はじまりと終わりの間婚

便葉

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まひるの誕生日

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八月八日、昔の人は末広がりのいい数字ねと褒めてくれる私の誕生日。
夏休みの、真夏のど真ん中に私は生まれた。

そして、ミチャと私の期限付きの結婚生活。
せっかくだから全てのイベントを堪能しようと二人で決めた。
二週間前のある日、ミチャがこんな提案をしてきた。

「二人の誕生日には、できるだけ旅行をしよう。
今まで、二人がやった事がない事を、チャレンジするってどう?
この結婚を無意味なものにはしたくないんだ。
いい思い出をたくさん作りたい!」

ミチャの熱い思いはよく分かった。
でも、二人がやった事がない事って、そんな事ってあるのかな?

その日のミチャは、夕食のデザートに、私の大好きな杏仁豆腐を買って来てくれていた。
私はミチャの提案を考えるふりをして、その杏仁豆腐を大きな口で頬張る。

「じゃ、まひるの誕生日は真夏だから、夏に二人がした事がない事、それかやってみたい事を、お互い言っていこう」

さほど時間はかからなかった。
何だか、私達ってよく似ている。

「僕は海で泳いだ事がない。
夏休みはほぼ家に閉じこもって、ロボット作りに取り組んでたから。
海には行った事はあるけど、車で眺める程度かな」

「実は、私もそう。
夏休みはほとんど絵ばっかり描いてた。
海とかそんなアクティビティなものには興味がなくて、外の絵は好んで森の絵や山の絵ばかり」

ミチャはもう決まったみたいな顔をしている。

「まひるって、泳げる?」

そう聞くミチャは、私のイメージで決めつければ絶対に泳げないはず。

「私は、泳げない。
というか、小学校の体育の授業以来、泳いだ事なんてない」

私に答えさせておいて、ミチャは自分の事は何も言わない。

「ミチャは? 
もしかして、泳げる?」

「もしかしてって、失礼だな」

ミチャは何だか嬉しそう。
ミチャの性格は分かり易い。
見た目はクールな男を装っているけれど、中身はお子ちゃまで素直なところが本当に可愛らしい。

「じゃ、泳げるんだ」

こういう風にお互いの事を知り合うのも、急な結婚の特権だった。
ゼロから始まった二人だからこそ、何もかもが初めてで笑っちゃうほど刺激的。
そして、ミチャは、早く私に自慢したくてたまらないらしい。
ちょっと伸びた前髪を何度もいじって、その告白のタイミングを見計らっている。

「僕は、子供の頃、スイミングスクールに通っていた。
だから、基本はちゃんと覚えてる」

「いつ頃まで続けてたの?」

ミチャは天井を仰いで、目を閉じた。

「たぶん、小学校に上がる頃には辞めてたかな…
昔の事過ぎて、記憶があいまいなんだ」

それは自慢できることなのかしら…
私こそ天井を仰ぎたくなった。

「でも、小学校の時の体育の授業は、普通に泳げてたと思う。
それ以降は、僕もまひると一緒で泳いだ事はないけどね」

私は肩をすくめて笑った。
ミチャは、泳げない方がミチャらしい。
それに、今のミチャは絶対に泳げない。

という事で、私の誕生日は二泊三日で沖縄へ行く事になった。
海で泳ぐ事を目標に掲げ、私とミチャは気分を上げている。

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