ココロオドル蝶々が舞う

便葉

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ココロ踊る蝶々は夢へと舞う

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 石原と浅岡は声を上げて笑っている。蝶々はそんな二人を見て複雑な気分になった。笑わそうと思って描いた漫画じゃないのに何がそんなに面白いのだろう。


「蝶々、これ、最高にいいよ。
 前に見せてもらった長編の原稿は話がグダグダ過ぎて途中でリタイヤしたけど、この8コマギャグ漫画くらいがお前の良さが存分に出てる」


 蝶々は憤慨した。


「ギャグ漫画じゃありません!」


 そんな蝶々を見て浅岡までケラケラ笑っている。


「きっとそこがミソなんだ。蝶々はいたって真面目に描いているものがこんなに笑えるってことは、真面目に普通の日常を描けば結構イケるかもしれない」


 藤堂もまた始めから読み始めた。

……いや、何度読んでも笑える。



「何? 何? そんな面白い漫画があるなら俺にも読ませろよ」


 ファンキー里田の異名を持つ編集長が、楽しそうな様子に誘われてノリノリで二班へやって来た。


「蝶々の描いた漫画です。タイトルは“私は蝶々、何か文句あります?” 」


 編集長はワクワクした動きをしながら蝶々の元へやって来た。


「元漫画家志望の蝶々様の漫画を初めて読まさせていただきますぞ」


「へ、編集長、あの、違うんです…
 本当は元漫画家志望ではなくて、現在も漫画家志望なんです。
 私、漫画家になりたいんです!
 まだ、諦めていません!
 とか、ちょっと、言ってみちゃったりして…
 すみません……」


 里田は蝶々の思いがけない宣言に内心驚き、そして興奮した。ファンキーの異名を持つ里田も、実は漫画家崩れの編集者だ。蝶々の宣言は若かりし頃の自分を彷彿させたし、心を躍らせた。


「ほほ~ん、絵はやっぱり天才的に上手いな」


「は、はい、死ぬほど努力しました」


 蝶々は偶然の流れだとしても、ホッパーの編集長に自分の漫画を見てもらえているという事実に胸がソワソワした。
 里田はいつもの豪快な笑い声を立てる。


「蝶々、これは何のために描いた漫画だ?」


「後藤先生のお父様の西園寺順也様との話し合いの進め方というか、攻略法というか、藤堂さんに提出するレポートの代わりに描きました」


 里田は蝶々の話を聞き終わらない内にまた大声を出して笑った。


「絵だけで見たら身の毛がよだつほどのクオリティなんだが、内容がというか吹き出しの会話がコメディだな」


「コメディですか?
 私はいたって真剣に描いたんですが……」


 里田はその蝶々の捕らえ所のない発想にまた大笑いした。
 

「俺は気に入った。蝶々、お前の漫画は面白いぞ」


 里田はそう言いながら、もう一冊目も手に取りはしゃいでいる。


「編集長、あの話はどうなりましたか?」


 そんな里田に藤堂がある提案を持ちかけた。


「ヤングホッパーの特別号の見開き2ページの短編漫画の話。
 頼んでた先生が他の出版会社との兼ね合いで話が進んでないって言ってましたよね。確か最後の方のページだったので、その先生が乗り気じゃないと」


 里田はその事を思い出したのか、ノートから一度目を離した。


「あ~、そうだった…
 うちのホッパーの作家さんで誰かいい人がいないかって聞かれたな~」


 石原と浅岡はもう話の流れが分かり、里田の前に身を乗りだしている。


「編集長、うちの蝶々はどうでしょう?
 例えば、編集部内のあるある話をこのタッチで描けばメチャクチャ面白いかと」


 藤堂はここぞとばかりに蝶々の事を売り込んだ。


「題名はこのままで蝶々が思う日常の疑問を描いてもいい。ただでさえ、感覚がぶっ飛んでるから絶対面白いと思いますよ。もちろん、見開き2ページなので12コマか16コマの短編で」


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