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空港にて
***
しおりを挟む「舞衣、さっきから思ってたんだけど、スーツケース小さくないか?」
凪は何泊になるか分からない旅になるはずなのに、舞衣のスーツケースが小さい事がどうも気になっていた。
「そうなんです…
あまりに急過ぎて、何を持っていけばいいのか分からないまま、今日になっちゃいました」
今日になっちゃいましたって……
空港の中、凪が舞衣のスーツケースを引いている。
小さいし、軽いし、女の子の旅ってこんなもんなのか?
凪はそんな事を思いながら、時間がないため、舞衣の手とスーツケースを引いて早歩きで搭乗口まで急いだ。
そして、舞衣のスーツケースを無事にカウンターに預けると、二人は一般の人達が使う入り口とは別の最上位ステータスを保有している会員ためのラウンジへ入った。
「すごい……」
凪にとってはいつものラウンジも、舞衣にとっては初めての体験らしい。会員の中でもハイグレードメンバー用のラウンジ内を、舞衣は興奮しながら隈なく見て回っている。
「舞衣、あれは忘れてないよな」
凪は舞衣のためにジュースを持ってきて、テーブルの上に置いた。
「あれって?」
「あれだよ」
舞衣はポカンとしている。凪は嫌な予感がした。
「うさ子は、ちゃんと持ってきたか?
全色が希望だけど、でも、きっとかさばるから、せめて二着はあるよな?」
舞衣の動きがピタリと止まる。さっきまでの楽し気な表情は一気にどこかへ消えて行く。
「あ、あれは、あの、その…」
「あの、その? 何?」
「スーツケースに…
たぶん、入れてない……」
凪は静かに目を閉じた。どうして行きの車の中で確認しなかったのか悔やみながら。
「あ、でも、この間、うさ子が売ってるサイトを凪さんが見つけてくれたから、そこでまた注文しましょう。
そうしましょう、それでOK」
凪はショックのあまり、舞衣の提案さえ素直に聞けない。
「一つも持ってきてない…?」
落胆がひど過ぎて、声を出すのもやっとだった。
「はい、ごめんなさい…」
舞衣はそう言うと、凪の隣に来て凪の肩を抱いてくれた。
「うさ子は逃げませんから…
ちょっとだけ辛抱してください。
ほんのちょっとだけですよ」
凪はマジで泣きそうだった。舞衣は舞衣で、うさ子はうさ子で、でも、舞衣がうさ子で…
自分のバカさ加減にため息がでるけど、でも、うさ子の舞衣は俺の大好きなペットみたいなもんで、でも、ペットとか言ったら、舞衣が怒りそうだからそんな事は口が裂けても言わないけど、でも、それだけ愛するうさ子なんだ。
「今、注文する」
凪はスマホであのサイトを開いた。一日でも早く、うさ子に会いたい。舞衣も一緒にスマホを覗きながら、凪は全色注文した。
アメリカへの発送は一体どれくらいの日にちがかかるのだろう。お届け日が未定となっているのが辛くて、ますます落ち込んでしまう。
「凪さん、夏になったら、うさ子は冬眠しますからね。それは忘れないように」
凪はまた泣きそうになる。でも、そんなお別れの期間がある方が俺のためにはいいのかもしれない。
舞衣がいればそれでいい。
いや、うさ子だって舞衣であって、とにかく俺は、舞衣のうさ子とうさ子の舞衣が大好きなんだから。
凪はついたてに隠れて、舞衣にそっとキスをした。
「大丈夫だよ…
だって、今日からずっと舞衣がそばにいてくれるんだからさ」
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