ココロオドル蝶々が舞う

便葉

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蝶々は甘ったるい蜜がお好き

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そして、藤堂は、自分の愛すべき神聖なる部屋でグロ過ぎるホラー漫画を読んでいる。蝶々は食事と藤堂への報告と情熱的なキスを終えると、そそくさとこの部屋に閉じこもった。


「藤堂さんに薦められたこの漫画の続きがずっと気になってたんです。超エリート学園に入学してしまった普通の女の子がこれからどうのし上がっていくのか」


「のし上がるじゃないだろ?
 乗り越えて行くんだ。恋愛や友人関係や恋愛やで…」


 蝶々は漫画から目を離ししばらく考え込む。


「恋愛ってそんなにすごいものなんですか?」


 藤堂は床にしゃがみ込んで漫画を読んでいる蝶々を後ろから抱きしめた。


「愛は地球を救う。
 大げさかもしれないけど、人を愛する気持ちってどんな悪にも勝てると思うんだ。今、俺が読まされてる漫画に出てくる人間の負の感情から生まれたゾンビとかにもね」


 蝶々は振り返り藤堂の口をふさいだ。


「ゾンビにはゾンビの良さがあるんです。もう、ちゃんと最後まで読んでから感想は言って下さい」


「最後って、10巻もあるんだろ?」


「はい、二日もあれば読めますから、その後にコメントはお願いしますね」


 藤堂は蝶々を抱きしめたまま、大きくため息をついた。





 次の日、藤堂が担当漫画家との新連載の打ち合わせを終えてデスクへ戻ってきた時、蝶々の姿がないことに気がついた。


「蝶々は?」


 藤堂が石原にそう聞くと、石原は蝶々から預かったメモを藤堂に渡した。


“後藤先生を救うためちょっと出かけてきます、もちろん仕事です”


 藤堂は頭を抱え込んだ。


「何で止めなかったんだ?」


「え、だって、蝶々はもう藤堂さんは了承済みって言ってから」


 石原はあの時の堂々とした態度の蝶々を思い出していた。


「意気揚々と出て行きましたよ」


 石原のその言葉で藤堂は居ても立っても居られなくなる。何かをしでかす予感がして頭がクラクラするほどに。
 藤堂は、編集長から聞いた後藤の本名と実家の病院の住所が載った書類を探し始めた。

……行くとしたら実家か病院か。

 でも、藤堂はすぐに蝶々を追いかけるほど暇ではない。この後にも別の担当漫画家との打ち合わせが入っているし、その後は特別号発刊のために制作部資材課の人間との会議も入っていた。何事も起こらない事を祈るしかなかった。

……蝶々、頼むから、無事に帰ってきてくれ。





 蝶々はまずは後藤の母親に会おうと思った。後藤の口から父親への憎しみの話は出てくるが、母親の話は一度も出てこなかった。きっと母親なら蝶々の話に耳を傾けてくれるはず、そして可能であれば、捜索願を取り下げる作業を引き受けてくれるかもしれない。蝶々は大きな期待と希望を胸に抱いて、後藤の母親に連絡を取った。

 そして、その計画は蝶々が思い描いていた展開になった。今日の午前に連絡が取れ、今日の昼には会ってくれるという最高の展開だ。


「英世は元気にしてるんでしょうか?」


 西園寺英世。これが後藤心の本名だ。後藤の母親は、電話口で涙声でそう聞いてきた。蝶々はかいつまんで事情を説明し、後藤の近況を伝えるために会社の近くのカフェで会う約束を取り付けた。
 藤堂に相談せずに出てきたけれど、蝶々は必ず上手くいくと信じている。だって、息子を愛さない母親はいない、それがどんな事情を抱えた息子だとしても…

 蝶々は後藤の原稿を持ってそのカフェに向かった。チャンスがあるのなら、その原稿を読んでもらいたい。あなたの息子さんは10年に一度の天才なんですよと、声を大にして伝えたかった。


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