闇より来たりし者

平坂 静音

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血鎖 一

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 食欲はまったく無かったけれど、それでも夕方になるとコンビニで買ったおにぎりだけは、自室でポットで沸かした白湯さゆと一緒になんとか口にした。
 不思議なもので、食欲もなくて、滅入めいりつづけていた気分が、温かいお湯とおにぎりひとつで、かなりましになってくる。エネルギーが湧いてきて、どうにかなるんじゃないかという気になってきた。やっぱり胃腸にはお米が一番いいみたい。
 そうだ。トヨールたちが現れたら、はっきりと決着をつけよう。そうでないと、この先の人生、一生あいつらにつきまとわれる気がする。
 いったん決心してしまうと、自分でも驚くほど気が強くなってきた。
 けっして私は攻撃的な性格じゃないと思っていたし、どちらかといえば地味で目立たないタイプだと自覚している。その自分のどこに、こんな勇気というか、強気がひそんでいたのかと、私自身でもあきれてしまった。
 思い出せば、高校時代、嫌いなクラスメートに負けたくないという想いで必死に受験勉強していたことがあったけ? 
 私は自覚していなかっただけで、案外負けず嫌いな気性だったのかも。結局は、私もあの曾祖母の血をひいているということなのかもしれない。
 美代お祖母ちゃんは、自分で気づいていたかどうかわからないけれど、娘である幸恵さんを犠牲にした。私は、そうなってはいけない。何があろうと、私のところでトヨールたちときっぱり縁を切らないと。そうでないと、もし将来、好きな人ができてその人との間に子どもを持ったとき、子どもに災いの種をもたらすことになってしまう。
「よし! 来るなら、来なさいよ!」
(呼んだ?)
 私は悲鳴をあげそうになった。

 くすくすくす……と、そんな声か音が聞こえてきそうだ。
(何、怯えているのよ? 自分の方から呼んだんじゃなかったの?)
 声は、ミミのものだった。私はせいいっぱいジーンズのなかのお腹に力を入れ、床に置きっぱなしにしていた針の包みに目をやる。大丈夫、これがある。
(あら……? 何だか部屋の空気がちがうわね)
 もやもやと、灰色の霧のようなものが宙に浮かびあがり、それが少女の身体のシルエットを作る。気のせいか、やや身長が高くなり、胸の辺りもさらにふくらんでいる。
「き、来たわね、妖怪!」
 自分に発破はっぱをかけるつもりで、わざと乱暴な口調になってみた。足が震えそうだ。
(妖怪は、あんまりじゃない? せめて妖精とか精霊とか言ってくれない?)
 その話しぶりは今時の普通の女の子のようだ。
「あ、あいつはどうしたの?」
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