3 / 72
残念ながら華麗には舞えません
③
しおりを挟む打ち合わせを終え立ち上がった藤堂を、蝶々は呼び止めた。
「藤堂さん、やっぱり私、藤堂さんの事をゴッドって呼びたいんです。
ゴッド、ダメですか?」
奥に座っている石原と浅岡は顔を見合わせ、藤堂に見えない場所に顔を向け笑うのを必死に我慢した。
「蝶々、編集長が言ってた事をもう忘れたのか?
後藤君は蝶々の見た目の可愛いさに夢中になってるんだ。俺をゴッドなんて呼んだら、彼は、絶対蝶々の性格に疑問を抱く。それはヤバいだろ?」
蝶々は大きな瞳を見開いて藤堂を見ている。
「何がヤバいんですか?
私はゴッドの全てを盗みたいと思ってます。後藤先生を成功者にするためにも、私がゴッドに近づかなかきゃ話にならないんです」
「近づかなくていい、俺が迷惑だ。それに俺はまだゴッドって呼んでいいと許可してない」
「ゴッド……
私は負けませんから。その藤堂さんの崇高な脳みそを空っぽになるまで吸い尽くすまでは…
……きっと、美味しいでしょうね、ゴッドの脳みそは…」
藤堂は天を仰ぎ大きくため息をついた。石原達の笑いを堪えた顔が、視界の片隅に入っているのに気付いてはいたけれど…
そして、いよいよ、ホッパー期待の新進気鋭漫画家、後藤心に対面する日がやってきた。
人見知りで出不精の後藤をこのビルまで呼び出すのにかなり時間を費やしたが、藤堂は、まずはここに後藤を来させる事にこだわった。
「蝶々、とにかく、編集者がなめられちゃ話にならない。
お互い新人同士意気投合するのは悪くはないけど、でも絶対にお前が立ち位置は上になるように心掛けろ。
あまり喋らない、言う事も聞かない、自分の頭の中の世界に住んでるような奴だから、上手にこっちの世界に連れ戻すことを忘れるなよ」
蝶々はまたスケジュール帳に藤堂の言葉をメモしている。
「蝶々、そのメモ取りは必要ない。ちゃんと、頭の中に入れろ」
「……はい」
蝶々は少しだけしゅんとなった。
「藤堂さん、後藤先生は自分の頭の中に住んでる人なのでしたら、私がその後藤先生の頭の中にお邪魔させていただくのはどうでしょう?
私も実際自分の頭の中の住人なので、お互いの頭、いわゆるホームグランドを行ったり来たりできる仲になれればベストなのではと思っています」
また、始まった……
意味不明の蝶々ワールド…
「却下。行き来するのはここと後藤の仕事場だけでいい」
「……はい、了解しました」
本当に了解してるのだろうか……?
今日の蝶々は髪を上の方で結び、年齢より少し幼く見える。
「蝶々、後藤君と会う前に、その髪下せるか?」
「髪ですか?」
今、蝶々のデスクは藤堂の隣にある。蝶々にとってこの仕事が正念場だと思ってる石原達が、蝶々のデスクを藤堂の隣に引っ越しさせたのだ。
「その髪型はちょっと幼く見えるから、下した方がいいと思うんだ。大人の女を演出するぞ」
藤堂はそうは言いながらも、自分的には後ろに束ねた蝶々の髪型を気に入っていた。特に蝶々の真っ白いうなじが大好きだ。クレージーなあの性格さえなければ、蝶々は藤堂にとってドストライクの女性だった。
「いいですよ~」
蝶々はそう言いながらまたあのほっこりした笑顔を浮かべ、その場で髪を解いた。一瞬で蝶々の髪の甘い香りが一面に漂う。蝶々の媚薬が藤堂を襲ってくる。釘付けになって蝶々を見ている藤堂の前で、蝶々は解いた髪を首を振ってほぐした。
……しっかりしろ、和成。
こいつはうさぎの面をした小悪魔だぞ。
藤堂はそう自分に言い聞かせながら、無意識に何度も頭を振った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる