はじまりと終わりの間婚

便葉

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七夕の日

…4

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ミチャの作ってくれた料理を前にして、皆で盛大に乾杯をした。
何に?
彦星様と織姫様の再会に!
なんて、風磨と先輩は息の合った男女コンビ芸人のように、楽しそうに笑っている。
そして、ミチャはそんな二人を目を細めながら眺め、いそいそと食事の準備に取り掛かかった。
私がミチャを見つめながらワインを飲んでいると、風磨が意地悪そうな顔をして近づいてきた。

「まひるって、ずるいよな」

正真正銘の恋敵である風磨は、臨戦態勢で私にそう話しかける。

「ずるいって、何が?」

私はさっきのミチャの言葉を鎧にして、風磨に余裕の素振りを見せる。

「ミチャに、胸が大きい事を必死にアピールしてる」

私は風磨の事は嫌いじゃない。
色黒の爽やかなスポーツマンは、私以外の人に見せる顔は完璧ないい男。
そして、ミチャからは、やんちゃな可愛らしい弟として愛されている。
でも、私に見せる顔は、完全なるガキだ。
そして、そんなガキの応戦に乗ってしまう私も救いようのないガキだった。

「残念だけど、胸が大きいのは生まれつき。
それと、アピールしてる気は全くないんだけど、男の人達はどうやら好きみたい、この胸が」

最悪な変顔をして私を見る風磨が可笑しくてたまらない。
風磨は立場が悪くなるとすぐに変顔をして、その場の雰囲気をかっさらう。

「ミチャはそんなデカい胸、好きじゃないよ。
だから、アピールするだけ、ミチャの心は離れていく」

何を根拠にそんな事を言う?

「そんな事ないと思う。
ミチャは私のこの恰好を、すごく気に入ったって言ってくれたもん」

「ミチャは優しいからね。
そんな恰好してる人に、似あってないよなんて言えないし、ミチャは絶対に言わない」

ここまでくると、風磨の変顔にも笑えない。
私が鼻息を荒くしていると、先輩がひらひらと舞うように私と風磨の間に割り込んで来た。

「風磨、男性は大きい胸が大好きなのよ。
特に、まひるの胸は、女性の私でもヤキモチ焼くくらい、すごく形がいいの。
まひるは、とてもセクシーな体と可愛らしいお顔を神様に頂いたのに、ちょっと性格で損をしてる。
あ、それは、私達にも言える事なんだけどね」

先輩の助け舟は、何の意味も成さない。
でも、意味のない助け舟が、今回は逆に都合がよかった。

「風磨、しょうもない事でミチャを困らせないでね。
ミチャは、私の夫なんだから」

性格が悪いと思われようが、私は最後には必ずこの言葉を使いたい。
だって、どういう事情があろうとも、今現在は、ミチャは私の愛する夫なんですから!

ミチャの手料理は本当に手が込んでいて、見た目もとても美しい。
飾り付けを手抜きする事は料理にとって失礼な事なんだって、真剣にそう思っているミチャは、数式を解くように料理の色合いを計算しながら愛情を込めて仕上げていく。
そんなミチャの料理の前で、私達は何枚も写真を撮った。
ミチャもすごく嬉しそう。
そうやってミチャの笑顔を引き出す事が、今の私の一番の喜びだった。

「あ、そうだ。
せっかくだから、風磨たちもコスプレやろうよ」

先輩は、この日のために、男性が好むコスプレの衣裳を何点か準備していた。
私はミチャがコスプレをするなんて考えられないから、無理強いはやめてと先輩に念を押していたのに、先輩はさりげなく無理強いをしている。

ノリがいい風磨はお酒が入っているせいもあって、もうその気になっていた。
私はミチャの隣に立ち、ミチャを見て顔を横に振る。

「ミチャは付き合わなくていいからね。
コスプレは嫌々やるもんじゃないから」

ミチャは肩をすくめて微笑んだ。
ミチャならどんなにマニアックな衣装でも似合う事は分かっている。
でも、ミチャの世界にコスプレという異色なものはなくていい。
私は、ミチャのほんわかとした価値観と隅と角がない円い世界が大好きだから。
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