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戦い 一
しおりを挟む先日アレクッスたちと会ったドトールに着くと、そこにはすでにアレックスが前回とおなじ席に座って待っていた。
黒シャツと濃紺のジーンズという、いたってあっさりした装いなのに、薄暗い店の奥で、細身の脚をスマートに組んで座っている様子はひどく神秘的で、エキゾチックに見える。
遠い国……遠い星から来た不思議な人……。私はつい先ほどの怖ろしい体験も忘れて、胸がときめくのを自覚した。ジーンズじゃなくてスカートで来れば良かった、などと馬鹿なことを考えてしまう。
そして今日はリーレンさんがいないことも……すこし嬉しかった。
「どうしたんです? そんな息せき切って。顔色も真っ青ですよ」
「あ、あの……」
私は言葉をとぎれさせながらも、経緯を説明した。トヨールたちが昼間にも出てきて、逃げようとして危ない目にあったことも。
アレックスは長い眉をしかめた。
「とりあえず、何かたのんで来ませんか?」
「あ、そうね」
私がよっぽど慌てて入って来ていたせいか、それほど広くない店のカウンター向こうから、店員が怪訝そうな視線をおくってきている。私はあわててランチセットをたのむために動いた。
「どうやら……トヨールたちは強くなってきているのかもしれません。予想外ですね」
私がコーヒーとサンドイッチを持って帰ってくると、アレックスは真剣そのもの表情で言った。
「落ち着きましたか? ここは大丈夫です。一応、簡単に結界を張っておきましたので」
結界? 日常生活で聞き慣れない言葉を聞かされて、私は目を見張った。
アレックスは紅茶色の顔で悪戯っぽく笑う。本人は自覚していないのかもしれないけれど、少しずるそうな顔がとても魅力的だ。
「驚かないでくださいね。私は短期間だけですが、一応、ボモーに弟子入りして、少しながら呪術師の勉強をしたのです」
「じゅ、呪術の勉強ですか?」
「こういうこと日本人のあなたに言うと、変な目で見られるとは覚悟していたのですが」
「え? いえ、そんなこと」
数日前だったら、びっくりして疑ったかもしれないけれど、あのトヨールたちを見てしまうと、もう幽霊とか、妖怪とか、霊的なものを否定することはできない。私は、この目でしっかりとあの連中を見てしまったのだから。
「トヨールは、作り主の命令には忠実だと言われ、もし作り主が亡くなれば、その後は子に、子が亡くなれば、孫に仕えることになっているのです。ヨーロッパの使い魔や妖精などとちがって、一度や二度のたのみ事で縁が切れたり、霊能者や魔術師当人が死ねば終わってしまうような繋がりではなく、子々孫々、末代まで主従関係がつづくと聞いています」
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