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第三章 運命の出会いとケモナー

賑やかな街

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 新年があけて半月。モフーナでは半月樹はんつきと表している。もう新年の残り香が少しあるかないか程度までになっているというのに、街は賑やかさがまだある。今年は例年にないほどの賑わいだ。

 理由は、俺にある。
 正確にはエフデの新作をわざわざみに、王都からの帰りに立ち寄っている人が多くいるというのが原因だ。

 今回、描いた絵はポルティの教会に奉納した。かなりケルンも頑張って描いた作品だ。構図は俺が指定したが、俺がいうまえにケルンが気に入らなくて、何度も描き直したのだ。

 題名は『もふもふに囲まれる棒神様ぼうじんさま』という一枚の絵画だった。
 教会に奉納したら名前が『慈愛あふれる我らが主神』っていう味気のない題名になっていて、不服ではあるんだがな。

 絵画の内容は題名のとおりだ。図鑑に載っていたもふもふした子犬や子猫、小虎に子兎…もふもふしてそうな動物の赤ちゃんを片っ端に描いてそれにに囲まれてる棒神様を描いた。キャンパスは八十号だ。
 なかなかもふもふが上手く描けなくて納得するまで描いた。

 棒神様は、まぁ、棒人間に凛々しさを出すために、やたらと陰影にこだわったら、劇画みたいになった。
 まるで世紀末に一片の悔いなしって感じで天にむけて腕をあげているようだったが、まぁ、こんなもんだろう。

 不思議なことになんでか、棒神様を描くと喜ばれるんだよな。みんな描かないらしいが、簡単だから逆に難しいのかもな。

 とにかく、そんなわけで、観光客が増えている。他にもエフデの作品をいくつか飾っている場所があるからそこも観光地になっているようだ。
 今まであまり見なかったドワーフが団体で、護衛付きでみにきていたりする。
 それに合わせて珍しいものもたくさんポルティに来ているのだ。

「すごい!火を吹いた!熱くないのかな?」
 火吹き芸か。熱いかもな。真似すんなよ。
「真似しないもん!あ、あっちで音楽がする!」
「坊ちゃま!走ってはいけません。私の手をちゃんと握ってください」
「はーい。ミルデイも迷子にならないようにしようねー!」
 いや、ケルン。お前が一番怪しいからな。手を離すなよ。迷子になったらしばらく外で遊べないぞ。

 あと、ミルデイ。そんな風に恥ずかしそうにするんじゃない。ただでさえ髪ものびてきて、ただの美少女と間違えられて、また変な人に声をかけられるかもしれないじゃないか。もう蹴っちゃダメなんだぞ?

 音楽が鳴っているところにミルデイと手を繋いでむかうと、そこでは楽器が空中に浮かんで独りでに軽快な音楽を奏でていた。
 ヴァイオリン、木琴、鉄琴、フルート、トランペット、ピアノまである。

「凄いね!これって魔法かな?」
 んー。ちょっと、待てよ…似たようなのはあるが、魔法より、どちらかというと魔道具かもな。
「魔道具?」
「坊ちゃま、あそこの看板をみてください」

 ミルデイが指した看板には『自動音楽生成器、注文承ります』と書かれていた。

「どうやら魔道具らしいですね…どのような仕掛けなんでしょうね」
「おー!魔道具!これはお兄ちゃんが欲しがるから買おうかなぁ」
 いや、ちょっと、気になるし、分解してみたいけど、ケルンが欲しがってるんだろ!
「えへへー…いくらかな?」
「坊ちゃま…金貨三十枚からとあそこに」

 ミルデイが指した看板の下に小さく『金貨三十枚からです。貧乏人は諦めておひねりを払うです』と別人の字で書かれていた。

 金貨三十枚…買えなくはないんだけど、セットじゃないとあんな派手なのは聴けないよな。

「購入は可能だと思いますが…」
「そうだね…一つだけ買う?」
 そうだなぁ…分解ありきで買うならヴァイオリンがいいな。他の楽器よりはわかりやすいだろうし。

 木と金属の二種類の楽器を使って同じようにしている。ということは、木でできたヴァイオリンを調べた方がわかりやすいだろう。金属だったら、溶かすときに細工をしているかもしれないが、木製のヴァイオリンならピアノと違って分解しても隅々まで短時間で調べれる。

「では、少し」
「あのぉ」

 ミルデイが店の店員と話そうとケルンと一緒に向かおうかとすると、ふいに声をかけられた。
 さっきまで確かに誰もいなかったケルンの隣でだ。

「わっ!」
 うぉ!なんだ!誰だ!幽霊か!塩持ってこい! 

 幽霊かと思ってよくみれば、ちゃんと足がある生きた人間だった。
 本当に突然現れた人は若い男の人だ。ティルカぐらいかな?いや、ティルカの実年齢だと三十代なんだけど、見た目の方だ。モフーナでは見た目と年齢は合わない人が多いからな。
 うちの母様とかな。
 たぶん、この男の人はティルカと同じくらいの年齢なんだろうな。

「どちら様ですか?」

 ミルデイがすぐにケルンの腕をひき、背中に庇う。確かに急に現れて怪しいが、まだ不審者と決まったわけではないが…まぁ、怪しくないこともないか。

「あ、ごめんねー。申し訳ないんだけど」

 男性はへらへらと困った顔で…あれ?この人…よく整っているが、金髪に緑色の目か…珍しくはないんだけど、どっかで見たような顔立ちだ。しかも、ごく最近。

「ここ、どこだか教えてくれないかなぁ?」
「迷子なの?」
「そうかもぉ…どうしよう…」

 そう笑いながらポロポロと泣き出した。
 なんで、泣いてんの!
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