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第五章 影の者たちとケモナー

学園との取引

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 結局、父様たちは夕方まで一緒にいた。懐かしそうに父様が街を案内してくれて、母様が昔ここで授業を受け持った話を聞いたりした。

 喜んでいるケルンには悪いが…父様仕事は?ロイヤルメイジの人たちがそろそろ反乱するんじゃないかな?
 と思ってみたがいうのは止めた。二人とも楽しそうだし、俺も楽しいし。

 途中でカルドとフィオナが交代してついてきた。フィオナが屋敷の外に出てくるのはかなり珍しい。
 屋敷に誰かいないと行けないからと留守番をしていたそうだがカルドから何かをいわれていたのか、挨拶前には号泣していた。

 けれど、フィオナはどこまでもフィオナだと思う。母様にいわれてすぐに仕事をするんだからな。

「はい、若様…ほら!猫背を直してください!いいですよ。とても、りりしいです!」
「ありがとう、フィオナ…だけど必要か?」

 家族を見送った翌日。
 今日から俺も学園に関わっていくわけだが、ケルンと一緒に起きたらすぐに手紙が届いていた。

『ハルハレに来ること』

 母様からだったが…なんだろうか?と思ってやってくれば、母様ではなくフィオナがいた。
 そして今、俺は飾りつけられている。

「何を仰いますか!若様はケルン坊ちゃまの兄君なのですよ?しっかりとした服装でなければ兄としての威厳に関わります!」

 確かに全裸といえば全裸だが…石なんだしよくね?
 昨日の採寸で服を作られるような予感はしていたが、こうもはやく作ってくるとは思わなかったな。

 二十センチほどの体に合わせて、背広はビロードの黒い服に、裏地はワインレッド。ちゃんとワイシャツに、ズボンもある。
 ネクタイまで編んくるとは…さすがだ。しかも、肉球ネクタイなので軽く歓声をあげたらフィオナが呆れていた。

「奥様にいわれて子供っぽいと思いつつ、ご用意しましたが…ケルン坊ちゃまと同じですね…ご兄弟ですね。本当に」

 精神年齢が一緒だといわれた気もするが、俺好みの服を用意したフィオナが悪い。
 ケルンの作業着に耳と尻尾をつけているのだから俺のにもあるかと思えばなかった。まぁ、ケルンだからかわいいだけだな。

「私が仕立てましたが…生地は奥様がご用意してくださったものです…お気に召していただけましたか?」
「へー…さすが母様だな。俺は好きだぞこういうの」

 服の素材もかなりいい。靴も作ってくれて姿見でみれば、かなり姿が変わったように思う。
 まぁ、棒人間に変わりがないけど。

「しかし…ここのとこはフィオナじゃないだろ?」

 ボタンと裏地にある俺の名前はフィオナのものでないとすぐわかる。
 ボタンは少しゆるいし、名前はよたよたとしている。

「ボタン付けと名前エセニアが刺繍しました…あの子はその…裁縫は不得意でして…直しましょうか?」
「いや、いい。今度からかうから」

 だろうと思った。フィオナがあまりにも裁縫が得意でスキルもあるというのに、エセニアは壊滅的に下手だからな。それでもボタンをつけて、かろうじて俺の名前が読めるぐらいはできている。頑張ったんだろう。

「ほどほどにしてあげてくださいね、若様」
「ほどほどにしとくさ」

 あまりやって泣かせたくはない。とはいえ、からかう、ネタがあるなら全力だ。反応が面白いからな。

 フィオナは他にも普段着や寝巻きを縫ってきてくれた。適当なとこに置いておけばいいのに、俺専用のタンスを作ってそこにいれてある。

 何度か俺の姿を確認して、フィオナは深く頭を下げた。

「若様…どうかご自愛くださいませ。ケルン坊ちゃまだけではなく、どうかご自身のことも…お願いします」
「ああ…」

 フィオナは何かを感じとったのだろう。真剣に俺にいう。茶化すことなく返事をすれば、ハルハレの入り口が開いた。

「できた!?」

 着替えるから外で待ってる!と待っていたケルンが入ってきたのだ。
 着るだけというのに、なんでだろうかと思えばびっくりしたいからだと。

「お兄ちゃん!かっこいいよ!」
「おう。ばしっときまってるか?」
「きまってるぅ!」

 俺を持ち上げて目をキラキラしているケルンが俺の口調を真似をしている。
 ちょっとまずい。

「…言葉づかいについては、奥様に報告しておきましょう」
「勘弁してくれ」

 怒られる。

「では、今日の課題はこの教室にあるものならなんでもいい。人でもなんでもいいからまずは描いてくれ。質問があれば順次手をあげて知らせてくれ」

 教室の机の上に立って俺は生徒たちにいう。教壇に立つを字面どおりにする教員がいていいのかわからないがこうしないと生徒から見えないのだ。

 俺は思念石を借用する代償として、サイジャルの臨時講師として働くことにした。
 ケルンがいる間だけではあるが、臨時講師をするだけで許可がおりるならば安いもんだ。

 受け持つのは絵画だ。彫刻もたまには顔を出すが、一つだけにしてもらった。ケルンが取っていない錬金術も頼まれたが断った。父様からも発明はほどほどにといわれたし、あまり知識を広めない方がいいだろう。

「お兄ちゃん、ここは?」

 最初の授業ということで、たくさんの生徒がいる。ただしどう見ても外見からして年齢は子供ではない。唯一の子供であるケルンが手もあげないで質問をするので注意する。

「こら、ケルン。授業中だぞ」
「はい、エフデ先生!僕のとこに来て教えてください!」

 そういうので、机から飛んでケルンの所へ行くと、机の上に窓があった。どうやら窓の景色をそのまま描いたようだな。上手く描けている。

「でもな、教室の中のものっていったろ?窓の外は教室じゃないぞ?」
「そっか!でも…窓からみてるからだめ?」
「んー…まぁ、いいか。それじゃ好きなもんを描いてよし!色鉛筆が足りなくなったらそこに備品があるからそこから持っていっていいぞ。」
「はーい!またあとで呼ぶね!」

 お絵描きの時間になっているようだが、絵画なんて描いてなんぼだし、楽しく学ばないとのびるもんものびないからな。
 あとケルンにばかり構ってられないのだ。

「ああ、あの!エフデ様!こ、ここの配色についてご…ご意見をた、たまわれませんか?」

 声をかけてきたのは若いエルフだ。ハトルゥエリアさんの弟子らしい。ハトルゥエリアさんはそのうち参加するらしい。
 とはいえ、今回の人数には含まれない。
 昨日、学園が俺が教えると発表してすぐに埋まったらしいからな。ケルンは俺が教えるから最初っから入っていたが…ここまで人がくるとは…五十人はとりすぎじゃないか?
 見た目はかなり、若いエルフ…先祖返りらしい彼の絵は面白かった。
 それは教室の全体図なのだが、表現が普通とは違った。

「なるほどな…面白いな。実際の色とは真逆の世界を色で表現か…どうせなら徐々に変えていけばいいんじゃないか?これも一つの表現ではあるが、全てが真逆のでは、これが当たり前のように感じてしまうからな」
「ご助言、あ、ありがとうございます!」
「この調子でどんどん描いてくれ」

 声をかければ感極まったように、白目をむいて倒れてしまった。

「エ、エフデ様!」

 介抱しようかと思えば、あっというまに後ろの席へと流されていき、次はドワーフの若者が俺を呼ぶ。
 そして同じことを何度か繰り返したのが初日の授業だ。

 そう初日の授業だったのだ。

「…誰一人として、先生と呼んでくれない件について」

 二週間だ。もう、学園も一ヶ月近くいる。ケルンも学園生活に慣れてきて、ミケ君たちの他にも友達ができたほどだ。

 俺の存在もだいぶ認知され視線を感じるときはあるが、最初よりは減った。
 みんな慣れてきたというのに、俺はいまだ先生と呼ばれない。

「いやー、人気ですね、エフデさん」
「変わってくれてもいいんだぜ、ナザド」
「お断りしまーす!」

 日なたぼっことベンチでケルンと腰かけていると、ナザドが隣に座ってきた。
 ケルンがいれば上機嫌なお前と違って俺はこの息苦しさがつらくてたまんねぇってのに。

 様付けなんて俺は無理!ナザドぐらいでいい。

「エフデさんは愛好家もたくさんいますし…知ってます?学園に侵入しようとした商人がまた、捕まったんですよ?」
「んだよ。俺のせいじゃねぇぞ…はぁ…めんどくせぇ」
「まぁ、坊ちゃまのついでにエフデさんも守ってあげますよ…つけで」
「俺はついでかよ。つけんなよ。ケルンとの時間を減らすぞ」
「それはやめてください。だって、エフデさんも坊ちゃまに危害がなければ商人の依頼とか受けちゃうでしょ?ついでで充分じゃないですか」
「そりゃ、そうだけどさ」

 商人からの依頼も金になるなら受けてもいいかなと思う。俺が自由にできる金はないからな。
 わりとナザドとはこういった話を繰り返しているが、ナザドもケルンのために依頼を受けているみたいだ。どんな依頼かはきいていないが大変なんだろう。こうして息抜きをしにきている。

 ナザドと軽口を叩きあっているとケルンがいってきた言葉に少し悩んでしまったがな。

「お兄ちゃんとナザドって友達なの?」
「さぁ?」
「どうなんでしょ?…友達とかいたことないんで。エフデさんもでしょ?」
「うるせえ」

 一言余計なんだよ。

「ただ、エフデさんはなんというか…楽ですね。一番は坊ちゃんですけど、その次ぐらいにはいてもいいですね!」

 どうやらナザドの中では俺の存在は上にきているらしい。気恥ずかしいことを、真顔でさらさらといっているが、本当にこいつは残念なやつだよな。
 だって、マジで友達が一人もいないんだぞ。

「キャスに今度相談しよう」
「そういえば、キャスとも話が合ってたもんね」

 二週間の間にランディとキャスとも顔合わせは済ませている。ハンクは屋敷に戻ったときに顔を合わせる予定だ。
 熊の顔を持つランディがこんな人が多い場所に来るとは思わなかったが、ハルハレの、中とはいえ大事な初対面だ。

 ケルンと一緒に飛びついてベア毛を堪能しまくった。あれは最高だ。

 ランディも号泣していたが、店が震えるほどの大声で泣くとは思わなかった。
 それだけケルンと離れていたのがさびしかったのかと思っていたが、俺を若様と認識していたのには驚いた。

「わ、若様!若様だ!おおーん!精霊様ぁ、ありがとうございますだぁ!」

 精霊様に運んできてもらったからな。俺も感謝だ。

 キャスとは少し話をしたが、会話が弾んだ。そこはナザドと同じだな。途中から、ケルンのかわいいとこをいいだすとは思わなかったが、一番かわいいのは、動物を前にしたときで一致した。

 それと少しだけ王国事情の話を聞いたりと不思議と仲良くなっている。

「…精神年齢が近いからか?」
「そりゃ、本当だったら僕たちは幼馴染でしたからね」

 ナザドがぽろりと呟いた。

「本当だったら?」
「…聞かなかったことにしてください」

 しまったと顔に出したナザドを追求はしない。それ以上は聞かないことにしたのだ。
 父様たちがつらそうにすることと、関係しているのだろう。ならば本人たちが語るまで聞かなくてもいいだろう。

 それとは別に気がかりなことがある。
 ティルカには会えていない。
 すぐに会えると思っていたんだが、会っていないのはなんだか寂しく思う。避けられているんだろう。俺みたいな存在が受け入れられているなんて、ケルンを大事に思うティルカには許せないんだろうな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・
遅くまりました。
ストックなんてないんですよ。全ての作品は。
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