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一章 第一部
一章 第一部 凄惨
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「嘘…… だろ?」
明かりに照らされた『それ』を見て、僕の足は完全に止まってしまった。
猛烈な血のにおいは先ほどから感じておいたが、アヌビスにあんなかっこいいことを言った手前、我慢していたのだ。
しかし、そうしていられるのも、もう限界だった。
『それ』は、現実とは思えない、そんな物体だった。
「大、丈夫ですか…… 時雨さん…… 私にあんなかっこいいことをいってくださったんですから、もっと頑張ってくださいよ……」
僕を叱咤するアヌビスの声も、心なしか震えていた。
しかし、それを責めることはできない。
今、僕たちの目の前にあるのは、人の…… いや、この世界の人、つまり魔人の死体の山だった。
僕が気ほど小さな山だと思っていたテントたちの後ろにあったもの。
それは何百という魔人の死体の山だったのだ。
血のにおいはする。だが腐臭はしない。
つまり、あまり殺されてから時間がたっているわけではないだろう。
そして僕は、はっと一つのことに気がついた。
……柊や乃綾が、もしこの山の一部になっているとしたら?
「アヌビス! 柊と乃綾は!? 大丈夫かどうか分かるか!?」
柄にもなく大きな声を出してしまう。
しかし、そのときの僕はとても取り乱していた。
アヌビスの肩を掴み、乱暴に揺さぶる。
「なあ! 柊と乃綾はどうなんだよ! 何で下向いてるんだ! お前は神なんだろ! 分かるよな! なぁ!」
「……わかりません」
……思考が、真っ白になった。
いや、それはそれで良かったのかもしれない。
僕はアヌビスの肩から力なく腕を下ろし、そしてその場に膝をつく。
「こんな…… ことって……」
柊と乃綾のことも心配だが、一瞬思考が停止したおかげで、少し冷静になれた。
柊と乃綾がこの山の一部になっているとは限らない。そうだろう?
それに、これだけの死体だ。全員が真っ赤に染まっているのが炎に照らされていることで分かる。
この中から捜し物をするのは、不可能に近かった。
「……声の、主を探しましょう…… まだ誰か生きて……」
「やめろ!!!」
いるかもしれない、そう続けようとしたアヌビスの言葉は誰かが発した大声によって妨げられた。
「!? 今の…… 声は……?」
「あっちからです! 行きましょう!」
慌てるアヌビスに再度手を引っ張られて、僕は死体の山の隣を通過した。
「……止まります」
アヌビスの声に、僕は走る速度を少しずつ緩めていった。
どれだけ大きな声だったのか。
いや、距離的にはそこまで長くないのだろうが、この辺りには自然にできた石の塔みたいなものが多く、ぐねぐねと進んだから、とても長く走ったように感じる。
沢山ある岩の塔の一つにアヌビスは隠れ、僕もそれを真似た。
テント置き場から少し離れた場所。そこにぽつんと一つの松明と、二つの人影があった。
一人は何故かうずくまり、もう一人は何かを右手に持ち、掲げながらうずくまっている方に何かしゃべ りかけているようだった。
さて、あいつは何を持って…… い、る……?
じっと目をこらすと、それの形は容易に分かった。
しかし、脳が認識することを拒否している。
隣にいるアヌビスを見ると、青ざめた顔で口を押さえていた。
……認識するしかない。
その片方が持っているのは人の顔だった。
おそらく女性。いや、長い髪の男という線も考えられる。
「な、なあアヌビス…… デュラハンって、そこら中にごろごろいたりするの?」
震える全身をなんとかなだめようと、僕はアヌビスにおそるおそる聞いた。
まあ、答えは分かっているのだが。
「そんな…… デュラハンなんて希少種、大陸に一人いたらいい方ですよ……」
……やはりか。
片方の人影が持っているのは、正真証明、刈り取ったばかりの生首だった。
明かりに照らされた『それ』を見て、僕の足は完全に止まってしまった。
猛烈な血のにおいは先ほどから感じておいたが、アヌビスにあんなかっこいいことを言った手前、我慢していたのだ。
しかし、そうしていられるのも、もう限界だった。
『それ』は、現実とは思えない、そんな物体だった。
「大、丈夫ですか…… 時雨さん…… 私にあんなかっこいいことをいってくださったんですから、もっと頑張ってくださいよ……」
僕を叱咤するアヌビスの声も、心なしか震えていた。
しかし、それを責めることはできない。
今、僕たちの目の前にあるのは、人の…… いや、この世界の人、つまり魔人の死体の山だった。
僕が気ほど小さな山だと思っていたテントたちの後ろにあったもの。
それは何百という魔人の死体の山だったのだ。
血のにおいはする。だが腐臭はしない。
つまり、あまり殺されてから時間がたっているわけではないだろう。
そして僕は、はっと一つのことに気がついた。
……柊や乃綾が、もしこの山の一部になっているとしたら?
「アヌビス! 柊と乃綾は!? 大丈夫かどうか分かるか!?」
柄にもなく大きな声を出してしまう。
しかし、そのときの僕はとても取り乱していた。
アヌビスの肩を掴み、乱暴に揺さぶる。
「なあ! 柊と乃綾はどうなんだよ! 何で下向いてるんだ! お前は神なんだろ! 分かるよな! なぁ!」
「……わかりません」
……思考が、真っ白になった。
いや、それはそれで良かったのかもしれない。
僕はアヌビスの肩から力なく腕を下ろし、そしてその場に膝をつく。
「こんな…… ことって……」
柊と乃綾のことも心配だが、一瞬思考が停止したおかげで、少し冷静になれた。
柊と乃綾がこの山の一部になっているとは限らない。そうだろう?
それに、これだけの死体だ。全員が真っ赤に染まっているのが炎に照らされていることで分かる。
この中から捜し物をするのは、不可能に近かった。
「……声の、主を探しましょう…… まだ誰か生きて……」
「やめろ!!!」
いるかもしれない、そう続けようとしたアヌビスの言葉は誰かが発した大声によって妨げられた。
「!? 今の…… 声は……?」
「あっちからです! 行きましょう!」
慌てるアヌビスに再度手を引っ張られて、僕は死体の山の隣を通過した。
「……止まります」
アヌビスの声に、僕は走る速度を少しずつ緩めていった。
どれだけ大きな声だったのか。
いや、距離的にはそこまで長くないのだろうが、この辺りには自然にできた石の塔みたいなものが多く、ぐねぐねと進んだから、とても長く走ったように感じる。
沢山ある岩の塔の一つにアヌビスは隠れ、僕もそれを真似た。
テント置き場から少し離れた場所。そこにぽつんと一つの松明と、二つの人影があった。
一人は何故かうずくまり、もう一人は何かを右手に持ち、掲げながらうずくまっている方に何かしゃべ りかけているようだった。
さて、あいつは何を持って…… い、る……?
じっと目をこらすと、それの形は容易に分かった。
しかし、脳が認識することを拒否している。
隣にいるアヌビスを見ると、青ざめた顔で口を押さえていた。
……認識するしかない。
その片方が持っているのは人の顔だった。
おそらく女性。いや、長い髪の男という線も考えられる。
「な、なあアヌビス…… デュラハンって、そこら中にごろごろいたりするの?」
震える全身をなんとかなだめようと、僕はアヌビスにおそるおそる聞いた。
まあ、答えは分かっているのだが。
「そんな…… デュラハンなんて希少種、大陸に一人いたらいい方ですよ……」
……やはりか。
片方の人影が持っているのは、正真証明、刈り取ったばかりの生首だった。
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