上 下
1 / 7

あれ?

しおりを挟む

今日の私はとっても機嫌が良かった。朝早く起きて、控えめだけどしっかりメイクして、似合わないのに鼻歌なんて歌っちゃって。とにかく、普段の私から比べると不気味なぐらいルンルンだったのだ。
なんでかって?
それは、今日、私の愛しい弟とデートの日だからである!
私が幼い頃から面倒を見ていた弟のルイ。くりくりと愛らしい瞳で私を見上げながらコロコロと後をついてまわり、常に私を癒してきた。スポーツは真ん中らへんだけど、勉強は超一流で、ついこの間、有名大学に合格したばかりだ。電話口で合格を伝えられた時の私のどんなに喜んだことか。家中ウサギみたいに跳ね回って喜んだ。
今日はお祝いでなんでも買っていいとルイには言ってある。なんて言ったって、昨日が給料日だったんだから!
それでもルイは、「僕のためにそんなにして大丈夫?好きなものならバイトでお金貯めて買えるし、姉さんの好きな物を買いなよ。」
なんて健気なことを言ってくれたの!もう嬉しさで気絶するかと思ったわ。優しい子よね、本当に・・・。
あら、こんな話をしてたら時間に遅れちゃう。髪をセットして、鏡の前でニコッと笑ってみる。
・・・・・・うん、なんとか見せられる顔にはなったかしら。
弾むような足取りで家を出る。ああ、楽しみ。待ち合わせ場所にどこでもドアで行きたいわ・・・。
それから電車に乗って、待ち合わせ場所である都心のデパートに行く。そこで見つけたルイに手を振って、駆け寄って、話しかけようとしたところで・・・。
ルイの後ろが白く光った。それがトラックの前のライトの光であることに気がついたのは、少し遅れてからだった。
運転手が気を失っているのかなんなのか分からないが、トラックはブレーキをかける気配がない。それどころか更にアクセルを踏み込んで迫ってくる。
ルイを、守らなきゃ。あの笑顔を、守らなきゃいけないわ。
その時頭に浮かんだのはそれだけで。
気がついた時には、ルイを引っ張って引き倒して自分の後ろに庇っていた。それと同時に私の体がトラックの前に躍り出る。
体に衝撃と共に痛みが走る。
痛い!痛いわ!
それは今まで感じたことの無い痛みで、のたうち回るほど。
だけど。
この痛みをルイが感じることにならなくて、本当に良かった。

「姉さん!」

ルイが叫んでいる。その必死の叫びがスイッチになったように脳内を走馬灯が駆け巡る。
わあ、本当に流れるのね。まあでも、我ながらルイのことばっかりで怖いわ。友達も多少はいたのに全く出てこないもの。いっそのことアッパレね。
・・・・・・ストーカーとか思われて、ルイに避けられたらどうしよう。
そんな馬鹿なことを考えていたら、死の恐怖が少しだけ薄まった。
霞む意識で、ルイを守るために最後の力で彼を突き飛ばした。間違っても、トラックのタイヤなんかに巻き込まれないように。
そこから先は、意識が真っ暗闇に落ちていった。







「・・・・・・・・・は?」

なになに、何が起こったの。
私、何してたんだっけ・・・?そういえばルイと一緒にいたような・・・。
しかもなんなのよ、この真っ暗闇の不気味な空間は。趣味悪いわねぇ。

「あ~~!」

「うわぁぁぁぁ!」

事の顛末を思い出し大声を上げた私を非難するように更に大きな声が上がる。いや、私の方がその声にびっくりしたわ。

「なに!?」

「うわぁぁぁぁ!」

だからなんなのよ!叫んでないで質問に答えなさい!

「もう、なんなのよ!とりあえず静かにしなさい!」

間髪入れず返事が帰ってくる。

「ひう!ごめんなさい!」

「・・・・・・あら?」

私が何かする度に声を上げるそれを叱りつけるように声を荒らげる。すると意外にも、返ってきた声は幼いものだった。
なんだか今、懐かしい声を聞いた気がするわ。

「ひっどい!それは無いってば!ちょっとびっくりして大声上げただけじゃないか~、もう!」

あれ?声が上から聞こえる。変だなあ、可笑しいなあ。ギシギシと鳴る首を無理矢理動かして上を見る。
そこにいたのは・・・。
空中にちょこんと座った、可愛い子供だった。ルイにめちゃめちゃ物凄く宇宙一似てる可愛らしい子供。
ああ、なんて可愛いの?そうね、六歳か七歳頃のルイに似てるわ。目元なんてもうコピーそのものじゃないの!頬の丸まり具合も最高だわ。あ、でも唇の形はルイの方がキレイだったわね。あともう少し髪は長かったわね・・・。

「あの~、そろそろいい?説明したいんだけど。」

んまあ!なんて生意気なの!そんなの、ルイに姿を似せるなんて死刑よ!

「いや、別にルイ君に似せたんじゃなくてルイ君が似せたんだよ・・・。あーもう!あなた今の自分の状態分かってる?」

なによこの質疑応答。ていうか私の心を読んだの?悪い子ね。私は自分の状態ぐらい分かるわよ。一応は大人だもの。
・・・・・・え?何歳かって?引っぱたくわよ。

「もちろん。私は死んだのよね。」

えっへん、と胸を張って答えた。

「そうそう、よく分かってんじゃん。ってことで、船木アスカさん、あなたは異世界に転生してもらいます♪」

なんですって?
いとも簡単にルイ(仮)が告げた内容は衝撃的すぎて、私を氷漬けにした。
ルイ、あなた、いつからそんな冗談を言う子になっちゃったの?

「冗談なんかじゃない!」

ルイ(仮)が顔を真っ赤にして叫んだ言葉は、私の耳を素通りしていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

モブです。静止画の隅っこの1人なので傍観でいいよね?

紫楼
ファンタジー
 5歳の時、自分が乙女ゲームの世界に転生してることに気がついた。  やり込んだゲームじゃ無いっぽいから最初は焦った。  悪役令嬢とかヒロインなんてめんどくさいから嫌〜!  でも名前が記憶にないキャラだからきっとお取り巻きとかちょい役なはず。  成長して学園に通うようになってヒロインと悪役令嬢と王子様たち逆ハーレム要員を発見!  絶対お近づきになりたくない。  気がついたんだけど、私名前すら出てなかった背景に描かれていたモブ中のモブじゃん。  普通に何もしなければモブ人生満喫出来そう〜。  ブラコンとシスコンの二人の物語。  偏った価値観の世界です。  戦闘シーン、流血描写、死の場面も出ます。  主筋は冒険者のお話では無いので戦闘シーンはあっさり、流し気味です。  ふんわり設定、見切り発車です。  カクヨム様にも掲載しています。 24話まで少し改稿、誤字修正しました。 大筋は変わってませんので読み返されなくとも大丈夫なはず。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

処理中です...