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第四章 学園に行くケモナー

杖の完成

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 ナザドに持ち上げられ、部屋に戻ることになった。途中でミルデイに会うかと思ったが、部屋に戻るとミルデイは書き置きを残していた。

「少し出てきますだって」
 珍しいな。出迎えがあるもんかと思ったけど。
「んー…お部屋で待ってようかな?『コール』してもいいけど、ミルデイもゆっくりしてもらいたいから」
 その方がいいかもな…夜は気を使うだろうしな。
「んー…仕方ないよね…」
 仕方ないなぁ…あれは。

 どこか遊べる所を見つけてきてくれるのかもしれないな。
 時おり、帰ってきた時に、服に泥がついていることがあるのだが、講義のあとでこっそり一人で探検をしているに違いない。何せ、学園の地図に書き込みが増えているからな。丸とかしてあるところは、店とかかな?

 そう考えると、この後に控えているナザドの我が儘も我慢できるというのものだ。

「坊っちゃま!今日は僕と晩ご飯を一緒にしてくれますよね?」

 叱る意味で断るか悩みそうになったのだが、サーシャル先生の「お願い!」という、目での懇願で承諾した。

 確かに影が大きなままだったし、静電気がパチパチと起こっていたからな…内心ではまだサーシャル先生に対していらついてたんだろう。
 ケルンを部屋に送るっていうのがなければ、たぶん雷でも落としていただろうな。

 迎えにきてくれるらしいけど、食べる場所が微妙だな。
「職員専用食堂だよね?僕も行っていいのかな?」
 持ち込みでなら問題ないだろ。他にも王族専用とか、獣人専用とかあるみたいだし…絶対、ご先祖様が絡んでるな。
「んーと…獣人専用のとこのこと?『空気清浄と抜け毛対策がしてあって毛の多い方もご利用になれます』だって。僕たちのお家みたいだね」
 むしろ、うちの機能と同じだろ…同じ人なんだし。

 学園を建て直したご先祖様は屋敷を建てた人だ。まぁ、屋敷は改装したという方が正しいか。大本は初代の頃のままらしい。

 あの「広いとこで鍋パしたらよくね?」でダンスホールを作った人。そのご先祖様の母親はたくさんいて、その中に獣人の母親もいたから、屋敷を改装したそうだ。

 掃除とか大変だろうからな。廊下に吸気口があって、毛をまとめて吸い込んで、焼却室で他のゴミと一緒に燃やしている。お湯はその時の熱を利用できるし、冬には床暖房となっていて、一度も寒いと思ったことがない。
 おかげでうちは抜け毛がない。埃もないからな。使用人が少なくても美観を損なわない一つの要因だ。もちろん、普段からフィオナとエセニアが窓をふいたり清掃に余念はないがな。
 カルドは…ああみえて、不器用なんだよなぁ。

 うち以外だと王城も同じような作りだったが、学園も床暖房なんだろうな?そうだじゃなく、あんまり寒かったらケルンが風邪をひくかもしれない。
「お兄ちゃん、心配しすぎだよ」

 くすくすとケルンが笑うが、体力はあまりないんだから、風邪を引かないように心がけるのは大事なことだ。

「お兄ちゃんを心配させないようにちゃんと温かくするから」
 そうだな。フィオナに編んでもらおう。
「フィオナのお裁縫はすごいもんねー。僕たちもできる?」
 やれなくはないが…フィオナから針を借りれるか?
「無理!」
 ということで、裁縫は無理にしなくていいだろ。
「はーい!」

 フィオナは裁縫が得意だ。それに編み物も得意で家族全員の冬の部屋着を編める。というか服を縫えるのだ。
 さすがに式典に出るような服は縫えないだろうが、他のものはだいたい縫える。

「奥様のために覚えまして…安全と補修をしていたらいつの間にかスキルを覚えたときには、どうしたものかと」

 なんてフィオナはいっていた。あのときはわからなかったが、母様が剣を使えるって聞いたのを考えたら答えはわかるようなもんだ。
 針仕事はフィオナのものと屋敷では決まっている。ケルンが怪我をしないように針仕事をさせてもらえるわけがないのだ。

 晩ご飯は、もちろん、ハンクが送ってきた物を食べることになる。そういう約束だからなのと、美味しいのはわかっているからな。
 だから、どこで食べても一緒なんだけどな…この部屋でも構わないんだけど、屋敷でもミルデイがナザドを部屋に入れるのを嫌がるからな。

「坊っちゃま。ナザドさんは、絶対に部屋に入れないで下さい。持ち物が無くなるのは困ります」

 と、カルドと同じことをいっていたんだよな…流石に、もう、枕とか持っていくことはないと思うんだけどな。

「坊ちゃまに会えないので代わりに持っていきます」

 そう笑顔でもって帰るからな。それをみて、ケルン以外が毎回ドン引きしてもナザドは止めないんだよなぁ。

「ご飯なにかなー」
 温かいもんかもな。今日も少し冷えたし。
「あっちちー?」
 よく冷まして食べろよ。

 料理は毎回できたてのように温かい。ハンクの料理が熱々なのはおそらく、父様が移動系の魔法で瞬時に送っているからだろうな。ケルンのためならそれくらい仕事の合間でもやる人だから。
 温めるような、機械も魔道具もないからな…レンジとか、あれば色々楽なんだけど、似たような魔法があるらしいからそれで魔道具でもあればな…発明するか。
 そんなことに、魔法や知識をを使うのはどうかとも思うのだが、舌がハンクに染まってるからな。美味しい食事は大切だ。

 あ、そうだった。ミケ君達にいっておかないとな。晩御飯を一緒にと思ってたけど、ナザドと一緒には遠慮するだろうし。一応、先生と食べるのは気を使うだろうし。ご飯ぐらいは、ゆっくりしたいだろう。

 ミケ君たちにいっておけよ?晩御飯は一緒には食べれないって。
「そうだね。精霊様、お願い!『コール』ミケ君?」
「ケルンか。どうした?何かあったか?」

 ん?あれ?『コール』の魔法が変だな?声だけなはずなのに、がさごそと音を拾ってきている。魔力を込め過ぎたか。あとで調整し直しておかないと。

 何か書いているのだろうか?ミケ君は、皇子モードのようだ。

「あのね、晩ご飯、ナザド先生と食べるから、今日は一緒に食べれないんだぁ」
「ナザド先生と?…そうか。ナザド先生は、元々、フェスマルク家の人間だったな」

 やっぱり、知っていたか。ミケ君の頭の中は、いったいどうなっているんだろうか…一回、どこまで知っているのか聞いてみたいな。

 ミケ君は、どうやら、まだメリアちゃんと話し込んでいたようだった。談話室にでも行っていたのかな?学園の地図にいくつか談話室あるから、その中の一つにでも行っているんだろう。ざわざわと話し声みたいなのも遠くで聞こえているし、作戦会議とやらを部屋から別なとこにしたってとこか。

「メリア。ケルンは食事を、共にできなくなったぞ…いや、そうじゃない。あの女ではなく、ナザド先生と食事をするそうだ…ああ。それは、明日からでいいだろう?」

 メリアちゃんの声は聞こえなかったが、ミケ君が一歩引いたようなガタッという音は聞こえた。もしかしたら、メリアちゃんに威圧でもされたのかな?いやいや、メリアちゃんがそんなこと…しなくもないな。さっきの先輩への対応をみる限り、確実に、母様の血縁を感じる。

「こちらは、構わない。アシュにも伝えておこう」
「ありがとう!お願いするねー」

『コール』を切る間際に、ミケ君の「計画を…」ってのが聞こえた気がしたが凄く気になる。

 ミケ君達は、本当に何をしているんだろう?
「遊びに行く予定かな?」
 そうかもな。楽しみにしてような。
「うん!」

 少しケルンと話しているとやたらとスッキリしたような顔のミルデイが帰ってきて、夜の予定を伝えた。
 ミルデイの顔の代わりようは面白かった。

 ナザドとの食事については、触れないでおこう。
 ミルデイに対して、冷たすぎたから、ケルンが怒ったのだ。もう一度叱ったら、ぽろぽろと泣き出す大人なんて、面倒くさいし、周囲の先生らしき人の目線が、厄介だったからな。

 生徒が先生を泣かしているとか、学級崩壊の始まりではないです。あと、調教とか聞こえたけど、止めてくれ!ナザドもケルンもノーマルだからな!俺が保障するから!

 ってか、ケルンに変なこと覚えさせる気はねぇかんな!そこの先生は発酵しているのはわかるが手元で描いたもんは消してくれ!

 確かに端からみれば変に思うだろうけど、ナザドは昔色々と嫌なことがあって、人間不信なのと屋敷にあんまりいないから、その分を今ケルンに構うことで取り返そうとか、あとは…えーと…普通に病んでるだけだから!

 病んでるのさえなければ、いい奴なんだよ!ハイライトのない瞳がデフォルトだけど、いい奴なんだよ!

 ただ、しばらく、一緒にはご飯は食べないでおこうと思う。ハンクのご飯は美味しかったが、ナザドの分はなかったことだけは、触れておく。
 ハンクはティルカの次にナザドを嫌っているからな。前に大怪我させられたのだから今後も仲良くはできないかもしれない。

 まったく気にせずお腹いっぱいでご機嫌なケルンと、なんでか疲れた気分になる俺。おかしいな…ケルンの満足感で俺も満足しているはずなんだが?

 部屋に戻って杖を取り出した。

 なんでだよ、ほんと。
「戻ってるね」

 杖が鍵尻尾になって、葉っぱがピンとはっている。ピコピコと揺れて挨拶しているが、今は目をそらさしてほしい。

「あのね、お兄ちゃんがいってたから、この小さい鐘を…お兄ちゃん?どうしたの?」
 え!あ、いや。いい杖だなってな!ケルンが頑張ったから思わずみとれちまった。
「ほんと!嬉しいなー!あ、それでね?この鐘をつけようかなぁって思うの!どう?」
 あー…『失せ物探しの鐘シーク・チャイム』か。いいかもな。サイジャルで、落とし物をしたら使えるだろうし。

 ケルンが宝箱から取り出したのは屋敷にあった鐘だ。小さな黄金色の鐘は失くした物を探せるもので、初代のご先祖様の遺品の一つらしい。見た目が綺麗だったから誕生日に父様から貰ったのだ。
 かなり古い品らしいけど、今でも現役で使える魔道具だ。

 失せ物がこの世にあるかぎり、鐘をそちらにむければ鳴るという優れものだ。

 とはいえ、探している場所から遠すぎたり、この世に無いものには効果がない。
 ケルンが一番最初に探したのは俺の身体だが、鳴るはずもなかった。それ以外はきちんと鳴った。
 性能は高いな。俺の身体はないが、ケルンの中の俺には反応したからな。

「このね、曲がったとこに引っ掛けを作って…あれ?引っ掛け作らなくてもあるね。あったっけ?」
 き、気にすんな。
「そう?ま、いっか!飾ってあげるねー。うん!かっこよくなった!」

 ケルンの言葉に合わせるように鐘を引っ掛けれるような枝が伸びて、鍵尻尾の内側に鐘が吊るされた。
 ほめられた杖は、葉っぱをぶんぶん、ふった。

「僕の杖!素敵だね!」
 杖だけに、ステッキってか。
「ステーキ?食べたいの?僕お腹いっぱいだから明日でもいい?」
 あ、うん。すまん。寝よう。
「ん?変なお兄ちゃんー」

 オヤジギャグには触れないでくれ。

 ベッドに潜り込んだら、杖作りで憑かれ…違った。疲れたのもあったのだろう。朝まで熟睡してしまい、またも寝坊だ。ミルデイに減点されてしまった。
 ご飯の食べ方が綺麗だったから、プラマイゼロにしてもらったがな!魚の骨を取るのは、得意なのだ。
 そして、ついに、まともな授業が今日から始まる。
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