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第四章 学園に行くケモナー

入学式

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 入学式というのだから、体育館のような広い場所に集まるのかと思っていたのだが、何だろう…物語ででてくる謁見の場のようなところに、押し込まれてしまった。

「暑いねぇ…」
「私はこの匂いがダメだ」
「私もです」

 とにかく、室内が暑い。密集しているからだろう。あと、香水つけてる人多すぎる!鼻がやばい…みたところ、子供が多いってのに、子供なのに、香水くさいってどんだけつけてんだ?

「ミケ君、メリアちゃん、大じょ、うわぁ!」
「ケルン!」
「ケルン様!」

 頭が痛くなりそうになりながら、前を見ていると、また人波にもまれてしまって、ミケ君やメリアちゃんとはぐれてしまった。
 ミルデイは、ここに入る前に、ミケ君達の護衛の人達と別室に行ってしまっていない。

「おい、邪魔だ」
「止まると危ないですよ?」
「すいません!」

 見知らぬ子供たちに注意されて、謝ったら、ミケ君たちの姿は完全に見えなくなってしまった。

「どうしよう…お兄ちゃん…僕…ひっく」
 ああ!泣くな!えーと、入学式が終わったら『コール』しよう!な?俺がいるんだから、泣くんじゃねぇぞ!
「う、うん…泣かない!」

 不安でちょっと涙がでそうになったが、なんとか引っ込んだ。
 どのみちここで『コール』を使ったところで、合流は不可能だろう。
 ざっとみたところ…千人以上がいるんじゃねぇかな?

 それに、なんだか嫌な感じが少しする。あまりここで魔法は使わない方がいいだろう。

「お兄ちゃん、どうしたの?」
 なんか、嫌な感じがする。ケルンはどうだ?
「んー…ちょっとぴりってした!首のここ」
 そうか。魔法は出てからにしような。

 ケルンの感覚ですら出ているっていうなら、やはりなにかいるのか?

 その時、壇上に動きがあった。
 玉座のありそうな一際高い段の上に、恰幅のいいシスターのような服をきたおばあさんがみえた。

「皆さん!静粛に!」

 魔法かな?拡声器のように声が大きくなって聞こえてきた。

「入学おめでとうございます!私は学長であります」

 ああ、学長先生だったのか。

 学長先生の言葉に、やたらと反抗的な集団がいるんだけど…貴族であるのだから、特別室を案内しろ!とか、いや、それが嫌なら来るなよ。うん、ちょっとイライラするぞ?

「我慢できなきゃ、素敵な若様にはなれないのにねー?」
 ケルンは立派な若様になれるからな。我慢できて偉いぞー!もうちょっと頑張ろうな?
「えへへー。お兄ちゃんにほめられちゃった」

 みんな暑いし、ケルンにいたっては、こんなに人がいるとこなんて初めてだから、確実に夜には熱が出るだろう。それを見越して母様がザクス先生から解熱剤を調合してもらって、ミルディが持っている。
 今でも少し気分が悪くても我慢できているんだ。

 だというのに、文句をいって時間がのびて、ケルンの体調が悪化したらどうしてくれんだ?

「おい、静かにしろ!」
「ふん!獣人風情が!近づくな!」

 今、獣人が近づくなって、誰がいった?ん?今宵の魔法は、派手になるぞ?
「酷いこという人はめっ!…あれ?今は夜じゃないよ?」
 絶賛、朝だけどな、古式正しい作法だ。
「ふーん」

 壇上でおばあさんが、机を思いっきりたたく音が響き、ようやく静かになった。
 びっくりした。

「今、なにか聞こえたような気がしますが、学内で、貴族だから贔屓されると、まだ勘違いしている者もいるようです。が、残念ながら貴方達は一生徒です!どのような身分であろうと、この学園では意味をなしません!肝に銘じておくように!」

 まぁ、平等な学園だからな。魔力が一定に高ければってのがつくけど。

「これより、入学の儀を執り行う。なお、この儀は、いかなる魔法も不可侵とする」

 そういって、壇上にあがっていた、何人かが…お!杖だ!杖をかざした。
 そこらかしこで、悲鳴があがって、退室させられてる人が何人か…って、護衛の人達も入っていたのか。確か禁止だったはずなんだけど?

「それでは、只今より配布する。詠唱は、精霊よ、導きを!です。では、順次開始!」

 壇上の全員が杖を振ると板が何枚も空中に出現した。

「飛んできたよ!すごぉい!」
 だから、なんで飛ばすのが好きなんだよ…いや、いいけどさ。

 ふわりと、飛んできた板がケルンの手の上に乗った。

 ふむ。この板…なるほどな。魔法が使えないといけないというのは、こういうことがあるからか。
 詠唱のみの魔法は、魔力の質が良いほど、魔力の高まりが見えてくる。らしい。
 いまいち、わからないが、まぁ、高いからな…ケルンの魔力は那由多だならなぁ…て、手を抜いてやろう!絶対に弾ける。

 魔法を使う感じか、対象にかけるのか少し迷った。
 とりあえず、板に魔力を流すようなイメージで…よし。

いいぞ、ケルン。
「わかったー!精霊様、導いてください!」

 木の板が緑色に輝くと、目で追えない速度で板に文字が刻まれていく。
 刻まれては、消えていき、そして、真ん中に一文字「0」の文字が出た。

「0組?ってこと?何組まであるんだろ…」
さぁ?何人が教室にいるかもわからないからなぁ。

 数字だけだからな。生徒の数も公表しないから、わからないけど、とりあえず、0クラスだな!最初の数字ってことで、わかりやすくていいしな!

「係りの者に板を渡した後に、組の記章されたピンを渡します。書面を別途渡します。書面にあるように、胸ポケットか、襟元につけておくこと。以上!」

 ローブで顔が待ったく見えない係りの人に板を渡すと、紙とバッジをくれた。何もないとこから、出てきたし、あの…係りの人…足がない…ひぇ!

「お、お化け?」
 やっぱり、幽霊だ!この世界、幽霊いるよー!こわっ!
「お、お兄ちゃん!僕もお化けや!」
 よ、よし、出口はあっちだ!は、早く!0クラスに行こう!
「う、うん!行こ!」

 流れに身を任せてるどころか、軽く押していく。

「あ、外!」
おっしゃ!ミ、ミルデイ!どこ!うわっ!
「あっ!」

 思わず転びかけたケルンを支えたのは、スッと現れたミルディだった。
 カルドからその技を教わったのか?瞬間移動みたいだったぞ?

「ありがとう!ミルディ!」
「坊っちゃま。こちらです!記章は…0組に決まったのですね?教室はこの紙に書いてあります。参りましょう」
「うん!行こう!あ、ミケ君とメリアちゃんはどこだろう?」
「私が来た時には人が出始めていたので、ここで待たず教室に向かわれたのではないでしょうか?」
「そうかも」

 確かにずっと人が出てくるからここでは待てないもんな。

 というか、ミルディ。流石、元蛇だな。ケルンの手を握ってするすると人波の隙間を縫うように進んでいる。
 あ、ちらほらと執事が主を探していたり、メイドさんが探していたり…やはり、子供の執事は、もしかしたら、ミルデイだけかもしれない。

「坊っちゃま?」
「何でもないよ!流されないように、もっと強く手を握ってー」
「はい、坊っちゃま」

 ごめんな…友達になれそうな人がいない環境かも。いや、生徒と仲良くすればいいかな!問題ないな!
 とにかく、えっと、0クラスは…西棟の三階か。迷わないといいな。

「ミルディがいるから安心だねぇ」
「もったいないお言葉です」
「んー、あれは、なにかなぁ?」
「坊ちゃま、そっちではないですよ!」

 ケルンの好奇心の強さに頑張って勝ってくれ。
 あ、あの建物なんだ?

「気になるね!お兄ちゃん!」
もうちょっと近くでみたいなぁ。
「エフデ様!坊ちゃまを、ちゃんと止めてください!」

 あ、はい。
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