闇より来たりし者

平坂 静音

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(いろいろ面白いものを見れたしね)
(そうそう。知ってるかい? あんたが寮長って呼んでた、あの冴えない女)
 信楽寮長のことだ。
(あの女、けっこう年上の男と付き合っているよ。男のことを岡田教授って呼んでた)
 えっ? 私は口をぽかんと開けてしまった。
 英文学の岡田教授? けっこう生徒に人気のある教授だけれど、たしか結婚していてお子さんもいるはず。まさか、あの寮長が妻子ある男性と不倫?
(それに、あんたにくっついていろいろ見ていたけれど……気をつけろよ。磯田って女、あんたのこと好きみたいだぜ)
「嘘……」
 言われたことのあまりの意外さに、私は飛びあがるほど驚いた。
(磯田って女、ずっとあんたのこと見ていて、どうにかしてあんたと仲良くなりたいと思っているんだ。勿論、ただの友達としてじゃないぜ。ああいうの、レズってあんたたちは言うんだろう?)
 男の子の口調は柄が悪くなっていて、私は不愉快になってきたけれど、話には気をひかれた。
「レズなのは、須藤みゆきだと思っていた……」
(その須藤みゆきっていう女もレズよ。そっちはそっちで、あんたの友達の麻衣を狙っているみたい。まぁ、女ばかりの世界じゃよくあるみたいね)
 ……私はどう答えていいかわからず、また呆然としてしまっていた。もうずっと呆然としている。
(しかもね……、須藤みゆきっていう女は、金持ちのオバサン相手に売春もしてるわよ)
「まさか!」
(そのうえ、病気持ちよ)
「え、まさか、癌?」
 病気と聞いてとっさにそんな言葉を発した私を、トヨールたちは笑った。
「あっちの病気よ。もとは男からうつされたみたいだけれど。金をもらえることに慣れてしまって、男相手にもやっていたのよ。それで悪い病気をもらってしまったの。梅毒っていうの? その病気が頭にもまわってきてるんじゃないの?」
 梅毒? 昔のドラマとかで聞く性病の梅毒? ……といってもどんな病気かはよく判らないけれど。そういえばスマホのニュースかなんかで最近そういう病気が流行はやっていると読んだことがある。
 それにしても、見た目は子どもめいた影が、そんなことを平気で言うのに呆れた。同時に、自分をとりまく環境すべてがどんどん汚れたものに思えてきて、不愉快でたまらない。
(きゃははははは)
(あはははは)
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