上 下
4 / 7

僕と姉さん(ルイ視点)

しおりを挟む

僕は船木ルイ。今年の四月から大学生になる十八歳だ。
突然だけど、家族の自慢をしてもいいかな?まあ、止められてもするつもりだったから、聞く意味はないんだけどね。
僕には優しい姉がいる。名前は船木アスカ。今は社会人で、さくさく働いてるみたいだね。キャリアも順調に積み上げてるみたい。
え?何歳かって?それを教えたら、僕が姉さんに怒られちゃうよ。残念だけど教えられないな。
姉さんはいつも僕のことを見守ってくれてどんな些細な変化にも気がついてくれる。例えば、ちょっと元気がなくなったら栄養のある食事を作ってくれたり、話を聞いてくれたり。反対に嬉しそうな様子だったら僕が話す前に話を振ってくれたりする。どうして気づくの?って聞いても優しく微笑んで「いつもと違うからよ。」とか言うけど、僕には同じことは出来ないな。というか、僕が気づく前に姉さんは自分のことを全部解決しちゃうんだよ。
僕は姉さんにたくさん助けられてきたけど、姉さんの役に立って恩返ししたいと思うし、自立したいとも思っている。
・・・・・・・・・前にそのことを告げたら、この世の終わりのような顔をして涙を零しながら黙って見つめられたけど。
もちろん、慌てて撤回したよ?姉さんを泣かせる訳にはいかないからね。
その時に姉さんが言った一言。それは僕の心を過去で一番揺さぶった。
自分のお弁当とか、洗濯物とか、そういうものを全て姉さんに回していた自分に危機感を感じて、少しでも力になれたらと言い出したんだっけ。

「私がルイの世話をするのわね、私が世話をしたいからなの。なにも、ルイに自分の価値観を押し付けるつもりはないし、嫌なら止めるわ。私は結局すごく世話焼きでおせっかいでどうしようもないおばさんなのよ。ルイもそろそろ成人でしょう?そしたら自ずと私の手を離れていくのだろうし、社会人になれば会える時間はもっと少なくなるわ。だから、せめて成人まで、ご飯作ったりしたらダメ?」

あの言葉には参ったよ。
まあ、正直言って助かったんだ。あの時自立すると言ったのは高校二年生の頃だったかな・・・?自分で自分のお弁当が作れる自信はなかったし、そんなに早起き出来るとも思わなかった。更に言えば、これから受験勉強が一番過酷になる時期で、誰かのサポートがないとなんにも出来なくなって、大学受験は失敗していたかもね。
そう考えると、僕はなんてこと言ったんだろう。
実はストレスが溜まってたのかな・・・?今考えたら、自分であんなこと言うのは自殺行為なのにね。
まあ、その時から、僕は姉さんに思う存分甘えた。学校や塾のどんなことでも毎晩話した。姉さんはすごい聞き上手なうえに僕の話を聞きたがったから。
だってさ、話の最初の「あのね」だけでパッと振り向いて目をキラキラさせるんだよ?そしたら話す側も楽しくなるよねえ。
まっ、あの毎晩のお話タイムは楽しいだけじゃなくて気持ちの整理も出来てたから、今でも助かってるよ。
もちろん続けてるよ?今は一人暮らししてるから、電話でね。
そして僕は無事に第一志望の大学に合格した。姉さんの支えがあってこそだから、合格発表を見て一番最初に電話したよ。
コールを開始して、一秒後。

「もしもし!?ルイ!?」

怖いよ姉さん・・・。
しかもワンコールもかけないで電話取るってどういうこと・・・?携帯と睨めっこしてたとしか思えないんだけど。
けど、合格って伝えた瞬間の方が怖かった。いやー、あれはもう電話の向こうで何が起こっていたのか・・・。

「ご、合格!?(ガタタン!)いったた・・・。じゃなくて、第一志望合格!?(誰かの怒鳴り声)え、うるさい!?そんなこと知りません!ごめんなさい、話が逸れたわ。良かったわね~。お姉ちゃん心臓が爆発しそうだったわ。もう夢の中にいるみたいよ。え?なになに、知ってるのは私が最初!?きゃ!嬉しすぎる!あ、そうだ。お祝い何がいい?料理?なんか物?どんなに高級なものでもいいわよ!お姉ちゃん奮発しちゃう!言ってみなさい!」

この長い言葉をね、ワンブレスで言ったんだよ・・・。肺活量恐るべし。
しかもさ、絶対に社内でしょ?うるさいとか文句言われてるのに、言い返しちゃダメでしょう・・・。
そして、ほぼ無理矢理行くことになった買い物。まあ予定は空いてたし、出かけるのは嫌じゃないから。でも欲しいものはバイトで買えるからイイって言ったのに・・・。それを言ったら、なんか「嬉しくて死んじゃう」とか言ってたけどさ・・・。そんなことで死なないでよね。

けれど僕は、幸せな日々が一瞬で壊れてしまうことを知ったんだ。

その日は、楽しみにしていた姉さんとの買い物の日だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

指令を受けた末っ子は望外の活躍をしてしまう?

秋野 木星
ファンタジー
隣国の貴族学院へ使命を帯びて留学することになったトティ。入国しようとした船上で拾い物をする。それがトティの人生を大きく変えていく。 ※「飯屋の娘は魔法を使いたくない?」のよもやま話のリクエストをよくいただくので、主人公や年代を変えスピンオフの話を書くことにしました。 ※ この作品は、小説家になろうからの転記掲載です。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...