ココロオドル蝶々が舞う

便葉

文字の大きさ
上 下
45 / 72
この蝶々は勇敢に空をも飛ぶ

しおりを挟む



 二時間近くかけて描き上げた漫画を蝶々が念入りに読み返していると、制作部との打ち合わせを済ませた藤堂が帰ってきた。


「藤堂さん、レポート仕上がりました。今から読んでもらえますか?」


 藤堂は満足気でやり切った顔をしている蝶々から一冊のノートを手渡された。石原と浅岡も二人のやり取りをじっと見ている。


「これは何?」


 藤堂の質問に蝶々は小さな声でこう答えた。


「あの、後藤先生のお父様との対決を漫画にしてみました。一応、三パターン描いてあります。活字で書くよりこっちの方がちゃんと伝えられると思って」


 藤堂は受け取ったノートをパラパラとめくってみた。


「なんか凄いことになってないか?」


「はい、登場人物は二人に設定してあります。本当はもっと時間をかけて描き込みたかったんですけど、この程度の物でごめんなさい」


 藤堂は最初の物語を読み始めた。蝶々が描いた自分自身のキャラが面白すぎる。どうすればこんな世界観になるのか、というか、こんな漫画のようなやり取りが現実に起こるはずがない。
 そうは思いつつ…
 藤堂は気がついたら声を上げて笑っていた。

 浅岡と石原も藤堂のデスクの横にきてその漫画を必死に読もうとしている。


「だめですって、これは秘密事項なんですから」


 蝶々は藤堂の脇に立ち、二人から藤堂をガードした。


「石原、浅岡、悪い。でも、いつかは絶対見せるから。もうちょっと待って」


 藤堂はもう堪えることもせず大笑いしている。


「藤堂さん、何がそんなに笑えますか?
 私、別にギャグ漫画を描いたつもりはないんですけど」


 藤堂は蝶々のその言葉に驚いた。

……え? これでギャグ漫画じゃない?


「藤堂さん、この私の提案を読んでちゃんと検討してくださいね。私はいつでも大魔王と会う準備はできてますので」


「大魔王と?」


 藤堂は蝶々がこんな作戦を本気で考えている事が可笑しくてたまらない。


「はい、もちろんです」


「でも、こんな風に取っ組み合いになってこのドロドロはどこから出てくるんだ?」


……こんなおもろい漫画を見ながらどうやって真剣に話し合いができるんだよ。


「これは~、だから~、実際には見えないかもしれませんが、ホルモンなんです」


……ホルモン??


「悪い、蝶々。お前は凄いよ。天才だ」


 藤堂は眉をしかめる蝶々の顔を横目で見ながら、それでも笑いが止まらなかった。




 結局、藤堂との話し合いは出来いまま、もう木曜日になっていた。蝶々は土曜日に西園寺順也に会うという予定は変えるつもりはない。でも、自分勝手に動くことにはやはり気が引けた。


「石原さん、今日は、藤堂さん、ずっと外出ですか?」


 石原は自分の担当漫画家のネーム締切のチェックをしていた。


「なんか、特別号に描いてもらうベテラン作家さんに編集長と挨拶に行ってる。静岡の方まで行ってるから一日かかると思うよ」


「あ~、そうなんですね…」


「蝶々、勝手に外出とかするなよ。急な仕事での外出以外は禁止にするようにって、藤堂さんに言われてるから」


 すると浅岡も会話に入ってきた。


「書き置きも無しだぞ。後藤に用事がある時は、後藤に来てもらえ。とにかく今は新人賞作品の感想と採点を表にまとめることが最優先。
 来週の編集者会議には絶対間に合わせることを忘れるなよ」


 蝶々は見張られている雰囲気に少々腹も立ったが、静かに席につき溜まっている仕事を片付け始めた。

……後で藤堂さんにメールを打っておこう。明日には絶対話し合いの時間を作って下さいと…



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...