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裸族の蝶々に未だ慣れません
③
しおりを挟む藤堂は血の気が引いた。
「ちょ、蝶々…
この部屋、ヤングの小泉に教えたんだっけ…?」
蝶々は漫画がいっぱい詰まっているダンボール箱を開けながら、何の気なしに頷いた。
「だって、私の編集者ですよ。 普通に教えます」
藤堂は顔面蒼白だ。
「じゃ、じゃあさ、お前が漫画を描いてる時に、小泉が来たりしたらどうするんだよ?」
「そこのソファで待っててもらいます」
藤堂は段ボールの中をガサガサ漁っている蝶々の手を握り、自分の方へ顔を向けた。
「だって、蝶々は全裸で漫画を描くんだろ?」
蝶々はうんざりした顔でため息をついた。
「すぐ洋服を着るようにします。でも、集中したら、忘れちゃうかもしれないけど」
藤堂は途方に暮れて蝶々を抱きしめた。
あ~、何で、俺の彼女は裸族なんだ…?
あの新婚小泉が、もし蝶々の全裸を見たら明日には奥さんと離婚してしまうに違いない。
「蝶々、俺、ヤバいかも…」
「何がですか?」
蝶々は藤堂の胸の中でまったりしながらそう聞いた。
「俺は、蝶々の事が心配で心配で、仕事も何も手につかないよ…
あ~、なんで一人暮らしを許したんだろう」
藤堂は打ちひしがれた顔で蝶々を見ている。
「蝶々がここで漫画を描く時は、小泉は俺の家で待たす事に決めた。蝶々が全裸でいるところを小泉が見たらなんて考えただけで、居ても立っても居られない」
藤堂には悪いけれど、藤堂が頭を悩ませている事は蝶々にとってはどうでもいい事だった。
「藤堂さん、明日から私は仕事が終わったら漫画を描く事に集中しますから。藤堂さんでも、私の邪魔をする事は認めません。
もし全裸がダメだとか服を着て描けとか言い出したら、私、藤堂さんと別れます。いいですか?」
藤堂は渋々頷いた。
蝶々が2ページの短編漫画に、自分の漫画人生を賭けているのは分かっている。その出来次第では、もしかしたらヤングの専属になることだってあるかもしれない。
藤堂はため息をついた。小泉に蝶々とつき合っている事がバレたって全然構わない。小泉を絶対にこの部屋に近づけない。後一か月ちょっと、藤堂は、蝶々のボディーガードに徹する事を心に誓った。
……ヤングの小泉なんかに蝶々の全裸を見られてたまるか。
小泉は日を追うごとにイライラが募っていた。
蝶々のアイディアは突拍子もなくて、たくさん持ってくるネームに目を通すだけで笑いが込み上げる。
そんな蝶々と小泉は、会社の勤務時間が終わった後に、何度もこのヤングの編集ブースで話し合いをした。もう締切もそんなに遠くないある日、二人は絶対的にいいネームを作り上げた。
「コマ割りも台詞も大体こんな感じで、後は蝶々さんの画力で絵を付けて下さい。
一応、2ページの読み切り漫画なので、もし、蝶々さんに余裕があればもう二作品くらい完璧に仕上げてほしいんですけど。絶対的推しの作品と、二番手三番手という感じで」
蝶々は漫画を描く事に関しては、量が多ければ多いほど幸せだ。
「分かりました。
それと、小泉さん、私は明日から仕事は定時で上がらせてもらいます。漫画に集中できるようにと、編集長と藤堂さんが気を利かせてくれて…
だから、夜は自分の部屋に籠ってますので、何かあったらそちらに連絡下さい」
蝶々は話し合いを済ませヤングの編集部を出て行こうとした時、後ろから小泉に呼び止められた。
「蝶々さん、もしよかったら、今から蝶々さんの家まで一緒に行っていいですか?
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小泉の熱心ぶりに蝶々は最高級の笑顔で頷いた。
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