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一章 第一部

一章 第一部 魔法との出会い

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「はい。えっとですね…… 私がこれを教えるというのは、なんとなく気が引けるのですが……」

 ためらいがちにアヌビスは言いながら、地面に落ちてあった石ころを拾い、僕に投げてくる。
 放物線さえ描いているように見えない、完璧な直線で。

「おっと、何すんだよ、危ないなあ……」
 
 目線は腕より低いところにある。だが、さっきまで自分の顔を投げ続けて慣れでもしたのか、その石ころはかんたんに手に収めることができた。

「いえ…… 時雨さん、もう一回だけ、頭投げてもらって良いですか?」
 
 アヌビスは僕が手の中に石ころを受け取ったのを見て、満足そうにそう言った。
 
 正直のところ、体力的には回復したが、気分的には回復していないので、あまり激しい運動はしたくなかっのだが…… まあ、仕方ないしやってみるか。

「……分かった」
 
 僕はそう答え、頭を自分の身体の真上に投げようとする。
 ちょうど下から上へ勢いよく押し上げるようにし、そして手が離れた、瞬間。

 僕は先ほどまで自分の頭を投げていたのとは明確な違いを体験した。
 ぶれないのだ、視界が。
 先ほどは左右に揺れすぎてもはや何を見ているのかも分からなかったはずなのに、今はぴたりと真下、つまり自分の身体を見下ろしながら上へ上へと上がって行っていた。
 そして一瞬、ふわりと何も感じなくなったと思うと……
 先ほどまで遠ざかっていたはずの僕の体が、猛スピードで近づいていた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! アヌビス! 助けっ! ちょっと待ってこれほんとにまずいからぁぁぁぁぁ!」 

 僕は泣き叫びながら落ちていた。
 地面へ向かって。
 首だけで。
 どんどんどんどん地面が近づいてくる。
 ものすごいスピードだ。
 このまま僕は地面に激突して死んでしまうのだろうか。
 頭のなくなったデュラハン。
 切り離された頭がぐちゃぐちゃにつぶれてしまえば、残った身体はどうなるのだろう。
 意外と新しい頭が生えてきたりするのだろうか。
 そして…… この状況でそんなことを考えられる僕は頭がおかしいのだろうか。
 まあ、もういい。記憶がフラッシュバックし、走馬燈が見える。
 これが死に直面するということナのだと理解し、僕が静かに目を閉じると……

『ストップ』という声が聞こえた。



「凄かったな…… あれ」

 僕は自分の頭を抱えながら、隣で座っているアヌビスに声をかけた。
 
「ええ。まさか高さの調節もできずに死にそうになるとは…… いくらデュラハンとはいえ、高いところから落ちたら死にますよ?」
「はい。以後気をつけます」
「分かればよろしい」

 僕のことは、アヌビスが難なく助けてくれた。
 先ほど聞こえたあの声、あれは呪文の詠唱だったらしい。
 『停止魔法』アヌビスに聞くところによると、念じたもの一つの動きを完全に停止できる魔法らしい。
 一つのものの動きを完全に停止できるなんてチートじゃないかとは思うが、この世界では日常茶飯事だということだ。

「なあ、アヌビス、なんで僕はさっき頭をまっすぐに投げれたんだ?」

 するとアヌビスは答える。

「それはですね……」

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