってことは、名前を誰かが握っているということなのかと思ったのだ。知識として確かに名前で縛るということができると俺は知っている。
 確か、スキルとか魔術でもあったはずだ。

「兄御殿がおっしゃるとおりで。故にあの方々はこちらに出ることもなく、このごろは力を行使することもできず、某のようなものを斡旋しておられるのです」
「方々ね…」

 複数系…あの運動部系の水の精霊様もだろうか。契約者に名前を握られているから、斡旋業をしてるっての大変な話だ。

 確かに忙しいってなるわな…だから別な精霊様を紹介できたってとこか。

 でも、契約者はどこに行ったんだろうな。

「その契約者って何者なんだ?有名な魔法使い?」
「ゆーめいじん?」

 現役の冒険者とか?はたまた魔法使いとか?誰にしろ、迷惑なやつだ。

「それが…わからぬのです」
「わからない?」
「なんでー?」

 契約者が誰かわからないとかあるのか?
 フートは苦笑しながら理由を語った。

「あの方々は確かに契約をされたそうなのですが、かなり古く…それ故に誰が契約をしたのかはわからず…」

 かなり古い…精霊様のかなり古いって…どんだけ昔だよ。

「…生きてんのか?契約者って」

 普通に考えたら死んでるだろ。死んでても契約が続くとは思えないんだけどな…死んでも続く契約って呪いとかしいえないんだけど。

「生きておられると思いますぞ。以前は他の契約者にお力を貸されておりましたから」
「生きてるのかよ」

 何歳だよそいつ。ケルンも俺もびっくりだよ。

「今も魂は感じるそうですが…某が話せるのはここまででございます」

 フートが語ったことは大きな宿題になりそうだ。
 そう感じたが早々に還ってもらった。教育に悪いことをケルンに教えようとするからだ。

 痔に効く軟膏の作り方とか覚えたくなかったわ!…いや、うちのクランに痔主がいたから、有益な話だったかもしれない…座り作業が多いとどうしてもなるそうだ。
 ケルンは身長があれだから立っての作業が多いし、身長が大きく伸びても立ってさせよう。聞いてて大変そうだったからな。

 教育に悪いで思い出した。
 ケルンが寝てからこっそり、痴杖ちじょうにも精霊様の話をしてみようと思ったんだが、やっぱりあいつはだめだ。

『も、もうちょっと待ってくれっす…ふ、複雑で…ま、満月までに整理しとくっす!』
「そうか。早くしてくれよ」

 あえて記憶から消しているが、言葉の合間に喘ぎ声と「らめぇぇ!いっぱいになるぅ!」とかお前の容量のことは聞きたくないってか、容量とかあんの?杖なのに?
 余分な下ネタとか削れたらいいなぁと思う。むしろゴミ箱にぽいだ。

 上級になると時間がかかるものなんだろうな。あれから静かでとてもいい。ケルンのポケットからはみだしもしないしな。

 あっという間にサイジャルに戻るときがき来た。ずるずる時間をのばして、三日目の夕方に屋敷から出るまで過ごした。
 もっと早く戻るつもりではあったが、つい、森の動物たちとの触れ合いとか…母様が嬉しそうにしてるから、戻りにくかったのだ。

「ちゃんとお勉強をするのよ?エフデ」
「いや、なんで俺なんですか。そこはケルンでしょ!」

 父様が爆笑している。いや、だって俺は臨時職員だし!ケルンは学生だから学ぶのは当然だが、俺は関係ないじゃんか!

「ケルンはしっかりお勉強をするもの。貴方は礼儀作法のお勉強をケルンと受けてきなさい。わかったわね?」
「えー!僕も?」
「夜会用のはまだでしょ?ほら、二人とも嫌そうにしないの!」

 おー、ケルンからも伝わってくるわ。

『礼儀作法のお勉強は嫌!』
『わかる。肩がこる…俺には肩がないけど』

 二人で内緒話をしていると、母様は気付いているのか「もう…」と何かをいいかけて急に止まる。
 どうしたのだろうかと母様を見れば、目を見開いて遠くを見ている。

「本当に心配だわ…」
「母様?」
「どうしたの?母様?」

 また体調が悪くなったのかとケルンが母様に心配そうに抱きつくので、俺も母様の顔をまじまじと見る。
 顔色は悪くなってない。超絶美人だ。本当に人なのかな?

 母様は少し悲しそうに俺たちを見つめる。

「…もし、どうしてもだめだと思ったら…楽にさせてあげなさい」

 母様は女神様のように慈悲深い声で俺たちに告げる。
 神秘的な母様の赤い瞳が燃え上がった気がした。

「なんのこと?」
「楽に?」

 楽にさせる。不吉でありながら、それは何かを救うかのような慈悲の言葉に俺は感じた。
 俺の中の何かがきゅっと締め付けられる感覚もする。

「ただの予感…ね」

 母様の言葉でその場にいた俺たちをのぞく全員が神妙な顔になった。
 俺たちは訳もわからず、サイジャルに戻るのをやめようといいだす父様を母様と説得してサイジャルに戻った。

 実は俺も母様がいう前から、なんとなく予感めいたものがあった。
 このまま屋敷に留まっていた方がいいんじゃないかと。サイジャルにまだ戻りたくないというケルンと俺の気持ちがそう錯覚させたの、かと思った。

 でも俺たちは自分たちの意思でサイジャルに戻った。父様を説得してまで戻らないといけないと思ったのだ。

 例えそれが誰かを切り捨てる…取捨選択の始まりと知っていたとしても、俺たちはあの場に戻っただろう。
 切り捨てさせないために、俺たちはいるんだから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...