22 / 26
一章 第二部
一章 第二部 実践と、少女の覚醒(※注 起きるという意味。決して何かの力に目覚めたわけではない)
しおりを挟む
「……は?」
アヌビス、今、なんて言った?
あの複雑な模様を描け…… と?
「アヌビスー いくら何でも冗談はやめろよー」
「いえいえ。冗談ではなくてですね……」
やっぱり、冗談ではなかったか。
「ほんとに…… 描くのか?」
「はい。あ、描くものありませんでしたね…… はい。コレをどうぞ」
先ほど、アヌビスが使っていた白い石を渡される。
……どうやら、アヌビスは本気で僕に描かせるつもりらしかった。
…………
…………くそっ!
「どうなっても知らないからな!」
沈黙に耐えられなくなった僕は、半ばやけくそ気味に白い石を地面にこすりつける。
一応さっきアヌビスが描いていたのを意識して…… あれ?
「でき…… てる?」
僕が適当に白い石を動かした先には先ほど見た模様とそっくりそのまま同じものができていた。
「成功です」
「え……? でも、僕……」
特にできていたという感覚はない。なにせあの模様は、じぶんで描いたものではないのだから。いや、正確に言うと、僕の手を使って、他の誰かが描いたように感じるだけだ。
「道具を使う魔法っていうのは基本的思想言うもんです。魔方陣とかは一発で誰でも使うことができます。まあ、『使える』と『使いこなせる』の間には大きな隔たりがあるわけですが……」
そんな僕の疑問を読み取ったのか、アヌビスは小さくそんなことを言う。
「ま、一応習得できたみたいですし、時雨さん。テントのところへ戻りましょうか。もうすぐ日も昇りますし」
「え、でも魔法は……」
「私に、いい考えがあります」
アヌビスはそう言って、いたずらっぽく笑った。
◆◇◆
「ん……?」
時間は少し戻り、アヌビスと時雨が結界魔法の実習をしている夜明けと日の出の間の時間帯。
時雨の用意してくれたベッドに眠っていた少女はおもむろに目を覚ました。
「なんだい…… これ……」
焦点の合わない瞳でじぶんの上に掛けられているものを見つめ、数秒かけてそれがふとんだということを認識する。
「ボクは…… いったい……?」
記憶が混乱していた。
昨日、何かとても大切なものを目の前で奪われた気がする。
しかし、それが何かはどうしても思い出せない。
そして、自分がここにいる理由は……?
「でも、いい方法って一体何なんだ?」
「それは…… 後のお楽しみですよ」
不意に男女の声が聞こえ、その少女は慌てて布団をかぶり、目を閉じる。
布のこすれる音がして、二人組のうち女の方がテントの中に入ってきた。
「まだ寝てますか…… ま、それならそれでいいです」
女は、すぐにテントから出て行った。
――あの人たちは…… このテントの持ち主? でもなんで……?
起きているのを知られるのはまずいと思い、頭の中だけで呟く少女。
一体何があったのか。
少女は一人、思考を巡らせるのだった。
「どうだった?」
「まだです。しかし息はしていそうだったので、まだ生きてはいると思います」
「なあ…… あの人は、そんなにひどいのか?」
「いえ…… 外傷はほとんど治りました。ですが……」
「心の傷…… か……」
あの人の前に倒れていた首無しの死体。
結局、首は見つからなかった。
あのとき、確かにあいつが持っていたはずなのだが。
まるで消滅したかのように、消え去ってしまっていたのだ。
「ま、分からないことは置いておきましょう。時雨さん、寝ます」
「は? 寝るって、一体……?」
これから魔法の実習をするんじゃないのか? それとも夢の中で……?
「多分、時雨さんが考えているとおり、夢の中で訓練を行うんですよ」
「夢の中で? でも、どうやって……?」
「あ、それは…… 神様的な力ってことで。まあ、あの風呂敷も、さっきの訓練用の機械も神具レベルのチートアイテムですからね。不可能はありません。あ、もちろん時雨さんには差し上げられませんよ?」
こいつ…… 僕の思考を先回りしてたか……
まあ、無理なものは仕方ない。大体、そんなチートを使ったって、面白いとは言えないだろう。きっと柊がキレる。
「では」
「ああ」
「「おやすみなさい」」
僕とアヌビスは向かい合ってそう言うと、仲良く地面に寝転がり、瞼を閉じたのだった。
アヌビス、今、なんて言った?
あの複雑な模様を描け…… と?
「アヌビスー いくら何でも冗談はやめろよー」
「いえいえ。冗談ではなくてですね……」
やっぱり、冗談ではなかったか。
「ほんとに…… 描くのか?」
「はい。あ、描くものありませんでしたね…… はい。コレをどうぞ」
先ほど、アヌビスが使っていた白い石を渡される。
……どうやら、アヌビスは本気で僕に描かせるつもりらしかった。
…………
…………くそっ!
「どうなっても知らないからな!」
沈黙に耐えられなくなった僕は、半ばやけくそ気味に白い石を地面にこすりつける。
一応さっきアヌビスが描いていたのを意識して…… あれ?
「でき…… てる?」
僕が適当に白い石を動かした先には先ほど見た模様とそっくりそのまま同じものができていた。
「成功です」
「え……? でも、僕……」
特にできていたという感覚はない。なにせあの模様は、じぶんで描いたものではないのだから。いや、正確に言うと、僕の手を使って、他の誰かが描いたように感じるだけだ。
「道具を使う魔法っていうのは基本的思想言うもんです。魔方陣とかは一発で誰でも使うことができます。まあ、『使える』と『使いこなせる』の間には大きな隔たりがあるわけですが……」
そんな僕の疑問を読み取ったのか、アヌビスは小さくそんなことを言う。
「ま、一応習得できたみたいですし、時雨さん。テントのところへ戻りましょうか。もうすぐ日も昇りますし」
「え、でも魔法は……」
「私に、いい考えがあります」
アヌビスはそう言って、いたずらっぽく笑った。
◆◇◆
「ん……?」
時間は少し戻り、アヌビスと時雨が結界魔法の実習をしている夜明けと日の出の間の時間帯。
時雨の用意してくれたベッドに眠っていた少女はおもむろに目を覚ました。
「なんだい…… これ……」
焦点の合わない瞳でじぶんの上に掛けられているものを見つめ、数秒かけてそれがふとんだということを認識する。
「ボクは…… いったい……?」
記憶が混乱していた。
昨日、何かとても大切なものを目の前で奪われた気がする。
しかし、それが何かはどうしても思い出せない。
そして、自分がここにいる理由は……?
「でも、いい方法って一体何なんだ?」
「それは…… 後のお楽しみですよ」
不意に男女の声が聞こえ、その少女は慌てて布団をかぶり、目を閉じる。
布のこすれる音がして、二人組のうち女の方がテントの中に入ってきた。
「まだ寝てますか…… ま、それならそれでいいです」
女は、すぐにテントから出て行った。
――あの人たちは…… このテントの持ち主? でもなんで……?
起きているのを知られるのはまずいと思い、頭の中だけで呟く少女。
一体何があったのか。
少女は一人、思考を巡らせるのだった。
「どうだった?」
「まだです。しかし息はしていそうだったので、まだ生きてはいると思います」
「なあ…… あの人は、そんなにひどいのか?」
「いえ…… 外傷はほとんど治りました。ですが……」
「心の傷…… か……」
あの人の前に倒れていた首無しの死体。
結局、首は見つからなかった。
あのとき、確かにあいつが持っていたはずなのだが。
まるで消滅したかのように、消え去ってしまっていたのだ。
「ま、分からないことは置いておきましょう。時雨さん、寝ます」
「は? 寝るって、一体……?」
これから魔法の実習をするんじゃないのか? それとも夢の中で……?
「多分、時雨さんが考えているとおり、夢の中で訓練を行うんですよ」
「夢の中で? でも、どうやって……?」
「あ、それは…… 神様的な力ってことで。まあ、あの風呂敷も、さっきの訓練用の機械も神具レベルのチートアイテムですからね。不可能はありません。あ、もちろん時雨さんには差し上げられませんよ?」
こいつ…… 僕の思考を先回りしてたか……
まあ、無理なものは仕方ない。大体、そんなチートを使ったって、面白いとは言えないだろう。きっと柊がキレる。
「では」
「ああ」
「「おやすみなさい」」
僕とアヌビスは向かい合ってそう言うと、仲良く地面に寝転がり、瞼を閉じたのだった。
0
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
コピー使いの異世界探検記
鍵宮ファング
ファンタジー
雪が降り始めた北海道のとある街。陽山 託舞(ひやま たくま)はいつも通りの変わり映えのない日常を過ごしていた。
いつものように登校し、いつものように勉強し、そしていつものように飯を食い、帰る。そんな日々を過ごしていたある日の帰り道、近道として使っていた公園の階段から何者かに突き落とされ、タクマはそのまま帰らぬ人となってしまった。
しかし、目を覚ましたその先は、天国とは程遠く、気持ち悪い程に真っ白に塗り潰された部屋が広がっていた。更に、突然目の前に「転生を司る神」と名乗る金髪の少年が現れ、タクマに“死とは何か”と言う持論を展開した。
それから、少年はタクマに異世界の大陸『デルガンダル』へと転生する旨を説明した後、ギフトとして3枚のカードを見せ、選ぶように言う。だが、その“ギフト”には“対価”と言うある種の縛りも設けられる事も同時に伝えられた。
『転生者だけが使える特別な魔法』を得る代わりに、他の魔法の取得が不可能になる。若しくは、特定の武器種以外は使えなくなる。
『ステータスカンスト』の代わりに、対となるステータスが極端に下がってしまう。
『魔王として世界を支配できる』代わりに、勇者となる存在には効果が適さず、無残な最期を遂げ、地獄に堕ちる。
そんなリスクありきなギフトの中、タクマは考えに考え抜き、“敵の魔法”をコピーして、一度だけ放つ事のできる特殊魔法『コピー』をもらうと決した。
これで第二の人生も楽しめる。そう思った矢先、神の電話に通知が入る。
「デルガンダルにて、魔王が復活した」
その一大事を前に、タクマは「乗った!」と協力する事を決心した。
かくして、タクマはデルガンダルに蠢く闇を倒す為、剣とギフトの魔法で立ち向かうのだった。
同作品を「小説家になろう」「ノベルバ」「ノベルアップ+」「カクヨム」「エブリスタ」にて連載中!
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―
小松菜
ファンタジー
*プロローグ追加しました。
狼型改造人間 唯桜。
水牛型改造人間 牛嶋。
蛇型改造人間 美紅。
『悪の秘密組織 ヤゴス』の三大幹部が荒廃した未来で甦った。その目的とは?
悪党が跳梁跋扈する荒廃した未来のデストピア日本で、三大怪人大暴れ。
モンスターとも闘いは繰り広げられる。
勝つのはどっちだ!
長くなって来たので続編へと移っております。形としての一応の完結です。
一回辺りの量は千文字強程度と大変読みやすくなっております。
異世界に転移したからモンスターと気ままに暮らします
ねこねこ大好き
ファンタジー
新庄麗夜は身長160cmと小柄な高校生、クラスメイトから酷いいじめを受けている。
彼は修学旅行の時、突然クラスメイト全員と異世界へ召喚される。
転移した先で王に開口一番、魔軍と戦い人類を救ってくれとお願いされる。
召喚された勇者は強力なギフト(ユニークスキル)を持っているから大丈夫とのこと。
言葉通り、クラスメイトは、獲得経験値×10万や魔力無限、レベル100から、無限製造スキルなど
チートが山盛りだった。
対して麗夜のユニークスキルはただ一つ、「モンスターと会話できる」
それ以外はステータス補正も無い最弱状態。
クラスメイトには笑われ、王からも役立たずと見なされ追放されてしまう。
酷いものだと思いながら日銭を稼ごうとモンスターを狩ろうとする。
「ことばわかる?」
言葉の分かるスキルにより、麗夜とモンスターは一瞬で意気投合する。
「モンスターのほうが優しいし、こうなったらモンスターと一緒に暮らそう! どうせ役立たずだし!」
そうして麗夜はモンスターたちと気ままな生活を送る。
それが成長チートや生産チート、魔力チートなどあらゆるチートも凌駕するチートかも分からずに。
これはモンスターと会話できる。そんなチートを得た少年の気ままな日常である。
------------------------------
第12回ファンタジー小説大賞に応募しております!
よろしければ投票ボタンを押していただけると嬉しいです!
→結果は8位! 最終選考まで進めました!
皆さま応援ありがとうございます!
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
異世界転生は、0歳からがいいよね
八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。
神様からのギフト(チート能力)で無双します。
初めてなので誤字があったらすいません。
自由気ままに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる