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第一章 棒人間の神様とケモナー

戦争のこと

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「お前が覚悟を決めるぐらいだ、何があったか説明してもらうぞ」

 父様はヴェルムおじさんを
 
「そんなことしなくても、話すから無駄に魔力を使うんじゃねぇよ…北の国々がきな臭い。それに、俺の国でも、意見が割れていてな。今の王には、自信が足りてねぇ。そろそろ退位も視野にいれていたが…状況が状況だ。スメイン大陸の中で、ドワーフの王国は、俺の国だけ。そのうえ全てのドワーフの故郷だ。精神的な支えであり、俺たちの頂点である王の交代は、今の状況だと悪手だ」

 ドワーフの王国…そういや、勉強したな。スメイン大陸と、チューネシュ大陸に、ドワーフが多く住む国がある。特に、スメイン大陸のリンメギン国は、山岳と平野がある広大な国土があり、輸出だけで財が増える。富が常に溢れる大国。と、いわれている。

 金や銀の鉱石の輸出もだが、加工品だけでも充分な代物になる。
 木工品が、金や銀の細工よりも高価になるというほど、彼らの作ったものは、高値がつけられる。

 実際にあった武術大会を昔話で読んだことがある。ある腕に自信のある若者が、旅先で助けたドワーフから譲られた木刀で、大会を優勝して見せた。ドワーフが作った木刀が、鋼の剣を叩きおったというのだから、彼らの技術力や、スキルの熟練度の高さはわかるだろう。
 さらに、彼らの技術力がなければ、ミスリル加工ができない。全ての貨幣制度のある国の内、八割の貨幣を鋳造していることからも、影響力がどれほどあるかわかるだろう。

「大陸に散らばるドワーフ達が、時折、さらわれる事件が起きているのを知っているか?」

 父様は、険しい表情をしながら、重く頷いた。
 ドワーフを誘拐するなんて、どうなってるんだ!まったく、どこの。

「ケルン、お父様たちは、大事な話のようだから、一緒に違う部屋に行きましょうか?」

 え?母様!結構、大事な情報が聞けると思うんだけど、聞かせてくれないのかな?聞きたいんだけど。

「いたら、ダメかな?…ダメ?」
 そうだ、頼んでくれ!

 食らえ!ケルンの上目使いアタック!

「ヴェルム、いいか?」
「構わん。子供には難しいだろう。それに、機密でもなんでもない。奥方、俺達は気にしないが、奥方がよろしくないと思ったら、連れて行ってやってくれ」
「わかりました。ケルン。いい子にしてね?眠くなったら、寝なさい」

 父様に効果的だったけど、母様からの背中ぽんぽんとな!ケルンに効果が抜群すぎる。
 ヴェルムおじさんは、どっちの意味なのかわからないため息をついて、淡々と話出した。

「国の威信、いや、種族の威信を見せつけなければならない。そういって、戦を起こそうと扇動している奴らがいやがる」

 確かに、屈強くっきょうなはずのドワーフが、誘拐されるなんて、種族として、問題になるかもな。
 ドワーフはその見た目どおり腕っぷしには自信がある。なにせ、鍛冶職にや、鉱山掘りなど力仕事が主な産業であ。彼らの稼業かぎょうであり、家業かぎょうであるのだから、簡単に誘拐できるような肉体を持っていないはずだ。
 弱いと思われたのなら、技術力を目当てに戦争を仕掛けられる可能性もあるってことか。

「お前には、先の大戦での借りがある。もちろん、奥方。あんたにもだ。返しきれねぇ…でけぇ、借りがな。俺の首で止めれるなら、止めてやる」

 大戦の話を聞いたときに、場の空気が張りつめた。母様が、ケルンを強く抱き締める。大戦のことは、勉強しなくていいとかいわれて、よく知らないから、わからない。学園に行ったら、学べるかな?
 キャスに聞こうとしたら、つらそうにした。だから、我が家では、タブーなんだろう。
 ヴェルムおじさんは、拳から音が出るほど、強く握りしめた。

「ただな…国家主席鍛冶長になっている俺の言葉すら、王を止めることはできなかった…すまねぇ!」
「ヴェルム、王を止めれる人間はいないのか?王太子や、宰相は?」

 父様が、止めれる可能性が高いとして出した二人は、何でも、実際に王国をまわしている二人らしい。王様が引退しようとしているのは、勉強でちらっときくほど、おそらくどの国でも浸透している。

「無駄だ。どちらの意見を採用したとしても、国民の意識を変えることはできないと王は考えている。今の王ですら国民の旗印として弱すぎるといわれているぐらいだ。いくら、王族が、種族としてスキルが秀でていても、今の王も、王太子も…鍛冶では俺と同格。差がなさすぎる。それでは、今の国民が納得できるか、わからん。だが…我らドワーフの偉大なる王…イムルの再来なら、王を…国民を止められたかもしれないがな」

 イムル?印刷所の所長さんが、画聖イムルの再来とかいってた、あのイムルのことか?
 考えていると、ヴェルムおじさんが、興奮して、目を輝かせた。

「ルワントのとこで、直筆のを見たが、あれほど見事な絵を描けるんだ。画聖イムルの再来としてなら、俺らも認める。だが、絵だけでは、足りん」

 最初は、興奮して、声が大きかったが、次第に小さくなっていった。

「イムルというのは、ドワーフにとって重要な存在なのか?」
「重要どころじゃねぇ。下手すりゃボージィン様と同じくらい国民は知っている…まぁ、ドワーフか生産関係の一部、美術品を収集している人間しか知らねぇだろうがな。

 肩を落とすヴェルムおじさんに、父様はイムルについて問う。父様もイムルについてはよく知らないようだ。確かに、美術品関係は我が家をみても収集する趣味はないように思う。昔に全部売り払ったとかで、家に飾ってあるものは全部、ケルンが描いたり、粘土をこねて焼いてもらってきた壺だったりだ。
 貧乏貴族って誰だって思うだろう。

 我が家の財政を考えてしまったが、ヴェルムおじさんの言葉を聞いて、思考をがらりと変えることになる。

「なにせ、かの方は自分の歴史を全て消して、表から消えるような…偉大な王だった」

 イムルはドワーフの王様。初耳だった。

「イムルは、絵画、鍛冶を修め、物作りの頂点に君臨していた。俺らドワーフは、物作りにおいて、最も秀でたものが、王位につく。血統でのスキル継承があるから、今の王朝でも、文句はでねぇ。ただな、彼の王はまさに、聖王にふさわしいほどの慈愛と、今のリンメギン国中の誰と比べても、天と地ほどの力量を持っていた」

 遠くを見つめるように、手が届かないものに、手を伸ばすような、そんな表情を浮かべて、ため息をついた。

「エフデとかいう、そいつなら、おそらく…何十年か、俺の下で、鍛冶の修行をすれば…イムルの奇跡を起こせたかもしれない。そうすれば、国民はイムルの心を思い出すはずだ」

 そんな凄い人とく比べられているのかエフデって。
 ん?みんな微妙な顔をしてケルンをみている。
 あ、俺のことであってたな。ちょっと、気になったから、聞いてみよう。

「イムルの奇跡って、何ですか?」
「スキルや魔法で、物を動かすことができるだろ?だが、永遠ではない。スキルだと、操作するだけになる。魔力が込められても、一日持つかどうかだ。それに、魔石を使って、半永久に動けるようにしてもだ。決められた行動しかできない」

 前に父様が、作ってくれた空飛ぶ船が、後者だな。まっすぐにしか進まないけど、宝箱に入っているが、よく遊んでいる。

「だが、イムルの彫像は、半永久的に、自由に動き回る」

 ああ…最近、うちにも自由気ままな天馬ならいるな。
 今日も、さっきから、ちらちら、窓越しに姿見えてるけど、蹄だから、窓は開けれないぞ。空中散歩をしたいのか、ランディにでも頼んで鞍をつけてもらっている。寒いから明日だぞ?

 全員の視線がちらちらと窓に目がいくのだが、ヴェルムおじさんはまるで自慢の宝物を語るようにとろけた表情で話し出した。

「リンメギン国に、一体だけ残された至宝『ハープのセリエリア』は、自ら好きな曲を、好きな時に演奏する。作られて、すでに五百年以上も経つが、一度も止まったことはない。さらに、会話も可能だ」

 意思があるのか。何だかペガ雄と同じなんだな。話せるのは、凄いな。

「無機物に命を与えうるんだよ…物作りの頂点にして…イムル以外誰も得たことがない…『造物』のスキルにはな」

 あれ?造物スキルって、そんな効果があるのか?
 父様と母様が見つめあって、頷いてから父様が口を開いた。

「ヴェルム…ここだけの話にしてほしいことがある」

 父様が、話を切り出すと、ヴェルムおじさんは、何だ?といって、父様を見るが、父様は、窓を指差す。ちょうど、おじさんの後ろの窓にいるんだよな。

「んだ?馬…いや、ありゃあ…何だ…ま、窓に…石像!」

 右足をあげて、そうだな。やぁ!ってしているペガサスが、窓から挨拶をしてくる。動く石像だもん。驚くよな、そりゃあ。

「ヴェルム。エフデはケルンだ」
「はぁ?」
「僕、造物スキル持ってるよ!」
「はぁぁぁぁぁ!いってぇ、どういうことだ!?俺は、エフデは若い男としか聞いていないぞ!」

 固まってる時に追い打ちをかけてしまったが、スキルのことは、内緒にしとくべきだったかもな。
 母様が「ケルン、めっ」っていっているぐらいだ。

「エフデは、ケルンの才能の為に作った人物だから。それに、嘘はついてないだろ?」

 ふふん!としている父様をみて、まさかそこまで、考えていたのかと、尊敬の眼差しをむけた。

「あのとりあえずぶっ放しときゃいい主義のお前が…いや、おい、ティス…カルドの…いや、ルワントか?どっちか、それとも、どっちもの入れ知恵だろ、それ。」
「正解です、ヴェルム様」

 カルドの言葉に目をそらす父様。

 と、父様…?魔法使いって、頭脳派じゃないの?
 とにかく、大事な話をしないとな。

「ねぇねぇ!ヴェルムおじさんー」
「んぁ!何でぇ、ケルン?」
「自由に動く石像があればいいんだよね?これで、王様を止めれる?」

 正確には、スキル持っているケルンがいるんだけど、流石にリンメギンまでは、行けないからな。
「とおいよねー?」
 日帰りでは無理だな。

「ああ!そうだな!」

 おじさんが、立ち上がって肩を掴んだ。と、思ったら母様の腕の中から、ヴェルムおじさんのわきにいつのまにか、すっぽりだ。
 え、お持ち帰りは勘弁してくれ。
 あと、カルド。フォークを振りかぶろうとしないで。エセニアはそのナイフをしまって。それはケーキを切るナイフだぞ。

 あと、母様がすげぇ怖い。

「ケルンは、連れて行かせないからな!」

 母様が動く前に父様がケルンを奪い返して、そのまま元いた母様の腕の中に戻った。今、幻覚でなかっあら、屋敷がなくなるような嵐がきそうだったような気がしてならない。

 舌打ちしても、残念ながら、明日は勉強なんだよ。キャスが怒ると…花丸が減るんだ…楽しみにしていた本が…遠退く…それだけは!爬虫類図鑑が!

 仕方ない。

「ペガ雄ー。ヴェルムおじさんの国に行ってみる?」

 窓にいるこくりとペガ雄が、頷いた。可愛い奴だな。ニンジンをあげたくなるが、石像は食べないからな。

「ヴェルム。馬を貸すから、今すぐ、その王様を止めてこい」

 父様がそういうと、カルドは、フォークをおいて、窓を開けた。

「ペガ雄ーヴェルムおじさんを乗せてあげてーおじさんのいうことをきくんだよ?」
「ヒヒーン!」

 ペガ雄に頼むこと快く応じてくれた。これで、イムルの奇跡っていうのを思い出してくれるといいな。


「すまん!また借りをしちまう!すぐに戻る!それまで、しばらく、この馬を借りるぜ!」

 いうなり、体からは想像できないスピード、窓から外へ出るなり、ペガ雄に飛び乗って、何やら指示をだして、飛び立っていった。

 んー…戦争が止められたらいいけど…それとは別に、嫌な予感がするな…うん。

 あと、カルドを睨み付けるフィオナが、怖い。あれはカルドが悪いといいたげな顔だ。
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